拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

羽村美海

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#58 王子様の暴走 ⑷

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 いくら抵抗する気が消え失せたっていっても、恥ずかしいことには変わりない。

 けれど、創さんが、『精一杯優しく抱いてやる』そう言ってくれた言葉通り、まるで宝物にでも触れるかのように、あんまり優しく触れてくれるものだから。

 もっともっと触れてほしい。
 
 このままずっとこうやって触れ続けていてほしい。
 
 もっともっと触れあって、創さんのことをもっともっと近くで感じていたい。

 羞恥とは相反する、ちょっとはしたないんじゃないかと思ってしまうようなことを願ってしまっている自分に気づいて、驚くばかりだ。

 頭の片隅で、そんなことを考えてしまってる間にも、創さんの柔らかな唇は、色んなところを辿っていて。

 ホックを外されたブラのお陰で、かろうじて隠されていた胸の、誰にも触れられたことのないデリケートゾーンすれすれにまで及んでいた。

 創さんの柔らかな唇がそこまで及ぶと、ねっとりとした舌先がそのすれすれの部分を蠢き始めて。

「ひゃんっ!?」

 くすぐったさとひんやりとした感触とに条件反射的に漏らした自分の可笑しな声に驚いて、ビクンッと身体を跳ね上がらせてしまうのだった。

 そんな私の反応をいち早く察知した創さんから。

「どうした? 怖いのか?」

 そう訊かれた途端に、急に恥ずかしくなってきて。

「////……急に……恥ずかしく、なって……きちゃって」

 そのことを途切れ途切れになりつつも、おずおずと素直に口に出した瞬間。

 何故か、微かに顔を赤らめてしまった創さんによって、ギュッと正面から抱きしめられてしまっても。

 何がどうなっているのか分からず、ただただされるがままで動くことができない。

 正面から身体に乗っかるようにして抱きしめられてしまっているお陰で、創さんの身体とピッタリと密着してしまっている。

 よって、昨日は教えてもらえなかった、例の生理現象と対峙することとなっているのだった。

 益々、恥ずかしいし、どうしたらいいかが分からず、カッチーンと固まっている状態だ。

 そうしてもう一度、ギュッと思いっきり抱きしめられているお陰で、息まで苦しくなってきた。

 とうとう堪りかねた私は、なんとかしてそのことを知らせようと、もがくようにモゾモゾと動くも。

 余計に生理現象との密着度が増して、グリグリと押しつけられてしまっている。

 数秒しても創さんの動く気配がなくて、途方に暮れかけたとき。

 私の異変にやっと気づいたらしい創さんがいつになく慌てたように、私の身体から退いた。

 続けざまに、私の真っ赤になっているだろう顔を鼻先すれすれの至近距離から覗き込んできて。

「……悪い。お前があんまり可愛い反応をするものだから、自分を抑えられなくなりそうで、耐えるのに必死だった。もう大丈夫か?」

 形のいい眉を八の字にして、とっても申し訳なさそうに、気遣ってもくれて。

 吐息のかかりそうなこの至近距離で恥ずかしいはずなのに。

 そんなことなど、もうどうでもよくなってしまっていて。

 ――早く創さんのものにしてほしい。

 なんてことを思っていた私は、またまた黙ったままコクンと素直に頷いていたのだった。

 その様子をふっと柔らかな笑みを零した創さんが満足気に見届けてから、再びキスが再開されて、このまま創さんのものにしてもらえるんだと思っていたのだけれど……。

 まるでそうはさせるかというように、突如不躾に部屋の扉をノックする音が響き渡り、その数秒遅れで。

「創様。ご当主がお呼びでございます」

 菱沼さんのよく通る低く落ち着きある声音が私たちを包み込んだ。その刹那。

 イケメンフェイスを忌々しげに歪めてチッと舌打ちした創さんから声が降ってきて。

「……その気になってくれた菜々子には悪いが、お預けだ」
「……へ!?」
「そんな残念そうな顔しなくても、今夜は寝かせる気はないから安心しろ」
「////……えっ、あのっ、別に残念だなんてことは」
「……へぇ、ずいぶん余裕だな。俺なんてこのままじゃ戻れないくらい元気になってるっていうのに」
「////……ッ!?」
「そんな反応されたら、ヤバいからやめろ……と言われても困るよなぁ。まっ、とにかく俺は色々あるから先に戻るが、菜々子は暫くして落ち着いたら菱沼と一緒に戻ってこい」
「……え? 私も一緒に戻ります」
「ダメだ。そんな真っ赤な顔して戻ったら何してたかバレバレだぞ? 嫌なら後でこい。わかったな?」
「////……は、はい」

 未だ組み敷かれているせいで、色々恥ずかしいのに、尚も羞恥を煽ってくる創さんに、最後に畳み掛けるように押し切られてしまい。

 素直に返事を返した私の頭をぽんと撫でてから、ベッドから降りてしまった創さんは、アッシュグレーのスリーピーススーツとネクタイの乱れを手慣れた様子でささっと正すと。

「菱沼。悪いが、菜々子の体調が戻るまでそこで待ってやってくれ。俺は先に戻る」
「はい、かしこまりました」
「じゃあ、頼む」

 部屋の外の菱沼さんに指示を出すとそのまま部屋から出て行ってしまったのだった。


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