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#76 予期せぬ証言 ⑴
しおりを挟む――今日は日曜で創さんもお休みだし、創さんと一日中一緒に居られるなぁ。
創さんの腕の中、そんなことを思いつつ、なんとも幸せな至福な一時を過ごしていたけれど。
邪魔でもするかのように、突如創さんのスマートフォンが着信音を響かせた。
いつも頗る寝起きの悪いはずの創さんも、仕事のこととなると別らしく。
私のことを腕に包み込んだままスマートフォンに手を伸ばし、画面に表示されてる『菱沼朔太郎』の文字を確認した瞬間、「チッ」と忌々しげに舌打ちはしたものの。
仕事のことに頭を切り替えるようにするためか、私の身体から素早く離れ、ベッドの縁に腰を据えてから、始めこそ寝起きの掠れた声だったけれど、すぐにいつもの調子で話し始めた。
「……いや、起きてたから問題ない。どうした? ……あぁ、分かった。いつもの時間に頼む」
これまでの私なら、別になんとも思わなかっただろう。
でも創さんのことを好きだと自覚して、創さんのモノになった途端。
さっきまで創さんのぬくもりに包まれていたそのぬくもりが離れてしまっただけだというのに。
そんな些細なことで、言いようのない寂しさを覚えてしまったり。
仕事とプライベートをきっちりと区別しているのをチラリと垣間見ただけだというのに。
――素敵だなぁ。格好いいなぁ。
なんて思いながら通話中の創さんの姿にポーッと見惚れてしまっていた。
電話の後に、ポーッとしているところを創さんにふいに抱きしめられてしまっていて。
「菜々子、身体のほうは大丈夫か?」
「////……あっ、はい」
「そうか、良かった。悪いがこれから出勤になった」
「////……あっ、じゃあすぐに朝食の準備し――ッ!?」
「適当に済ませるから必要ない。もう少しだけこのままで居させてくれないか? 本当は菜々子と離れたくないが、そうもいかないし。少しだけでいいから頼む」
「////……はい」
創さんも同じことを想ってくれてたことも分かり、またまた私の胸はキュンキュンときめいてしまっていた。
そんな浮かれモードの私は、昨夜のあれこれが、身体の至る所に生々しい痕跡や余韻と名残とが色濃く残っているため、創さんのことを意識しすぎてしまっていたせいで、言いたいことの三分の一も口には出せずじまいだったけれど。
まるでそれを補うように、創さんはいつにも増して優しくて、心なしか口数も多かったように思う。
そんなちょっとしたことが嬉しくて仕方ないんだから、恋のパワーは凄まじい。
恋の威力に感心させられ、嬉しさと気恥ずかしさを感じつつも、幸せな心地で、いつものように仕事に出かけていく創さんと菱沼さんのことを見送ったのだった。
そうして午前一〇時を少し回った現在。
大好きな創さんのために、旬のイチゴをふんだんに使ったタルトを作るべく準備に勤しんでいる真っ最中だ。
タルトの材料や道具諸々を作業台スペースに並べて、それらと睨めっこしながら、頭の中で出来上がりのイメージをシュミレーションしていた時のこと。
広いキッチンのいつもの定位置であるサイドテーブルから。
【菜々子ちゃんったらぁ。そんなに張り切っちゃって、何かいいことでもあったのかしらぁ】
亀だから表情からは感情なんて読み取れないけれど、絶対にニヤニヤしているだろうことがすぐに分かってしまうくらい、愛梨さんのやけにニヤついた口調が茶々を入れてきた。
「////……べっ、別にッ。創さんとは、何でもありませんからッ! 何にもッ!」
愛梨さんの言葉に過剰に反応を示してしまった私は、
【今朝なんて、創のこと意識しすぎてなんだか変だったし。今の様子からして、うまくいったようねぇ。むふふっ】
何かを察した風な愛梨さんの言葉に、
「////……ッ!?」
――ドッキーーンッ!?
とさせられた私は、分かりやすいくらいに真っ赤になって絶句してしまうという大失態を犯してしまい。
【キャー、菜々子ちゃんってば、キャワイイ~ッ! この分だと孫にすぐ会えちゃいそうねぇ。ふふふっ】
ご当主と同じ返しをお見舞いされてしまった私は益々真っ赤になってしまっていた。
そこに、嬉しそうな笑みを零してはしゃいでいた愛梨さんから、
【あっ、いっけない。忘れてたわぁ。そういえば昨日、創太くんから何か渡されなかった?】
思いもしなかった言葉が飛び出してくるのだった。
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