80 / 101
極道の妻として
極道の妻として④
しおりを挟む樹里とのことがずっと気になって仕方なかったが、以前、櫂に話していたように、尊にとって樹里は姉同然なのかもしれない。
もし仮に、尊が樹里のことを女性として慕っていたのなら、いくら政略結婚だとはいえ美桜と夫婦になんてならないだろう。
それに、この政略結婚は、美桜とビジネスパートナーになるためのものであり、美桜を天澤家から救い出すためのものでもある。
優しい尊のことだから、美桜に同情してくれたにすぎないのだろう。
それでもこうして結婚までしてくれた。
それだけでも有り難いことなのに、恋を知らない美桜のためだと言って、本物の新妻のことを愛でるように、とても大事に扱ってくれている。
あんまり優しくしてくれるものだから、本当に愛されているのかと錯覚しそうになるぐらいだ。
ーーもしも叶うのなら、このまま一緒に同じ時間を共有しているうちに、情が湧いて、情からいつしか愛情が芽生えてくれるといいなぁ。
樹里とのことで不安だったはずが、現金な美桜はそんな淡い期待を胸に抱きつつ、尊の身体に寄り添いながら瞼を伏せうつらうつらし始めていた。
「おい、美桜? 疲れてるのはわかるが、こんな無理な体勢で転た寝なんかしてたら余計疲れるだろ」
ふわふわと綿菓子のように柔らかな雲の波間にでもたゆたうような、幸福感のなかに浸っていた美桜は、尊の声にはっとし飛び起きる。
だが驚きの余り、美桜はソファから危うく転げ落ちそうになり、それを寸での所で尊に抱き留めてもらったことで、難を逃れた。
「おっと」
「……あ、ありがとうございますッ」
「いや。随分と疲れてるみたいだし、もう休んだ方がいい」
床への転倒を免れ、美桜が安堵するのも束の間。このまま美桜を寝室まで運びそうな勢いの尊の言葉に、そうはさせまいと、慌てた美桜は尊の身体にギュッとしがみつく。そして。
「まだ寝たくありません。このままじゃ……ダメ……ですか?」
ほとんど勢い任せに、そんなことを口走っていた。
だが途中から我に返り、言葉は弱々しく途切れてしまう。それでも全てを言い切った美桜は、熱くなった顔を尊の胸にぎゅっと押し当てることで隠すことしかできずにいる。
行為の途中で羞恥を手放しているならともかく、こんな風に真正面から尊にお強請りしたのは夫婦になって初めてかもしれない。
美桜のやけに素直な言動に一瞬目を丸くさせた尊だったが、心底嬉しそうにふっと柔らかな微笑を漏らすと、美桜のことを大事そうに両手で抱え直した。
気づけば、美桜は尊の脚に跨がるような格好で、正面から向かい合うようにして抱き込まれてしまっている。
そうして耳元に顔を寄せてきた尊に、
「今日はまたえらく素直だな。そんなに俺に甘えたかったのか?」
低い声音で甘やかに囁かれてしまっては、尊のことを好きでどうしようもない美桜には、いつものように素直にコクンと顎を引くことしかできない。
0
お気に入りに追加
393
あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌(月嶋ゆのん)
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
ヤクザのせいで結婚できない!
山吹
恋愛
【毎週月・木更新】
「俺ァ、あと三か月の命らしい。だから志麻――お前ェ、三か月以内に嫁に行け」
雲竜志麻は極道・雲竜組の組長を祖父に持つ女子高生。
家柄のせいで彼氏も友達もろくにいない人生を送っていた。
ある日、祖父・雲竜銀蔵が倒れる。
「死ぬ前に花嫁姿が見たい」という祖父の願いをかなえるため、見合いをすることになった志麻だが
「ヤクザの家の娘」との見合い相手は、一癖も二癖もある相手ばかりで……
はたして雲竜志麻は、三か月以内に運命に相手に巡り合えるのか!?
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!

お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです
紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。
★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★
☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆
※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。
お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる