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鳥籠から出るために
鳥籠から出るために①
しおりを挟むこれまではただ駒としての自分に与えられた役割を果たすためだけに生かされてきた。
今日は、その駒としての役割を果たすために、格式高い高級料亭へと赴いていたはずだったのに……。
ーーこれから私は一体どうなってしまうんだろう。
男からのとんでもない要求に、美桜は混乱する頭で今更ながらにそんなことを案じていた。
身動き一つとれずに瞠目したままの美桜の目に映っている長身の男は、依然、こちらの出方を見定めるようにして、物凄い威圧感と鋭い眼光を放ち続けている。
今一度、ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み下す。
そうすることで覚悟を決めた美桜は、一瞬でも気を抜いてしまえば震え出してしまいそうな手を着物の左右の襟元に引っ掛ける。
そうしてそのままぐいっと両手を下げて、襟元を豪快に寛げようとした刹那。
廊下の方からこちらに近づいてくる足音が響きはじめた。
おそらく優太郎を連れ出したふたりの男が戻ってきたのだろう。
途端に言いようのない羞恥に襲われ、竦みそうになってしまったが、ここでやめるわけにはいかない。
元々は、自分が蒔いた種だ。
ギュッと瞼を強く閉ざし、一思いに襟元の上前と下前をはだけて引き下げようとしたときのこと。
「もうよせ」
突如、さっきから威圧感満載で無表情を決め込んでいた男から制止の声がかかり。
「……え?」
驚いて目を瞠った美桜の口から間抜けな声が飛び出した。
その声を拾った男にすかさず。
「部下が戻ってきたからよせと言ったんだ。どうした? ガッカリしてるのか?」
美桜を止めた理由に続いて、意地の悪い声音で問われたところで、突然のことに思考が追いつかない。
「へっ!?」
口からも意味をなさない言葉が出るばかり。
そんな美桜に、ここぞとばかりに、長身の男がなおも意味深な言葉で攻め立ててくる。
「それとも、二人の前で自分の痴態を晒しながら、この俺に抱かれたいのか?」
「////ーーッ!?」
いくらこういう男女の艶っぽい事に疎い美桜でも、何を示唆されたかぐらいのことはなんとなく察しがつく。
ボンッと顔どころか全身から火でも噴いてしまいそうなほど一気に体温が上昇し、熱くて熱くてどうしようもない。
おそらくどこもかしこも真っ赤に色づいてしまっていることだろう。
あからさまな反応を見せる美桜のことを満足そうに見遣った男から。
「言っとくが。俺は女を輪姦するような性的嗜好は持ち合わせちゃいなから安心しろ。帰ったらたっぷりと愉しませて貰う。そんなとこでボケーッと突っ立てねーで行くぞ」
「ーーへッ!?」
再び届いた言葉に、今度は違った意味で目を丸くした。
大きく見開きすぎたせいで、目玉が落っこちそうだ。
あんなにも恥じらっていたというのに、羞恥心さえもどこかに吹き飛んでしまっている。
ーー帰ったらたっぷり愉しませて貰うって言った? それに、行くってどこへ?
男の言葉には、所々、要領を得ないものも混じってはいたが、とにかく今は、その二点が非常に気にかかる。
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