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ヤクザから突然のプロポーズ!?
ヤクザから突然のプロポーズ⁉①
しおりを挟むいよいよ尊のものにしてもらえると心躍らせていた美桜の願いも虚しく、樹里からの電話で尊が呼びつけられたあの夜から、かれこれ二週間が過ぎようとしている。
あの夜、遅くなるという言葉通り、尊が帰ってきたのは日付が変わった頃のようだった。
美桜はすっかり寝入ってしまい、朝まで一度も目覚めることなく熟睡してしまっていたらしい。
前日、ホテルでそうしてくれていたように、起き抜けの美桜の身体は、背後からすっぽりと包み込むようにして、尊に抱きすくめられていた。
そうしてこれまた素っ裸でないと寝た気がしないという尊のあれこれに、美桜は瞬く間に真っ赤にさせられ。
「朝から真っ赤になって、どうした? また俺にされたことでも思い出して、続きがしてほしくなったのか?」
尚もトドメとばかりに、耳元に顔を埋めてきて、お決まりの言葉攻めまでお見舞いされてしまった。
このまま昨夜の続きに突入かと思いきや……。
またもや着信音という邪魔が入り、尊は早々にT&Kシステムズのオフィスへと出かけてしまった。
なんでも、結婚するに当たっての諸々の準備を進めるために、元々過密だったスケジュールの調整が必要らしく、しばらくは忙しくなるのだという。
お陰で、樹里のことを尊に尋ねようにも、そんな時間などなかった。
ヤスに聞けば、樹里はここには住んではいないらしい。
それを聞いて余計悶々としていた美桜だったが、尊に世話係兼護衛を任せられているのだというヤスと部屋住み中の若衆ーーヒサとワイワイ騒がしく過ごしているうち次第と気持ちも晴れていった。
初見同様、黒い短髪にダークスーツ姿のヤスは尊より二つ歳が下らしいが、金髪の短髪に上下黒のジャージ姿のヒサは、まだ二十歳になったばかりなのだとか。
そのせいか口調は少々軽薄そうだが同じ歳だけあって、とても話しやすく、すぐに打ち解けることができた。
豪華な日本家屋は二階建てで、一階には常にたくさんの構成員らが出入りしているらしい。しかも男所帯。
尊には、『くれぐれもひとりでうろつくな』と口うるさく言いつけられていたので、美桜は大人しく二階の部屋で過ごしている。
部屋にずっと籠っていたのでは退屈だろうからと、いつの間に運び込んでいたのか、華道に欠かせない三点道具ーー長年美桜が愛用し使い慣れた花鋏・剣山・花器(水盤と花瓶)に、色とりどりの花材までが揃えられており、すぐに生け花に没頭することができていた。
これまで華道になど馴染みのなかったのだろうヤスとヒサは、その様を物珍しそうに見入っている。
大好きな花々を前に、美桜はふたりの存在などすっかり忘れ夢中になってしまっていた。
幼い頃から愛用している花鋏は、硬い茎でも難なく切れる優れものだ。
そのためズッシリと重く、使いこなすにはコツが必要になる。
幼い頃は、そのコツがなかなか掴めず苦労したものだった。
美桜は、そんな頃があったなどと露にも思わせない手馴れた手つきで花鋏を扱い、カラー・サンシュユ・ティーリーフ・デルフィニウムらの茎の長さをバランスよく切り揃えていった。
色とりどりの花々の個性を活かして、繊細に時には大胆に、迷いなく鮮やかに生けていく。
ほわんとして見える普段とは違った美桜の凛とした姿に、ふたりは驚きを隠せないといったご様子である。
「おっとりしている姐さんも、華道となるとビシッとしてますねぇ。見違えましたよ」
「ほんとうっすねぇ、メチャメチャ格好いいっす。さっすが若が……じゃなかった。社長が選んだ姐さんっす」
ヤスは舎弟のヒサが一緒だからか、口調にも少し気を配っているようだ。
それでも出迎えてくれたいかにも強面な構成員とは比較にならないほど、雰囲気が明るく軽やかなふたりのやり取りに手を休めほっこりしつつも、美桜には、昨日から少し引っかかっている事があった。
それは、どうして『若頭』である尊のことをわざわざ『社長』と呼び直しているかという点だ。
「あのう、どうしてわざわざ尊さんのことを社長って呼び直すんですか? 他の方は若頭って呼んでましたよね?」
「あー、もちろん普段は若頭って呼んでるんすけどねぇ。姐さんが怖がるといけねーから社長と呼べって、社長にキツーく言われてるんすよ。まぁ、それだけ姐さんの事が可愛くてしょうがないんでしょーねぇ」
「……え?」
ーー尊さんが、そんなことを……?
「ヒサ 、てめー、何でもかんでもべらべら喋んじゃねーよ! 焼き入れられたいんなら手加減しねーぞ!」
「さ、さーせんした」
美桜の問いにヒサがすぐに応えてくれていたのに対し、ヤスが途中でヒサの首根っこを掴んでドスをきかせた声で凄むという、ちょっとしたアクシデントに見舞われはしたが、尊の思いがけない気遣いを知ることとなって。
美桜は、出勤していく尊を七時半に見送ってからまだ三時間ほどしか経っていないというのに、尊のことが恋しくてどうしようもなくなっていた。
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