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本物の夫婦として

本物の夫婦として④

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 尊との甘やかなキスに酔い痴れていた美桜が完全に蕩けきった頃には、身につけていたパジャマは取り払われていた。

 妊娠しお腹が膨らんできたこともあり、自分からその気にさせたクセに、今さらながらにそのことが気になってくる。

 美桜はそうっと羽毛布団を引き寄せ身体を覆い隠す。

 実は、購入したひよこっこクラブの新米ママのお悩み相談室というコーナーで、妊娠・出産をきっかけに、夫が妻のことを女性ではなく、母親としてしか見られなくなったことで、セックスレスになってしまった。という記事を目にしてしまったからだ。

 尊は、恥じらう素振りを見せる美桜のことを蕩けそうなほど甘い眼差しで見つめている。

 美桜の妊娠を知ってから今日まで、およそ三ヶ月近く。我慢してなかったと言えば嘘になる。

 三十歳と言えば男盛りなのだから無理もない。

 けれどそんなことよりも、美桜の身体のことがなによりも気にかかる。

 なんとか湧き上がってくる劣情を抑えようと必死だというのに……。

 ーーなんなんだ。その可愛らしい反応は。あー、クソッ! 今すぐ飛びかかって貪り尽くしたくなるではないか。

 尊は己の劣情と理性との狭間で揺れに揺れていた。

 美桜の手前、そんな心情など露も見せない素振りで至って冷静を装い、着ているカットソーを脱ぎ捨てる。

 美桜に再び視線を戻すと、さっきまで恥じらっていた美桜はポーッとしてしまっている。

 不思議に思った尊は、できるだけ優しい声で問い返す。

 もしも体調が悪いようなら、無理はさせられない。美桜が言い出しやすいようにするためだ。

「ん? どうした?」

 その声に、美桜はハッとする。

 体型のことを気にしていたはずが、匂い立つような圧倒的な色香を纏う尊の鍛えられた芸術品のような裸体と、描かれた刺青に魅入られていたからだ。

 だがそれだけではない。

 妊娠前、尊に幾度となく翻弄された、甘やかで濃厚なひとときを思い出し、胸を高鳴らせ、火照った身体は甘く疼き、秘所からはじんわりと愛蜜が滲み出てしまっている。

 そのことを尊に悟られまいと返事を返したところで、結局は尊のペースに乗せられて、なにもかもを晒してしまうこととなるのだけれど。

「刺青、綺麗だなって」
「は? 綺麗なのは美桜の方だろう。だから隠さずにちゃんと見せてみろ。ほら」

 美桜の言葉に理性を持ってかれそうになった尊だったが、なんとかやり過ごす。

 その間、およそ数秒足らず、尊の葛藤に余裕のない美桜が気づけるはずもない。

 一瞬唖然としていた尊は、いつもの調子で羽毛布団を引き剥がそうとする。

「あっ、あの。妊娠中は体型が気になるので着たままじゃ……駄目……ですか?」

 慌てた美桜は余計なことまで口走っていた。そのことに途中で気づいたところで、尊が聞き逃してくれるはずもない。そうは思いつつも、なんとか上目遣いで窺ってみる。

 尊は至極嬉しそうに、満面に笑顔を湛え、自信たっぷりに言い放つ。

「なんだ。そんなこと気にしてたのか。それなら問題ない」
「え?」

 美桜は嫌な予感を感じつつ、尊の出方を見守ることしかできない。

 そんな美桜の手をそうっと持ち上げた尊は、スウェットの上からでもわかるくらいに、天を突き上げんばかりに存在感を露わにしている猛々しい屹立へと導いた。

「ほら、こんなに元気になってるんだ。なんの問題もないだろ」
「ーーッ!?」

