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溢れくる想い
しおりを挟む病院の裏手にある職員専用の駐車場に到着すると、真っ白な国産スポーツセダンの車体に背中を預けて、手にしたスマホを弄っている窪塚の姿があった。
いつ見ても、一八〇センチの高身長ですらっとしていて、以前から病院一のモテ男で、『脳外の貴公子』なんて呼ばれているだけあって、立ち姿だけでも格好良くて、とても様になっている。
『外科医は身体が資本だ』なんて言って、医大の頃から長年鍛えているせいで、細見ながらに、しなやかな筋肉がついた、精悍な体躯だし。
涼しげな切れ長の漆黒の双眸が印象的な細面だって小顔でいわゆるイケメンだし。九等身というなんとも羨ましいほどのスタイルで、無造作に掻き上げられた漆黒の髪だってサラサラだ。
そういう見た目から、以前はチャラくていけ好かない奴だって思っていた。
けど、実際は全然そんなことなくて、驚くことに医大に入学する以前のオープンキャンパスの時から、私のことだけを一途に思ってくれていて、私と一夜を共にするまで童貞だったほどだ。
その上、私が小学生の頃に巻き込まれた事故で助けてくれた命の恩人である優君の従兄弟だったことには本当に驚いた。
その時に亡くなってしまった優君のためにも、優君の夢でもあった、脳神経外科の権威で『神の手』でもあった父親と同じ脳神経外科医を志して、その夢を叶えちゃうんだから、本当に凄いと思う。
私には、本当に勿体ないほどの彼氏だ。
付き合うようになって二年が経過した今でも、窪塚のことを知れば知るほどどんどん惹かれていて、もう窪塚なしではいられなくなってしまっている。
窪塚の存在があるから、どんなに忙しくても、仕事も勉強も頑張ろうと思えるといっても過言ではない。
窪塚にとっても、そうであって欲しい。
だから、ちょっと会えないからって、寂しいなんて言って我儘なんて言ってる場合じゃない。
脳外科医として、『神の手』と呼ばれている父親のように、腕一本で頂点に上り詰めるために、脇目も振らずに走り続ける窪塚のためにも、しっかりと支えられるような存在でありたいーー。
最近の私はそう考えるようになっていた。
窪塚は、私に気づいた途端に、いつものように無邪気な子供のように、ニコニコと満面の笑顔を綻ばせて私のことを出迎えてくれている。
その姿を視線が捉えた瞬間、熱いものと一緒に涙までが込み上げそうになる。
いてもたってもいられなくなってしまった私は人気がないのを確認してから、窪塚の広くて逞しい胸へと飛び込んでしまうのだった。
すると、窪塚は、逞しい腕で私のことを優しくけれどしっかりと抱き留めてくれて。
「鈴、お疲れ。寂しい思いばっかさせてごめんな」
宥めるようにして大きな手で優しく何度も背中を擦りつつ、そう言ってここ最近の口癖のように謝罪の言葉を口にする。
私は、窪塚のぬくもりを感じながら匂いを目一杯吸い込んでから、
「もー、久しぶりに会えたのに、また謝ってばっかり。そんなのは時間の無駄だっていつも言ってんでしょ。それとも、早く圭とふたりっきりになって楽しい時間を過ごしたいって思ってたのは私だけだったってこと?」
顔を上げて、ムッとした表情で頬を膨らませて唇を尖らせつつ、窪塚に迫るのだった。
心配してくれるのはとっても嬉しいけど、余計な心配をかけたり、気を遣わせたくなかったからだ。
脳外科医としてのスタートを切ったばかりの窪塚の足を引っ張るようなことだけはしたくないーーその一心だった。
窪塚は私の思いを汲み取ってくれたのか。
今一度ぎゅぎゅうと私の身体が軋むほど強く掻き抱いてから。
「バーカ。そんな訳ねーだろ? 俺も早く鈴とふたりっきりの時間を楽しみてーよ。今夜は一晩中鈴のナカでいたいから、覚悟しろよな?」
とびきり優しい甘やかな声音での『バーカ』と一緒に、同じ思いを紡いでくれて、最後には照れ隠しで冗談めかしてくる。
それには、これまたいつものように、そういうことに関して未だに慣れずにいる私は、真っ赤になりつつも。
「////ーーもう、バッカじゃないのッ! それはいつものことでしょうが。バカなこと言ってないで、ほら、早く帰るわよ」
窪塚の胸板を両手で押しやりながら離れようとして、それを窪塚に呆気なく手首を掴んで制されてしまい。
「こらこら、鈴がたきつけたんだから責任取れって」
「責任って、どうやーーんんっ!?」
お決まりのようにチュッというリップ音を響かせつつ唇を優しく奪われて黙らされることとなって、始めこそ驚いて抵抗を示してしまったが。
早々に諦めて、窪塚の背中に両手を回してぎゅっと抱きついた私は、久々に交わした窪塚との甘やかなキスに暫し酔いしれていた。
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