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はじまりの夜 #3 ✱

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 欲情に駆られた雄のような表情で私のことを翻弄していた窪塚がハッとしてすぐ、ふうと吐息を吐いた。

 どうしたのかと思っていると、独り言ちるように呟きを落とす。

「……本当に鈴は、俺のことを煽る天才だな」
「……?」

 さっき軽く達した余韻のせいで意味が理解できない。キョトンと見つめ返すのが精一杯。

 そんな私のことを悩ましげな表情で見遣ってから、自分に寄りかかっていた私の身体をヒョイと横抱きにした。

「ギャッ!?」

 お決まりの色気皆無の短い悲鳴を放った私に、柔らかい笑みを浮かべるだけで無言でスタスタと歩みを進ませる窪塚。

 そういえば、心の中でずっと『窪塚』と呼んでるけど、私も同じ『窪塚』なんだっけ。早く慣れるためにも今から『圭』と呼ぶことにしよう。

 そんなことを思っている間に、お姫様抱っこでリビングダイニングからベッドルームへと移動していた。

 圭にすぐ手前のベッドの上へとふわりと下ろされ、あっという間に組み敷かれ見下ろされている。

 何かを必死に堪えているような苦しげな表情だ。

 余裕がないながらも、なんとか暴走しないように自分を抑えようとしてくれているように見える。

 その様子に胸をキュンとさせているとぎゅうぎゅうに抱き込まれた。

「今日の鈴のウェディングドレス姿、メチャクチャ綺麗だった。誰の目にも触れないように、ずっと閉じ込めておきたくなるくらい。凄い綺麗だった」

 そうして圭に紡がれた言葉が全身を打ち振るわす。

 誰がかけてくれたどんなものよりも、圭からもらった言葉は嬉しかった。

 そしてハタと気づく。私も圭にちゃんと伝えていなかったということに。

「嬉しい。ありがとう。圭のモーニングコート姿もタキシード姿も、どれもメチャクチャ格好良くて、王子様みたいで。見蕩れちゃった」

 圭に抱き込まれていることで顔が見えないのをいいことに、思ったままを伝えると。

「……王子様……か。だっから鈴はお姫様だな」

 むくりと半身を起こした圭が今日嵌めてくれたばかりの結婚指輪が煌めく私の左手をおもむろに持ち上げ、手の甲に触れるだけの優しいキスを落とした。

 そして続けざまに宣言してくる。

「鈴はもう俺だけのものだ。死ぬまで離さないからな」

 声音同様に熱のこもった真剣な眼差しで見下ろされ、僅かに落ち着きかけていた鼓動が急激に高鳴っていく。

 これまでの圭との思い出が次々に浮かんでくる。

 大学生の頃からセフレだった頃、付き合い始めてから今までのこと。

 楽しいことばかりじゃない。でもどれもこれもかけがえのない大切な思い出だ。

 きっとこれからも圭との思い出が少しずつ増えていくのだろう。

 改めて、結婚したんだということを実感し、嬉しさの余り胸がジーンと熱くなる。

「うん」

 そう答えるのがやっとだ。

 それ以上何かを言ったら、感極まって泣き出してしまいそうだった。

 そんな私の頬にそうっと右手を差しのべた圭が、許しを請うように声を絞り出す。

「鈴の泣くの我慢する顔、すっげーそそる。もう限界だわ。けど、出来るだけ優しくする」
「うん。私も限界ーーんんっ」

 即座に答えようとした私の言葉は、途中で余裕なく身体に覆い被さってきた圭の唇に奪われていた。

 隙なく密着したことで、窪塚の下肢の中心が張り詰めている様がありありと伝わってくる。

 自分のことをこんなにも求めてくれているのだ。

 そう思うと、どうにも愛おしくて、触れたくなってくる。

 無意識に手を差しのべていた。

 けれどその前に気づいたらしい圭の手により手首を掴まれ阻まれてしまう。

「こら、またそうやって俺のことを煽ろうとする。そんな余裕なんて与えてやんねー」

 キスを止めそう宣言してきた圭によっていきなり膝を折り曲げられた。

 そして見る間に足をM字に開かれ、蜜に塗れた蕾と秘裂に顔を埋められてしまっている。

 眼前に広がる、目を覆いたくなるような卑猥な光景に、滾るように熱くなった身体が戦慄く。

 別にはじめてのことじゃない。ましてや怖いわけでもない。

 これからの情事への期待感からだ。

 今夜が夫婦としてのはじまりの夜だと思うからだろうか。

 それとも、圭が今まで見てきたなかで一番じゃないかってほどに、妖艶な色香を漂わせているからだろうか。

 きっと、何もかもすべての要因が作用しているに違いない。

 私は夫となった圭にすべてを委ねるためにそうっと瞳を閉じた。

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