同期ドクターの不埒な純愛ラプソディ。

羽村美海

文字の大きさ
上 下
3 / 39

溢れくる想い

しおりを挟む

 病院の裏手にある職員専用の駐車場に到着すると、真っ白な国産スポーツセダンの車体に背中を預けて、手にしたスマホを弄っている窪塚の姿があった。

 いつ見ても、一八〇センチの高身長ですらっとしていて、以前から病院一のモテ男で、『脳外の貴公子』なんて呼ばれているだけあって、立ち姿だけでも格好良くて、とても様になっている。

 『外科医は身体が資本だ』なんて言って、医大の頃から長年鍛えているせいで、細見ながらに、しなやかな筋肉がついた、精悍な体躯だし。

 涼しげな切れ長の漆黒の双眸が印象的な細面だって小顔でいわゆるイケメンだし。九等身というなんとも羨ましいほどのスタイルで、無造作に掻き上げられた漆黒の髪だってサラサラだ。

 そういう見た目から、以前はチャラくていけ好かない奴だって思っていた。

 けど、実際は全然そんなことなくて、驚くことに医大に入学する以前のオープンキャンパスの時から、私のことだけを一途に思ってくれていて、私と一夜を共にするまで童貞だったほどだ。

 その上、私が小学生の頃に巻き込まれた事故で助けてくれた命の恩人であるゆう君の従兄弟だったことには本当に驚いた。

 その時に亡くなってしまった優君のためにも、優君の夢でもあった、脳神経外科の権威で『神の手』でもあった父親と同じ脳神経外科医を志して、その夢を叶えちゃうんだから、本当に凄いと思う。

 私には、本当に勿体ないほどの彼氏だ。

 付き合うようになって二年が経過した今でも、窪塚のことを知れば知るほどどんどん惹かれていて、もう窪塚なしではいられなくなってしまっている。

 窪塚の存在があるから、どんなに忙しくても、仕事も勉強も頑張ろうと思えるといっても過言ではない。

 窪塚にとっても、そうであって欲しい。

 だから、ちょっと会えないからって、寂しいなんて言って我儘なんて言ってる場合じゃない。

 脳外科医として、『神の手』と呼ばれている父親のように、腕一本で頂点に上り詰めるために、脇目も振らずに走り続ける窪塚のためにも、しっかりと支えられるような存在でありたいーー。

 最近の私はそう考えるようになっていた。

 窪塚は、私に気づいた途端に、いつものように無邪気な子供のように、ニコニコと満面の笑顔を綻ばせて私のことを出迎えてくれている。

 その姿を視線が捉えた瞬間、熱いものと一緒に涙までが込み上げそうになる。

 いてもたってもいられなくなってしまった私は人気がないのを確認してから、窪塚の広くて逞しい胸へと飛び込んでしまうのだった。

 すると、窪塚は、逞しい腕で私のことを優しくけれどしっかりと抱き留めてくれて。

「鈴、お疲れ。寂しい思いばっかさせてごめんな」

 宥めるようにして大きな手で優しく何度も背中を擦りつつ、そう言ってここ最近の口癖のように謝罪の言葉を口にする。

 私は、窪塚のぬくもりを感じながら匂いを目一杯吸い込んでから、

「もー、久しぶりに会えたのに、また謝ってばっかり。そんなのは時間の無駄だっていつも言ってんでしょ。それとも、早く圭とふたりっきりになって楽しい時間を過ごしたいって思ってたのは私だけだったってこと?」

顔を上げて、ムッとした表情で頬を膨らませて唇を尖らせつつ、窪塚に迫るのだった。

 心配してくれるのはとっても嬉しいけど、余計な心配をかけたり、気を遣わせたくなかったからだ。

 脳外科医としてのスタートを切ったばかりの窪塚の足を引っ張るようなことだけはしたくないーーその一心だった。

 窪塚は私の思いを汲み取ってくれたのか。

 今一度ぎゅぎゅうと私の身体が軋むほど強く掻き抱いてから。

「バーカ。そんな訳ねーだろ? 俺も早く鈴とふたりっきりの時間を楽しみてーよ。今夜は一晩中鈴のナカでいたいから、覚悟しろよな?」

 とびきり優しい甘やかな声音での『バーカ』と一緒に、同じ思いを紡いでくれて、最後には照れ隠しで冗談めかしてくる。

 それには、これまたいつものように、そういうことに関して未だに慣れずにいる私は、真っ赤になりつつも。

「////ーーもう、バッカじゃないのッ! それはいつものことでしょうが。バカなこと言ってないで、ほら、早く帰るわよ」

 窪塚の胸板を両手で押しやりながら離れようとして、それを窪塚に呆気なく手首を掴んで制されてしまい。

「こらこら、鈴がたきつけたんだから責任取れって」
「責任って、どうやーーんんっ!?」

 お決まりのようにチュッというリップ音を響かせつつ唇を優しく奪われて黙らされることとなって、始めこそ驚いて抵抗を示してしまったが。

 早々に諦めて、窪塚の背中に両手を回してぎゅっと抱きついた私は、久々に交わした窪塚との甘やかなキスに暫し酔いしれていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました

紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話 平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。 サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。 恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで…… 元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる? 社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。 「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」 ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。 仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。 ざまぁ相手は紘人の元カノです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

処理中です...