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微睡みの中の着信 #4
しおりを挟む暫し驚いたような表情で私の顔を瞠目したままでいた窪塚がなにやら勘案する素振りを見せてすぐ、表情から一切の感情が霧散した。
お得意のポーカーフェイスを決め込んだ口元には、微かに黒い笑みを湛えている。
一体、どんなことを命じられるのかと、緊張感に襲われ思わず喉をゴクリと鳴らしてしまう。
そこに窪塚から実に淡々とした抑揚もぬくもりも感じられない冷ややかな声音で質問が投下された。窪塚の口から、
「だったら、俺がフェラして欲しいって言ったら、やってくれんの?」
「////ーーッ!?」
具体的かつ卑猥な単語が飛び出してきたことで、瞬時に想像してしまい、覚悟を打ち砕くようにして、津波のような勢いで羞恥が押し寄せてくる。
今まさに窪塚の分身に触れようとしていた手だけでなく、全身を凍りついたように硬直させてしまうのだった。
勿論それだけでなく、顔も身体も発火しそうなほど熱せられている。
何が『なんでもするから機嫌直して』だ。
ちょっと卑猥な単語を耳にしただけで、こんな有様だなんて、本当に情けない。
窪塚もそんなことになるだろうと思っていた。と言わんばかりに、大笑いしてきて、情けない私に助け舟まで出してくる。
「ハハハッ、冗談だっての。鈴にそんなことさせるわけねーじゃん」
元来、気が強く、負けず嫌いで、可愛げなど持ち合わせていない私は、ここへきてようやく本領発揮するのだった。
「////……い、いいよ。圭がして欲しいっていうなら、なんだってしてあげたいって思ってるから」
元々持ち合わせていた意地もあるが、『窪塚にならなんでもしてあげたい』そういう気持ちがあるからこそ出た言葉だ。
「おっ、おい、こらッ。やめろってッ。冗談だっての。ごめん。俺、マジで鈴にはそんなことさせたくねー。ってか、して欲しくないんだ」
だから、いくら窪塚に止められようが、これだけは譲れない。
私にとって窪塚がどんなに大事な存在かを知ってもらうためなら、手段なんて選んでいられない。
今ここで怖じ気づいたり、怯んだりしたら、取り返しのつかないことになりそうで、怖くてどうしようもない。
どうしてそんな風に思うのかは不明だけれど、おそらく一生添い遂げたいと思っている気持ちの表れなのだろうと思う。
今の自分を言葉にするなら、猪突猛進。
窪塚の言葉に異議しかない私は、強行突破しようとする私の手首をぐっと掴んでいる窪塚になおも食い下がった。
「して欲しくないってどういうことよ? 一瞬でもして欲しいって思ったから、口にしたんでしょうがッ! いいから、さっさとやらせなさいよッ!」
そこでようやく窪塚の本心を知ることとなるのだった。
「そんなことさせたら、鈴の親父さんに顔向けできねーよ。否、そんなことはどうだっていい。今さらだって思われるかもしれねーけど、鈴にはずっと綺麗なままでいて欲しいんだ」
えっと、それって、初恋の相手である私には、いつまでも清いままでいて欲しいって言うことだよね?
もしかして、アイドルとかに抱いている想いと同じって事なのかな?
つまり、いつか幻滅されてしまうかもしれないってこと?
ーーそんなの嫌だ。
ふと冷静になって、考えれば考えるほど悪いものしか浮かんでこない。
胸の中で生じた不安がどんどん膨らんでいく。
私は窪塚の短所も長所も何もかもひっくるめて、全部全部好きだけど、窪塚は違ってたんだ。
膨張した不安が溢れて止まらない。気づけば口からも零れていた。
「それって、圭が私に幻想を抱いてるって事? 私、いつか圭に幻滅されちゃうって事?」
すると私のことを組み敷いている窪塚が怪訝そうな表情になって、それが何かに思い至ったようにハッとした表情に豹変し、大慌てで反論を返してくる。
「ち、ちげーよ。幻滅なんかするわけねーじゃん。そういうことじゃなくてさ。二年経った今でも純で初心な鈴の反応が可愛くてどうしようもなくて。だからこそそれを守りたいって言うか、穢したくないって言うか。兎に角、どんな鈴のことも大事にしたいって事だよ」
なんだかよくわからないけど、セックスとかそういうことに不慣れな私の反応が可愛くて、ずっと今のままでいて欲しいって言うこと……でいいのかな?
だから、フェラなんてさせたくない。綺麗なままでいて欲しい。という言葉に繋がったって事はーー。
「……今のままでも幻滅しないでずっと好きでいてくれるってこと?」
窪塚の言葉を自分なりに噛み砕いて反芻した私の声に、窪塚が即座に答えてくれた。
「あったり前だろ。初心な鈴も、頑固で気が強くて意地っ張りな鈴も、どんな鈴も可愛いし、大事なんだからさ」
なんだか、いいところが初心なところしかないように聞こえなくもなかったが、窪塚にとってはどんな私のことも可愛く見えていて、大事にしたいと思ってくれているらしい。
それは嬉しいことだけれど、素直じゃない私は、少々むくれ気味に窪塚のことをじろりと睨みつつ、可愛くない発言を放つという可愛げのなさを披露していた。
「なんかそれって、私には初心なところしかいいところがないように聞こえるんだけど」
直後、そんな私の言葉を耳にした途端に、つい先ほどの卑猥な単語を口にした時同様の黒い笑みを湛えた窪塚から意地の悪いお返しが炸裂することになる。
まずは手始めにと言うように……。
「なら、鈴のいいところ、今からひとつずつ懇切丁寧に教えてやるよ」
意地悪くも甘やかな艶のある低い声音を耳元に落としつつ、組み敷いたままの私の髪を一房だけ指にとって絡めると、愛おしそうにチュッと口づけてきて。
「////ーーッ!?」
いつになく大人っぽい妖艶な雰囲気を醸し出す窪塚の色香に息を呑む私のことを満足そうに眇めた双眸で見下ろしてくるなり。
「さっきまで強気だったクセに、俺の言動ひとつで、こうやってすぐに余裕なくすとこ、メチャクチャ可愛くて堪んねーし」
蕩けそうな表情でそんなことを言ってきた。
こんな感じで一つ一つあげられたんじゃ身がもたない。
これは早々に根を上げて降参した方が賢明だ。
そう思っていた矢先、再び窪塚の言葉攻めが投下されたと身構えた刹那、窪塚によってぎゅうぎゅうに抱き込まれ、
「他の誰でもない、俺にだけ見せる鈴の何もかも全部が愛おしくてどうしようもねーよ。だからこれからもそーであってもらえるように一生大事にしたいって思ってる。だからプロポーズしたんだからさ、信じてくれよ」
後から窪塚のいつになく真剣な言葉が追いかけるようにして耳だけでなく心に沁みてくる。
「うん、信じる。疑っちゃってごめんなさい」
私はいつになく素直な言葉を返して、窪塚の背中に両腕を絡めてぎゅぎゅぎゅうっと抱きついた。
相変わらず自分に自信が持てないせいで、窪塚のことを不安にさせてしまったけれど……。
これからは何があっても、窪塚のことだけを信じるーーこの想いが窪塚に少しでも伝わるようにと希いながら。
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