拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

羽村美海

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#59 知らなくていいこと?

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 創さんが居なくなってしばらくして、あたかも夢でも醒めてしまったかのように、現実世界に引き戻されてしまった私は、今更ながらに恥ずかしくなってきて、ベッドの上で現在悶絶中である。

――キャー! どうしよう。

 創さんと両想いになっちゃった。

 それに、『今夜は寝かせる気はない』って言ってたけど……。

 それってつまり、そーいうことなんだよね?

――キャー!! どうしよう。心臓がもたないよ。

 でも、今までの何倍も何十倍も……ううん、何万倍も、これまでとは比べ物になんないくらい、キスも、触れ方も、メチャクチャ優かったし。

 なにより、あんな優しい創さんの笑顔なんて初めて見た。

――本当の王子様みたいだったなぁ。

 あんなに素敵な王子様みたいな創さんが、私のことを好きだなんて、まだ夢でも見ているようだ。

 そういえば、この前読んだ少女コミックのヒロインが、学園の王子様みたいな男子に好きだって言われたとき、夢かどうか確かめるために頬を抓っていたっけ。

「いっひゃーッ!」

 ベッドの上でゴロンゴロンしながら、ハタと思い立って試してみれば、やっぱり痛くて、ちょびっとだけ涙でにじんだ目尻を拭っているところへ。

「……おい。どうした? 大丈夫なのか?」

 すっかり存在を忘れてしまってた菱沼さんの安定の低くて冷たい声が響き渡った。

 そういえば、ドアの向こうで待っていてくれてたんだっけ。

「すっ、すみません。大丈夫です」

「ならいいが。薬でも用意しようと思うが、どんな感じだ?」

「////……や、ただの寝不足なんで大丈夫です。もう少しだけ待っててください」

「そうか。分かった」

 菱沼さんはいつも鋭いから、全部お見通しなのかと思って、ヒヤヒヤさせられたけど、それはどうやら杞憂だったようだ。

 ホッと安堵した私は、あんまり待たせてしまうのもよくないと思い、ベッドから降りると、姿見の前で乱れてしまっているワンピースを正していて、ふとあることに気がついた。

 それは肩口や胸元に無数につけられた紅い痣のようなものだ。

 それが所謂キスマークというものだと思い至った瞬間。

 カーッと瞬く間に全身が真っ赤かに色づいてしまった。

 今にも頭から湯気でも上がっちゃうんじゃないかと思うくらい、熱くて熱くてたまらない。

 なんとか熱を冷まそうと、両手でパタパタしたところで、簡単にはおさまりそうもない。

 必死で何度もパタパタしていたお陰でようやくおさまりかけた時のこと。

 視界の端っこにチラリと映り込んだ愛梨さんの肖像画に目がいき、あることを思い出してしまった。

 あることとは、私がフォトフレームを落としそうになった時、何故か伏せられたフォトフレームのことだ。

 ほんの好奇心だった。

 部屋の主である創さんが不在のため、ほんのチョッピリ後ろめたさもあったけれど、好奇心には勝てなかったのだ。

 サイドボードに向きあってお目当てのモノを見つけ。

――あっ、これこれ。

 そうっと持ち上げてみると、驚くことに私とよく似た、小学生の高学年くらいだと思われる女の子と、同じく低学年くらいの創さんらしき男の子の姿が映っていた。

 そういえば、父親には咲姫さんという既婚の娘さんが居て、創さんとは姉弟のように育ったっていってたっけ。

 だとしたら、その咲姫さんじゃなかろうか。

 たちまち浮かれてた気持ちが急激に沈んでいく。

 そうかこの人が私の異母姉妹なんだ。

 父親が一緒だもんね。そりゃ、似てても可笑しくないよね。

 そしてある考えが浮上してきた。

 おそらく、この写真を見た私がまた辛くなると思って、敢えて伏せてくれたに違いない。

――きっとそうだ。

 私が知らない方がいいって創さんがそう判断したんなら、きっとそうなんだろう。

 だったら、私は見なかったことにしよう。

 創さんの心遣いを無駄にはしたくない。

 私は何もかも見なかったことにして、身なりを整えてから創さんの部屋をあとにした。

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