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#43 王子様の嫉妬!? ⑵
しおりを挟む私が怖がっていなかったと分かった途端に、ホッとして胸を撫で下ろしているような様子を見せる桜小路さん。
その様子からも、桜小路さんが少なからず私のことを気にかけてくれているというのは分かる。
それにさっきあんなに怒っていた理由も、恭平兄ちゃんに嫉妬してたというのが、一番しっくりとくる。
――でもどうしても信じられない。
冷静になって考えれば考えるほど、そんなことありえない、としか思えないのだ。
だって、私はただ、桜小路さんに利用されるだけの存在でしかない。
嫉妬するってことは、桜小路さんが私のことを好きじゃないにしても、少なからず好意を持っているってことだろう。
でもまだ出逢って一週間も経ってもいないのに、そんなことあるだろうか……。
百歩譲って、私のほうが、どこかの国の王子様のようなイケメンである桜小路さんになら一目惚れすることはあるだろう。
けど、桜小路さんが、どこにでも転がっていそうな平凡な顔つきの私に、一目惚れするとはどうしても考えられない。
自分でそんなこと分析するなんて虚しいけれど、本当のことだからしょうがない。
否でも、桜小路さんってちょっと変わったとこあるし、あり得ないこともないのかな? てことは、やっぱり桜小路さんが私のことを好きってこと?
――キャー、どうしよう。ちょっと嬉しいかも。
色々思案しているうちにそんな仮説に行き当たった私の顔からつま先までが瞬く間に真っ赤に色づいていく。
照れを通り越して無性に恥ずかしくなってきた私は、両掌で顔を覆い隠して身悶えてしまっている。
そんな私の異変に気づいたらしい桜小路さんは、さっきまでホッとした様子を見せていたはずが……。
「おい、菜々子。急に真っ赤になって、今度はどうした?」
私の両手を顔からさっさと引き剥がし顔を覗き込んできた桜小路さん。
その口調はいつもの無愛想なもので、表情だって怪訝そうで、眉間には皺まで寄せている。
でも不思議なことに、桜小路さんが自分に好意を持っていると思うと、それもまた可愛らしい、なんて思ってしまうから不思議だ。
――やっぱりこういうときのイケメンの威力は凄まじいなぁ。
未だ暢気にそんなことを思ってしまって、なんの反応も示さない私に、とうとう業を煮やした桜小路さんから、不機嫌極まりない声音が放たれることとなった。
「おい! チビ助! お前のこの耳は飾りなのか?」
そればかりか、言い終えないうちに私の左側の耳たぶをグイグイと強く摘まんで引っ張られてしまったから堪らない。
その痛みの所為で、いきなり強制的に現実世界に引き戻された私は、余計なことを口走ってしまうのだった。
「もう、ちょっと何するんですか? 痛いじゃないですか! それが好きな人に対してすることですか?」
直後、例えるなら、鳩が豆鉄砲を食らったときのような表情を浮かべて固まってしまった桜小路さん。
その様は、なんとも間抜けで、折角のイケメンフェイスが台無しだ。
――何? どういうこと? 私、何か変なこと言っちゃった?
ついさっき放った自分の発言を思い返してみて初めて、自分の自意識過剰発言に気がついた。
その間抜けさは、桜小路さんの表情の比ではない。大間抜けにもほどがある。
――あー、今すぐ消えてしまいたい。
なんて思ったところで、そんなことできるはずもない。
うっかり者の私が二度にわたる自分の失言に後悔の念を抱いてる隙に、我を取り戻したらしい桜小路さんからの、これ以上にないってくらい小バカにした半笑いの声が私のことを追い込んでくる。
「……もしかして、俺がお前のことを好きだとでも言いたいのか? フンッ、馬鹿馬鹿しい。寝言は寝てからにしろ」
最後には、いつもの如く鼻で笑って、吐き捨てられてしまう始末。
――そんな言い草あんまりだ!
元はといえば、恭平兄ちゃんのことで嫉妬してるような言い方をしたのは桜小路さんの方なんだから。
……もしかして、『俺のことを好きにさせてやる』とか偉そうなこと言ってたのに、私のことを好きになったなんて言えないから、誤魔化してたりして。
――もう、桜小路さんってば、素直じゃないんだからぁ。
自分からは恥ずかしさもプライドもあってハッキリ言えないのなら、ここは私から言ってあげた方がいいのかも。
もしかしたら、自分の気持ちに気づいていないってこともあるかもしれないし。
桜小路さんの言葉に怒ってたはずが考えはもう違う方向に突き進んでいて、自分の自意識過剰発言なんてスッカリ棚に上げていた。
「もう、ヤダなぁ。今更隠さなくってもいいんですよ? さっき、『菜々子があの男のことを好きなのかと思ったら、無性に腹が立って、つい』って言ってたじゃありませんか? それって、恭平兄ちゃんに嫉妬したってことですよね? つまり、私に好意があるってことじゃないですかぁ」
もう完全に思考はお花畑全開になってしまっている私は、桜小路さんの小バカ発言なんてそっちのけで、桜小路さんの言動について勝手な解釈を本人にぶつけてしまっていて。
言いながらなんだか気恥ずかしくなってきて、最後には、
「もう、ヤダ~。こんなこと言わせないでくださいよ~」
なんて言いつつ、相変わらずソファで桜小路さんに組み敷かれたままの体勢で、両手で顔を覆い隠して再び身悶え始めたのだった。
そうしたら桜小路さんによって呆気なく両手を顔から引き剥がされてしまい。
「キャー、もう、何するんですか。恥ずかしいじゃないですか~」
真っ赤になりつつも抗議したのだけれど。
「フンッ、知ったことか。それよりさっきのことだ。確かに、『無性に腹が立って』とは言ったが……。それは、あれだ。自分の使用人が俺以外の命令に従うのが、腹立たしいっていうのと同じ感覚であって、別にお前に限ったことじゃない。勘違いするな」
全てが私の勘違いだということを説明されて、私はこれ以上にない羞恥に身悶えさせられる羽目になった。
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