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極道の妻として
極道の妻として④
しおりを挟む樹里とのことがずっと気になって仕方なかったが、以前、櫂に話していたように、尊にとって樹里は姉同然なのかもしれない。
もし仮に、尊が樹里のことを女性として慕っていたのなら、いくら政略結婚だとはいえ美桜と夫婦になんてならないだろう。
それに、この政略結婚は、美桜とビジネスパートナーになるためのものであり、美桜を天澤家から救い出すためのものでもある。
優しい尊のことだから、美桜に同情してくれたにすぎないのだろう。
それでもこうして結婚までしてくれた。
それだけでも有り難いことなのに、恋を知らない美桜のためだと言って、本物の新妻のことを愛でるように、とても大事に扱ってくれている。
あんまり優しくしてくれるものだから、本当に愛されているのかと錯覚しそうになるぐらいだ。
ーーもしも叶うのなら、このまま一緒に同じ時間を共有しているうちに、情が湧いて、情からいつしか愛情が芽生えてくれるといいなぁ。
樹里とのことで不安だったはずが、現金な美桜はそんな淡い期待を胸に抱きつつ、尊の身体に寄り添いながら瞼を伏せうつらうつらし始めていた。
「おい、美桜? 疲れてるのはわかるが、こんな無理な体勢で転た寝なんかしてたら余計疲れるだろ」
ふわふわと綿菓子のように柔らかな雲の波間にでもたゆたうような、幸福感のなかに浸っていた美桜は、尊の声にはっとし飛び起きる。
だが驚きの余り、美桜はソファから危うく転げ落ちそうになり、それを寸での所で尊に抱き留めてもらったことで、難を逃れた。
「おっと」
「……あ、ありがとうございますッ」
「いや。随分と疲れてるみたいだし、もう休んだ方がいい」
床への転倒を免れ、美桜が安堵するのも束の間。このまま美桜を寝室まで運びそうな勢いの尊の言葉に、そうはさせまいと、慌てた美桜は尊の身体にギュッとしがみつく。そして。
「まだ寝たくありません。このままじゃ……ダメ……ですか?」
ほとんど勢い任せに、そんなことを口走っていた。
だが途中から我に返り、言葉は弱々しく途切れてしまう。それでも全てを言い切った美桜は、熱くなった顔を尊の胸にぎゅっと押し当てることで隠すことしかできずにいる。
行為の途中で羞恥を手放しているならともかく、こんな風に真正面から尊にお強請りしたのは夫婦になって初めてかもしれない。
美桜のやけに素直な言動に一瞬目を丸くさせた尊だったが、心底嬉しそうにふっと柔らかな微笑を漏らすと、美桜のことを大事そうに両手で抱え直した。
気づけば、美桜は尊の脚に跨がるような格好で、正面から向かい合うようにして抱き込まれてしまっている。
そうして耳元に顔を寄せてきた尊に、
「今日はまたえらく素直だな。そんなに俺に甘えたかったのか?」
低い声音で甘やかに囁かれてしまっては、尊のことを好きでどうしようもない美桜には、いつものように素直にコクンと顎を引くことしかできない。
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