 途端に、掌を通して、滾るように熱くなった昂りがブルブルと武者震いの如く打ち震える感触がダイレクトに伝わってくる。

 たちまち美桜の身体がカァッと滾り、秘所からはとうとう愛蜜が太腿まで滴る感触が広がっていく。

 これ以上にないほどの羞恥に見舞われた美桜は、顔どころか全身を真っ赤に色づけてしまう。

 けれどまだまだはじまったばかり。

 これからどんな意地の悪い言葉攻めをお見舞いされるのだろうかと、内心身構えていると。

「それにしても心外だな。俺の愛情を舐めんなよ。美桜の見かけがどんなに変わろうが、俺の気持ちは変わらない。一生愛し抜いてやるから安心しろ」

 少し拗ねた表情の尊に頬を両手で捉えられ、言い聞すように優しい台詞が降らされた。

 返答の代わりに、素直に頷いてみせた美桜の胸はあたたかなもので満たされていく。

 そんな美桜の元に、尊から独占欲剥き出しの狂気めいた台詞が降らされたことで、美桜の美桜の身も心も歓喜に打ち震える。

「その代わり、浮気なんかしてみろ。地獄の底まで追いかけてやるからな」
「はい」

 嬉しさを通り越して夢心地の美桜は、なんの躊躇もなく即答していた。

 尊は素直な美桜のことを満足そうに見遣ると。

「なら、遠慮は無用だな。俺がどんなに美桜のことを愛しているかを今からたっぷりと教えてやる。いいな?」

 これまで幾度となく耳にしてきた尊の傲慢ともとれる愛の言葉に、美桜が素直にコクンと顎を引いたことにより、甘い甘い夢のようなひとときが幕を開けた。

 それはこれまでのものとは違い、身重の美桜の身体を労るような、とても優しくて焦れったくももどかしいものだった。

 以前にも増して丸みを帯びた美桜の柔らかな白い肌を味わい尽くすように、尊の手指が身体の至ることろに這わされる。

 美桜の身体の負担にならぬよう、背後から横臥の体勢で包み込み、たわわに実った果実のような柔らかな乳房を掌でふるふると弾力を愉しむようにして優しく揉みしだく。

 そのたびに、甘やかな痺れが全身へと駆け巡る。

「あっ、はぁぅ……や、あんッ」

 美桜の柔らかな唇からは、甘えるような艶めいた喘ぎ声が零れ落ちていく。

 やがて尊の手がしとどに濡れた泥濘へと這わされ、溢れた愛蜜を塗りたくるように、花芽を指で捏ね始めた。

「あっ……ひゃん」

 途端に、ビクビクンッと美桜の身体がしなり、美桜は甘すぎる愉悦に身悶える。

 もっともっと強い刺激が欲しいのに、それを口にできない自分がもどかしい。

 けれどもう余裕もない。

 無意識に尊の腕をぎゅっと掴み、縋ることで意思表示した。

 すぐに気づいてくれた尊が優しく気遣ってくれる。

「どうした? 辛いか?」

 思い違いをしているらしい尊の方に振り返り。

「尊さんが……今すぐ……欲しいぃ」

 そう言って返すのが精一杯。

 一瞬、驚いたようにピタリと動きを止めた尊が、お腹を避けてぎゅうっと強く抱きしめてくる。

 そうして余裕なく苦しげに呻くと。

「俺もだ。俺も美桜のナカに今すぐ入りたくて堪らない。でも、辛くなったらいつでも言うんだぞ? いいな?」

 コクコクと頷く美菜の頭を優しい手つきで撫でつつ、首筋に顔を埋め口づけてきて、既に避妊具を纏った屹立を背後からゆっくりと押し進めてくる。

 じれったいほど慎重に少しずつ少しずつ、美桜の反応を窺いながら。

 そんな尊の形のいい唇からは、熱い息遣に紛れて、苦しそうな呻き声が漏れ、美桜の鼓膜と身体とを打ち震わす。

 尊自身を再奥まで受け入れた途端、甘やかな愉悦と、微睡みのような幸福感とに包み込まれた。
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