88 / 111
#87 王子様からの贈り物 ⑶
しおりを挟む朝からはしゃぎ通しだった私は、案の定、帰りの車中で転た寝をしてしまうという大失態を犯してしまうのだった。
車が揺れる微かな振動がゆりかごのように心地よくて、程よい疲労感との相乗効果で、いつしか寝入ってしまってたらしい。
「……ん? ああーッ!? 私ってば、いつの間にッ!」
不意に目を覚ました私が慌てて起き上がろうとするも、転た寝していた場所がなんと創さんの膝の上だったために、それは叶わなかった。
「疲れただろうからこのままじっとしてろ。マンションに着いたら俺が運んでやるから。いいな?」
「////……ッ!?」
否、正確には、飛び起きようと思えばいくらでもできたのだけれど、寝起きで食らってしまった、創さんの蕩けるような笑顔の威力が凄まじすぎて、できなかったのだ。
あたかも石にでもされてしまったかのように、カッチーンと硬直してしまっている私のことを膝枕してくれている創さんは、相変わらず蕩けるように甘やかな笑顔を綻ばせつつ、私の額やら頭を優しく撫でてくれている。
胸はドキドキするし頭もクラクラとしてきて、どうにかなってしまいそうだ。
けれどそれは、創さんの極上の笑顔と膝枕の効果だけが原因ではなかった。
どういうことかというと……。
水族館をあとにしてから、ウインドーショッピングしたりしているうちにすっかり日も暮れていて、小洒落たイタリアンのレストランで夕食も済ませているので、あとはもう帰るだけ。
創さんとの記念すべき初デートだし、おそらく今夜は――。
そこまで思い至った私の脳裏には、創さんと想いが通じあったあの夜のあれこれが映像となって鮮明に浮かんでいたのだった。
あの日は土曜日で今日が火曜日だから、まだほんの三日ほどしか経っていないため、それはもうくっきりハッキリと。
因みに、あの日以来、”そういうこと”はしていない。
だから、そろそろそういうことがまたあるんじゃないだろうか。
そんな緊張感に見舞われている間に、車はいつの間にやらマンションの駐車場へと到着してしまっていて。
「明日もいつもの時間に頼む」
「はい。畏まりました。それでは失礼いたします」
「あぁ、世話になった。気をつけてな」
極度の緊張感に見舞われてもはや微動だにできずに居る私のことをひょいっと難なくお姫様抱っこしている創さんは、鮫島さんと言葉を交わすと、スタスタと歩き出してしまうのだった。
――いよいよなんだ。
そう思いつつ創さんの腕の中で身構えていたのだけれど。
「どうした? やけに静かだな? もしかして、このあとのことを案じてるのか?」
「////……ッ!?」
それをあっさり見破られてしまい、真っ赤になって狼狽えることしかできないで居る私に向けて。
「ハハッ。菜々子は分かりやすいな。顔に全部書いてあるぞ?」
創さんが尚も追い打ちをかけてきた。
その言葉に、うっかり者の私は思わず顔に手を当てて確認するというおバカっぷりを披露してしまっている。
そんな私のことをやっぱり蕩けるような笑顔を湛えたイケメンフェイスで見つめつつ。
「ハハッ、冗談を真に受けるな。あーあー……。菜々子と一緒だと本当に楽しくて時間が経つのもあっという間だな~」
軽いツッコミをお見舞いしてから、なにやら感慨深げに独り言ちるように呟くと。
今度は、気持ちを切り替えるようにして、
「さてと、帰ったらさっさと風呂に入って寝るぞ」
そう言ってくるなり、
「……あっ、はいッ!」
私の返事を聞き終えないうちに、創さんは、さも何もなかったかのようにスタスタと部屋に向けて歩き出してしまったのだった。
ついさっきまで、あんなにテンパっていたクセに。
――なんだ。何もないのか。
創さんの腕の中で揺られながら、私はがっかりしてしまっていたのだった。
そんな私の心の中には……。
やっぱりこれまで色んな女性とそういうことをしてきたのだろう創さんにとったら、私みたいな処女では、物足りなかったんだろうなぁ。
……もう飽きられちゃったのかなぁ。
いやいや、そんなことはないよね。今だって、私と一緒だと楽しくてあっという間に時間が過ぎるって言ってくれてたんだもん。
――愛梨さんが言ってくれたように、創さんのことを信じないと。
いつしか不安が芽生えていて、でもそれを愛梨さんの言葉のお陰ですぐに打ち消すことのできた私は、気持ちを切り替えることができたのだった。
翌日の二日目のデートでは、昼間は映画館で初めてのカップルシートで創さんとゆっくり寛ぎながら流行の映画を鑑賞して、夜は創さんの提案により、都会の夜景を優雅に眺めながら美味しいディナーを堪能するという、なんとも贅沢なナイトクルージングを楽しんだ。
その翌日の三日目のデートでは、ちょっと遠出をすると言うからどこに行くかと思えば、なんとチャーターしたヘリに乗って、都心から富士山の麓までの空中ドライブを楽しみつつ、辿り着いた綺麗な湖の畔にある素敵なコテージでは、しばし都会の喧騒を忘れて、ゆったりのんびりと過ごしたりもした。
王子様然とした創さんと夢のようなひと時を過ごしているうちに、一週間なんてあっという間に過ぎ去っていて、とうとう休日の最終日である夜を迎えてしまっている。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです
冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる