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#62 りんごのコンポート再び
しおりを挟むご当主のカツラ疑惑に始まり、なんやかんやアクシデントに見舞われながらも、大きな問題もなく、こうして顔合わである決戦の幕は閉じられたのだった。
創太さんのことは、どうも以前から、女性に対してだらしないところがあるらしく、私の父親である道隆さんとの関連はないらしい。
とはいえ、創さんは相当ご立腹のようで。
『今後一切、創太が菜々子にちょっかいを出さないように手を打っておくから安心しろ』
膝枕してくれている時に、優しく頭を撫でつつ、そう言ってくれたので、一件落着。私は心底ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
決戦も終え、結婚の日取りなどはもう既に決まっているらしく、あとは結納と、結婚式当日を待つばかり。
……そう思っていたのだが。
『今日は疲れているだろうから、食事を済ませて帰らないか?』
『……あっ、でも、夕飯を作るのは私の仕事なので』
『はっ!? 何を言ってるんだ? 仕事は、菜々子を雇うための口実だったんだ。今は俺の本物の婚約者になってくれたんだし、そんなことをする必要はない。これからはハウスキーパーを雇うつもりだから、菜々子の作りたいときに好きなモノを作ればいい』
『……え、でも』
『そんなに気兼ねするなら、たまにで構わないから、俺のためにスイーツを作ってほしい。菜々子の作ってくれるモノはどれも絶品だからな』
『はい!』
『あぁ、それから、今日は菜々子の好物のりんごのコンポートを作ってもらってるから、このあと『パティスリー藤倉』に立ち寄って、皆さんにも結婚の挨拶を済ませないとな』
『――ええッ!? 今からですか?』
『あぁ。そのつもりで前々から段取りはつけてある』
『……そ、そうですか』
創太さんの話題から、夕飯へと変わり、これからのことを話しているうち、突如創さんから飛び出した、伯母夫婦への結婚の挨拶という驚きの発言へと移り変わっていたのだった。
そんなこんなで、来るとき同様、鮫島さんがハンドルを握る国産の高級車に揺られて、私と創さんと菱沼さんは、現在『パティスリー藤倉』へと向かっている。
その間、桜小路家へ向かうときには、後部座席にただ隣り合って座っていただけだったというのに……。
両想いとなった途端、今までとは比較にならないほどの優しい雰囲気を醸し出すようになった創さんによって、さも当然のことのように、私の肩は抱き寄せられてしまっていた。
一向に離す気配の感じられない創さんの身体に寄り添うように、ピッタリとくっついていたお陰で、私の心臓はもはや尋常じゃない速度で暴れ回っていて。
このままだと、もう十分もあれば心臓麻痺を起こしてしまうんじゃないかと、いよいよ心配になってきた頃、パティスリー藤倉へと到着し命の危機から脱することができた。
そうして私がホッとする間もなく、店の横に位置する駐車場に大きな車を停車させたちょうどその時。
おそらく創さんから大凡の到着時間を聞かされていたのだろう、伯母夫婦と恭平兄ちゃんとが店先から姿を現し、私たちを出迎えてくれている。
久々の伯母夫婦と恭平兄ちゃんとのご対面に嬉しさを隠しきれずに目を輝かせ前のめり気味に身を乗り出す私のことを未だ抱き寄せている創さんの腕の力が、何故か急に、グイッと強められた。
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