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微睡みの中の着信 #3
しおりを挟む私の言葉を聞き終えると、吃驚眼で見つめていた窪塚はいつしかムスッとして、面白くないって言うような表情に変わっている。
私が窪塚の予想外な反応に首を傾げつつも一息に言い切ったことで、乱れた呼吸を整うべく、ふうと大息をついた刹那、窪塚が放った低い声音が耳に届いて、窪塚の心情を知ることとなった。
「バカは鈴だろ。言っとくけどな、俺は鈴と違って初恋も付き合ったのも鈴が初めてだったんだ。そんな俺が鈴のこと捨てる訳ねーだろ。冗談でも、そんなこと二度と言うな。それから、俺は絶対禿げたりしねーからな」
どうやら窪塚にとっては、私の初恋相手である優くんと元彼だった藤堂の存在が未だに引っかかっているらしいこと。
そして『禿げる』という言葉を聞き流すことができなかったらしいことがよーく理解できた。
前者に至っては、優くんは子供の頃のことだし、藤堂とはただのお試しだったのだし、そんなこと気にする必要などまったくない。
後者に関しては、何度か実家にお呼ばれしているので、窪塚の父親も祖父も禿げたりしていないのは知ってるし、気にする要因はないと思うが、気になるところではあったのだろう。
がしかし、私にとってはどっちも取るに足らないことだ。
そのため私は、窪塚の言葉に唖然としてしまい、思わず漏らした言葉も笑いを含んだものとなってしまうのだった。
「……え? 『鈴とちがって初恋も何もかも』って。まさか、まだ優くんや藤堂のこと気にしてるの? それに、禿げないって……もう、圭ってばヤダなぁ。そんなの言葉の綾でしょうが」
どうやらそれがいけなかったらしい。
私の言葉を聞き入れるやいなや、窪塚は盛大にむくれた表情になってしまい、その様子に、私が雲行きの怪しさを察したときには時既に遅しで、両の肩をぎゅっと掴んできた窪塚によって、ベッドにとさっと押し倒された後だった。
突如押し倒されたこの状況に思考が追いつけず、呆けている私の眼前に窪塚がずいっと端正な顔で鼻先すれすれの至近距離まで迫ってくる。
そうして間髪入れずに、低い声音を苦しげに響かせた。
「鈴にとっては大したことない過去だったとしても、俺にとっては大したことなんだよ。特に、藤堂とは、キス止まりつってもキスは許したんだろ。しかもファーストキス。そんなの気になるに決まってんだろッ」
その言葉で、付き合い始めた頃、話の成り行き上、藤堂とはキス止まりだったと言うことをついうっかり口にしてしまっていた事を思い出す羽目になったが。
それだって、藤堂とのことを気にしてた窪塚のことを安心させようとしてのことだったのだ。
……なのだが、結果としてやぶ蛇となってしまっただけだった。
でも確かに、言われてみれば、そうかもしれない。
何もかも、私の配慮のなさが招いたことには違いない。
最近は、窪塚がそのことに触れなくなっていたから、もう気にしていないと思っていたけど、そうではなかったらしい。
「……じゃあ、圭はどうやったら機嫌直してくれるの? 圭の言うとおりで過去は変えられない。けど、こんなことで圭との時間を無駄になんかしたくない。なんでもするから機嫌直して。ねえ、圭、お願い」
そこまで気にしてくれるのは嬉しいことだけどーーこんなことで窪塚との貴重な時間を無駄にしたくない。
そんな思いに囚われてしまった私は、なんとか機嫌を直してもらおうと、私のことを組み敷いている窪塚の下腹部へゆっくりと手を這わしつつ、そう言って窪塚に迫っていた。
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