拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

羽村美海

文字の大きさ
上 下
87 / 111

#86 王子様からの贈り物 ⑵

しおりを挟む

 朝食後、それぞれに身支度を済ませた私たちは、都心のビルの上層階にある、”都会のオアシス”をコンセプトに造られたという水族館に来ていた。

 エリアが海中・浜辺・天空の三つのテーマに分かれていて、テーマにちなんだ演出のなされた館内は、都会のビルの中にあるとは思えない、非日常を味わえる癒やしの空間となっている。

 ここへ来るまでの車の中では、創さんにプレゼントしてもらった着慣れないクラシカルな淡いブルーのフレアワンピースの足元がスースーして落ち着かなかった。

 勿論、後部座席に隣り合わせで座っている創さんの、見慣れたスーツ姿ではなく、真っ白なTシャツの上に爽やかなネイビーのコットンジャケットを羽織っただけだというのに、ファッション雑誌から抜け出したんじゃないかと思うくらいに格好良すぎる創さんの姿に、緊張してしまってたというのもある。

 でもそれだけでなく、今日は一日中、ふたりきりなのかとドキドキしていたのだが、鮫島さんの運転するいつもの黒塗りの高級車だったので、ホッとしたようなちょっぴり残念なような、そんな心持ちでもあった。

 けれども、そんなことよりも、車に乗ってすぐに創さんに肩を抱き寄せられて。

『俺の車でもよかったんだが、そうしたら運転中、菜々子に触れられないから鮫島に頼んだんだ。脇見運転して事故っても困るしな』

 耳元で、甘やかな声音で悪戯っぽく囁かれ、たちまち真っ赤になってしまった私の頬に、チュッと軽く口づけた直後には。

『こういうこともできないしな』

 そんなことを囁かれてそのまま膝の上にゴロンと頭をのっけられてしまえば、もう何かを考えるような余裕など霧散していた。

 まぁ、そんなこんなで、初デートとあってか、これまで以上の溺愛モードとでもいおうか、激甘な創さんとの記念すべき初めてのデートがスタートしたのである。

 慣れというのは恐ろしいもので、あんなに緊張しまくりだったというのに、いざ水族館に足を踏み入れてしまえば、私は無邪気な子供のようなはしゃぎっぷりを創さんに披露していた。

 因みに、現在私と創さんが居るのは屋上にある天空エリアだ。

「うわぁ!? 凄いッ! 創さん、創さん。本当にペンギンが空飛んでますよッ!」
「ハハッ、そんなに何度も説明してくれなくても見れば分かる」

 興奮しきりの私は、マップを片手に館内をエスコートするように私の腰に手を回して歩く創さんの腕をぐいぐい引っ張って、さっきから、抜けるように鮮やかなスカイブルーの空を水槽に閉じこめたかのように見える透明のトンネルの中を、気持ちよさげに泳ぐペンギンの姿に魅入っている。

 そんな私のことを今朝と同じように軽く笑い飛ばして鋭いツッコミを入れながらも、創さんもとっても楽しそうにずっと破顔したままだ。

 だから余計に私ははしゃいでしまっていたのだった。

 お陰で、いい具合に緊張も解れて、いつしか創さんのツッコミにも、ムッとして言い返してみたり、時には顔を見合わせて笑い合ってみたりと、恋人らしいやりとりもできていたように思う。

 これまで話したことがなかったことも話したりもした。

「そうですけど、こんなの見るの初めてなんですもんッ!」
「家族と来たことなかったのか?」
「はい。学校が休みの日は店があったんで」
「……あぁ、悪い。そうだよな」

 時には、ちょっと踏み込みすぎて躊躇してみたり。

 それをフォローし合うように、またお互いのことを話したりして。

「あっ、でも、子供の頃から母や伯母がお菓子作るの身近で見るのが好きだったのもあって、早く自分も作れるようになりたいって思ってたので。出かけたりするよりも、店の手伝いをする方が楽しかったんで、全然……って、ちょっと変わってますよね? へへっ」
「否、凄いことだと思う。きっとその頃から菜々子は今みたいに輝いてたんだろうなぁ」
「////……そっ、それはどうか分かんないですけど。創さんの方が輝いてますよ。もう、キラキラしすぎて眩しいくらいですッ!」
「……ん? あぁ、確かに。今日は暑いし、水面に反射するせいか、陽差しが余計に強く感じるのかもなぁ」
「……いや、まぁ、そうなんですけど……」
「暑いし、そろそろ屋内のエリアに行くか?」
「……はい」

 意外にも、創さんがちょっと天然なところがあるということにも、気づくこともできたし。

 初日から、緊張でどうなることかと案じていたけれど、すべては杞憂に終わって、文字通り"記念すべき初デート"となった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...