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#61 王子様の膝枕
しおりを挟むそれと同時に。
「お前、どういうつもりだッ!」
「兄さん誤解だって。俺はただもうすぐお姉さんになる菜々子さんと仲良くなりたかっただけだって」
王子様然としたイケメンフェイスを般若のようにして激昂した創さんの怒号と、正反対のヘラヘラとした緊張感のない声で苦しい言い逃れをする創太さんの声とが、耳に飛び込んできた。
どうやら創さんは、創太さんの一切悪びれないどころか、馬鹿にしたようにヘラヘラとしているその態度に余計苛ついて、殴ろうとしているようだ。
そう頭では理解できたものの、それをどうこうするような余裕など、今の私には微塵もなかった。
怖くて怖くてしょうがなかった私は、創さんの姿を目にした刹那、ホッと安堵し、そのままストンとその場にしゃがみ込んでしまっていたのだ。
そうしたら、創太さんの胸ぐらを引き寄せて今まさに拳を振り上げようとしていた創さんから、至極焦った声音が放たれて。
「菜々子ッ!?」
私の名前を言い終えないうちに、創太さんのことを思いっきり突き放すと、創さんは目にもとまらぬ早さで私の元へと駆け寄ってきてくれたのだった。
そうして床に崩れ込んでしまっている私のことをぎゅうっと自分の胸に抱き寄せると。
「菜々子ッ? おいッ! どうした? 大丈夫なのか? おいッ、菜々子ッ!」
放心してしまっている私に余裕なんて一切感じられない必死な声音で、何度も何度もそう言って声をかけてくれていた。
✧✦✧
しばらく経って、放心していた私が我を取り戻した頃には、菱沼さんも戻ってきていて、さっきからずっと、創さんにペコペコと幾度となく頭を下げている。
あの時、創さんは、なかなか戻ってこない私のことが気になり、様子を見に戻る途中に偶然、私と創太さんの姿を目にし、慌てて駆けつけてくれたらしい。
それから、どうやら食事会は、ご当主の配慮によりお開きとなったようだった。
現在、私は一階の応接室の上質なソファで創さんによって膝枕されているところだ。
「私がついていながら申し訳ございませんでした」
「もういい。それより創太はどこだ?」
「……それが、急用ができたからと仰って、出かけられました」
「チッ。相変わらず逃げ足の速いヤツだな」
創さんと菱沼さんが創太さんのことを話している合間。
一方の私はといえば……。
急に雰囲気と口調が変わってしまった創太さんのことがあんなに怖くてどうしようもなかったクセに。
そんなことなどもうすっかり忘れて、両想いになったばかりの創さんの膝枕を堪能してしまっていたのだった。
どんな風に堪能していたかというと。
膝枕をしてくれている創さんは、まるで飼い猫を猫っ可愛がりするようにして、私の頭をそうっと優しく何度も何度も撫でてくれるものだから、心地よすぎて、ポーッと夢現状態となっていて。
その様子をテーブルの上に置かれた水槽から飽きもせずに眺めている愛梨さんから、絶え間のない黄色い悲鳴と届くことのない創一郎さんに向けての声とが、さっきからひっきりなしに飛んでくる。
「キャーッ! 菜々子ちゃんったら、創に膝枕されちゃって。すっかりラブラブで羨ましいわぁ! 私も創一郎さんに膝枕してもらいた~いッ!」
けれども、絶賛夢現状態にどっぷりと浸ってる私の耳には、悲しいかな一切届くことはなかった。
そんな有様だったので、まさか自分のワンピースのポケットに、いつから入っていたのか、携帯番号と思しき番号が走り書きされた紙切れが忍ばされていることなど、知る由もなかったのだ。
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