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互いの想い #1
しおりを挟む少し前に歩いたルートを逆さに辿って乗り込んだエレベーターが脳外の医局があるフロアに到着したことを階数表示パネルが仄かに灯す。
同時に理性が後から追いかけてきた。
何も考えずに突っ走ってきたものの、窪塚は仕事中だろうし、どうしたものか。
こういう時に限って、昔から、見せかけだけのカタブツ女。なんて言われてきた自分の嫌な部分が邪魔をする。
こんな自分は嫌いだ。
けど窪塚だけは、こんな自分のことを好きだと言ってくれる。
気が強くて、頑固で、生真面目で、ちっとも可愛くなんかない、こんな自分のことをなにもかも全部受け入れてくれる。
私だって窪塚に負けないくらい、どんな窪塚のことも好きだ。
見かけは、イケメンだし、ポーカーフェイス気取ってて、隙なんて全然なくて、何もかも完璧に見える窪塚。
けど口だって悪いし、不器用なとこもあるし、結構ヘタレだし、料理なんて全然できないし、朝食代わりにプロテインばっかり飲んでるような、筋肉バカなところだってある。
そういうところも全部全部ひっくるめて窪塚の何もかもが好きだ。
窪塚のためならなんだってできるし、したいと思う。
優君のために外科医を目指していた私の果たせなかった夢を叶えるためにも、
『絶対親父に負けないくらいの脳外科医になって頂点に上り詰めてみせる。だからそれを傍にいて確かめて欲しい』
専門医になったとき、そう言ってくれた窪塚のためにも、今行動を起こさなかったら、私だって後悔することになる。
ーー窪塚の夢は私の夢でもあるんだから。
こんなところでぐずぐずしている場合じゃない。窪塚に速くこの気持ちを伝えなくちゃ。
窪塚への想いが理性に打ち勝ちエレバーターから飛び出した私の視界には、あたかも神様の思し召しのような抜群なタイミングで、医局から出てきたばかりの窪塚と樹先生の後ろ姿が映し出された。
シーンと静まりかえった廊下には私の駆け寄る靴音が響き渡っている。
その音に何気なく振り返ろうとしたのだろう窪塚の身体に体当たりするようにして飛びついた私のことを、咄嗟にもかかわらずしっかりと受け止めてくれた窪塚の酷く驚いた声が耳元をかすめた。
「おわぁー! って鈴!? な、なんだよ吃驚すんだろ」
「さっきは吃驚しちゃって何も言えなかったけど、私、行くからッ!」
「……ん? 行くってどこに? 俺、仕事中だけど」
「バカッ! そんなことわかってるわよ。行くって言ったらシンガポールに決まってんでしょーがッ!」
「はっ!? いやいや、さっき断ったって言っただろッ」
「それ、撤回してくれなきゃ、私、結婚なんてしないからッ!」
「ーーはっ!?」
驚愕しきりの窪塚に向けてしっかりと放った私の言葉に、窪塚は目玉が落ちるんじゃないかと危惧するくらい目を大きくひん剥いている。
窪塚が驚くのも無理はない。私だって、自分の言動に吃驚しちゃってんだから。
でも、この決断に一切悔いはない。
もう私の中では決定事項だ。
驚きを隠せないでいる窪塚に構うことなく、私は続けて声を放ち続けた。
その傍らでは、樹先生がクックと喉の奥を鳴らしていたのが。
「腕はいいけど彼女のことに一途すぎてヘタレな窪塚には、鈴みたいに、気が強くて尻を叩いてくれるような嫁さんじゃないとなぁ。まぁ、尻に敷かれて一生頭は上がんねーだろうけどなぁ。ハハハッ」
いつしか豪快に笑い出していて、一頻り笑ってから。
「ご愁傷様、窪塚。気の毒なお前には、もうすぐ親戚になる心優しい人生の先輩から、一時間だけ休憩時間をあげるとしよう。なーに餞別だ、遠慮すんな。じゃーな」
なにやら聞き捨てならないようなことをヌケヌケと抜かしていたようだけれど、二人の世界にどっぷりと浸っていた私には、何も届いちゃいなかった。
そんな私の意識に、樹先生に対して窪塚が返した、
「……や、あの、何がなにやら頭パニックなんで助かります」
声が朧気に木霊していたけれど、窪塚のことをなんとかして説得しようと必死だったので、内容など頭には入っちゃこなかった。
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