拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

羽村美海

文字の大きさ
上 下
44 / 111

#43 王子様の嫉妬!? ⑵

しおりを挟む

 私が怖がっていなかったと分かった途端に、ホッとして胸を撫で下ろしているような様子を見せる桜小路さん。

 その様子からも、桜小路さんが少なからず私のことを気にかけてくれているというのは分かる。

 それにさっきあんなに怒っていた理由も、恭平兄ちゃんに嫉妬してたというのが、一番しっくりとくる。

――でもどうしても信じられない。

 冷静になって考えれば考えるほど、そんなことありえない、としか思えないのだ。

 だって、私はただ、桜小路さんに利用されるだけの存在でしかない。

 嫉妬するってことは、桜小路さんが私のことを好きじゃないにしても、少なからず好意を持っているってことだろう。

 でもまだ出逢って一週間も経ってもいないのに、そんなことあるだろうか……。

 百歩譲って、私のほうが、どこかの国の王子様のようなイケメンである桜小路さんになら一目惚れすることはあるだろう。

 けど、桜小路さんが、どこにでも転がっていそうな平凡な顔つきの私に、一目惚れするとはどうしても考えられない。

 自分でそんなこと分析するなんて虚しいけれど、本当のことだからしょうがない。

 否でも、桜小路さんってちょっと変わったとこあるし、あり得ないこともないのかな? てことは、やっぱり桜小路さんが私のことを好きってこと?
  
――キャー、どうしよう。ちょっと嬉しいかも。

 色々思案しているうちにそんな仮説に行き当たった私の顔からつま先までが瞬く間に真っ赤に色づいていく。

 照れを通り越して無性に恥ずかしくなってきた私は、両掌で顔を覆い隠して身悶えてしまっている。

 そんな私の異変に気づいたらしい桜小路さんは、さっきまでホッとした様子を見せていたはずが……。

「おい、菜々子。急に真っ赤になって、今度はどうした?」

 私の両手を顔からさっさと引き剥がし顔を覗き込んできた桜小路さん。

 その口調はいつもの無愛想なもので、表情だって怪訝そうで、眉間には皺まで寄せている。

 でも不思議なことに、桜小路さんが自分に好意を持っていると思うと、それもまた可愛らしい、なんて思ってしまうから不思議だ。

――やっぱりこういうときのイケメンの威力は凄まじいなぁ。

 未だ暢気にそんなことを思ってしまって、なんの反応も示さない私に、とうとう業を煮やした桜小路さんから、不機嫌極まりない声音が放たれることとなった。

「おい! チビ助! お前のこの耳は飾りなのか?」

 そればかりか、言い終えないうちに私の左側の耳たぶをグイグイと強く摘まんで引っ張られてしまったから堪らない。

 その痛みの所為で、いきなり強制的に現実世界に引き戻された私は、余計なことを口走ってしまうのだった。

「もう、ちょっと何するんですか? 痛いじゃないですか! それが好きな人に対してすることですか?」

 直後、例えるなら、鳩が豆鉄砲を食らったときのような表情を浮かべて固まってしまった桜小路さん。

 その様は、なんとも間抜けで、折角のイケメンフェイスが台無しだ。

――何? どういうこと? 私、何か変なこと言っちゃった?

 ついさっき放った自分の発言を思い返してみて初めて、自分の自意識過剰発言に気がついた。

 その間抜けさは、桜小路さんの表情の比ではない。大間抜けにもほどがある。

――あー、今すぐ消えてしまいたい。

 なんて思ったところで、そんなことできるはずもない。

 うっかり者の私が二度にわたる自分の失言に後悔の念を抱いてる隙に、我を取り戻したらしい桜小路さんからの、これ以上にないってくらい小バカにした半笑いの声が私のことを追い込んでくる。

「……もしかして、俺がお前のことを好きだとでも言いたいのか? フンッ、馬鹿馬鹿しい。寝言は寝てからにしろ」

 最後には、いつもの如く鼻で笑って、吐き捨てられてしまう始末。

――そんな言い草あんまりだ!

 元はといえば、恭平兄ちゃんのことで嫉妬してるような言い方をしたのは桜小路さんの方なんだから。

……もしかして、『俺のことを好きにさせてやる』とか偉そうなこと言ってたのに、私のことを好きになったなんて言えないから、誤魔化してたりして。

――もう、桜小路さんってば、素直じゃないんだからぁ。

 自分からは恥ずかしさもプライドもあってハッキリ言えないのなら、ここは私から言ってあげた方がいいのかも。

 もしかしたら、自分の気持ちに気づいていないってこともあるかもしれないし。

 桜小路さんの言葉に怒ってたはずが考えはもう違う方向に突き進んでいて、自分の自意識過剰発言なんてスッカリ棚に上げていた。

「もう、ヤダなぁ。今更隠さなくってもいいんですよ? さっき、『菜々子があの男のことを好きなのかと思ったら、無性に腹が立って、つい』って言ってたじゃありませんか? それって、恭平兄ちゃんに嫉妬したってことですよね? つまり、私に好意があるってことじゃないですかぁ」

 もう完全に思考はお花畑全開になってしまっている私は、桜小路さんの小バカ発言なんてそっちのけで、桜小路さんの言動について勝手な解釈を本人にぶつけてしまっていて。

 言いながらなんだか気恥ずかしくなってきて、最後には、

「もう、ヤダ~。こんなこと言わせないでくださいよ~」

なんて言いつつ、相変わらずソファで桜小路さんに組み敷かれたままの体勢で、両手で顔を覆い隠して再び身悶え始めたのだった。

 そうしたら桜小路さんによって呆気なく両手を顔から引き剥がされてしまい。

「キャー、もう、何するんですか。恥ずかしいじゃないですか~」

 真っ赤になりつつも抗議したのだけれど。

「フンッ、知ったことか。それよりさっきのことだ。確かに、『無性に腹が立って』とは言ったが……。それは、あれだ。自分の使用人が俺以外の命令に従うのが、腹立たしいっていうのと同じ感覚であって、別にお前に限ったことじゃない。勘違いするな」

  全てが私の勘違いだということを説明されて、私はこれ以上にない羞恥に身悶えさせられる羽目になった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです

冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...