拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

羽村美海

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#19 ブランマンジェのその前に ⑴

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 愛梨さんのことはさておき、私は午後から桜小路さんに言い渡されていたブランマンジェ作りに勤しんでいた。

 フランス語で『白い(ブラン)食べ物(マンジェ)』という意味を持つブランマンジェ。イタリアのパンナコッタとよく混同されるが、アーモンドの香りを付けるところが大きく異なる。

 砂糖とアーモンドで作るのが起源とされるが、中世の頃には、鶏肉や蛙の肉を入れた液状のスープとして食されていたらしい。

 ブランマンジェの作り方は至ってシンプル。

 温めた牛乳に砂糖とゼラチンを溶かして、冷やしてから生クリームを加えて冷蔵庫で冷やし固めるのが基本だ。

 好みに合わせ、口当たりをサラッとしたものにしたい場合は、生クリームをそのまま加え、もっちりとした食感にしたい場合は、生クリームを泡立ててから加えたりすることもできる。

 誰にでも簡単にできそうだけれど、温めた牛乳を十一度まで冷やすという細かい温度調整が重要になる。

 それを怠ると、生クリームを加えるときに分離してしまったりという失敗をしてしまうことも結構あるようだ。

 まぁ、それだって温度計を使えば済むことだし、近頃は百円ショップに行けば手に入るだろうから、家でも気軽に美味しいブランマンジェを作ることができるだろう。

 今朝、桜小路さんが言っていた『帝都ホテル』で春限定で提供されているブランマンジェには、新鮮なイチゴをふんだんに使った甘酸っぱい色鮮やかなソースが添えられている。

 勿論大きめにカットされたイチゴも彩りよくあしらってあり、シンプルだがなんとも春らしい一品だ。

 時計の針が午後五時五〇分を示す頃には、ブランマンジェも夕飯もできあがり、あとは桜小路さんの帰宅を待つばかり。

 今日もほぼ昨日と同じ、午後六時過ぎにインターフォンが鳴り、桜小路さんと菱沼さんを玄関ホールで迎え入れているところだ。

「おかえりなさいませ~!」

 またどうせメイド喫茶の店員だなんだと好き勝手言われるかと思っていたのだが、少しばかり様子が違っていた。

「あー」

 桜小路さんから開口一番いつもの素っ気ない無愛想な声が出た直後のことだ。

 どういうわけか、「クッシュン、クッシュンッ、ハックションッ」という具合に桜小路さんはくしゃみを何度も何度も連発しはじめた。

 その傍で慌てた菱沼さんが常備していたらしいポケットティッシュを取り出して桜小路さんに手渡して、今度は医療用と思われる鼻炎スプレーをビジネスバックから取り出した。

 そして休むことなく、慣れた手つきでキャップを取り外し桜小路さんの顔へと近づけ、それに気づいた桜小路さんが大慌てでそれを鼻へとあてがい、プッシュして数十秒後。

 ようやくくしゃみがおさまった様子の桜小路さんが、「はーー」と大息をついて、力尽きたように玄関ホールの床にしゃがみこんでしまった。

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