上 下
13 / 101
突然の乱入者

突然の乱入者⑥

しおりを挟む

 そのことを意識してしまったせいで、美桜は妙な緊張感に襲われる。

 さっきまで自然とできていたはずの呼吸の仕方さえもわからなくなってくる。

 取り込む酸素量が激減したせいで、頭がくらくらとしてきた。

 といっても、別に怖いというわけではない。

 初対面の男といきなりふたりきりの状況に置かれ、どうすればいいかがわからないだけだ。

 見た感じ、愼と同世代に見えることから、おそらく三十代前半ぐらいだろうか。

 『華道界のイケメン王子』と称される甘い顔立ちの愼とは違って、纏っている独特のオーラと凄まじい威圧感に、鋭い眼光のせいか、恐ろしく整った相貌は、とても凜々しく、どこか危うさを孕んでいるようにも見える。

 少し前まで、優太郎の魔の手からは逃れられないだろうと、諦めの境地に達しかけていたというのに。

 いつしか美桜は、眉目秀麗、容姿端麗の言葉を体現したかのような、長身の男の優れた見目にすっかり魅入られてしまっている。

 そんな美桜の元に、悠然と歩みを進めてきた男から、さっきまで優太郎にかけられていたものとは違った、思いの外優しい声音が降らされた。

「怖がらせて悪かったな」

 声をかけられるとは思わず、驚きのあまり、心臓と身体とがビクンッと大きく跳ね上がる。

 その様子に、僅かに目を見開いた男がどうしたことか、急に美桜から顔を背けて肩をふるふると小刻みに震わせはじめた。

 ーーん?   どうしたんだろう、急に。

 美桜がキョトンとしていると、とうとう我慢しきれないとばかりに、男がくっくと笑い声を漏らす。

 そこで自分が笑われていることに気づき、言いようのない羞恥と腹立たしさを覚えた。

 ムッとした美桜が思わず長身の男をキッと睨み返した先には、目尻に涙まで浮かべた男の、無邪気な笑顔が待ち受けていたことで、またもや惹きつけられてしまった目が離せなくなる。

 それだけじゃない。初対面のはずなのに、なぜだか懐かしさを覚えてしまった自分に対しても戸惑うばかりだ。

 美桜の心情を知ってか知らずか、ようやく笑いのおさまったらしい男が、今度は眼前に大きな手をすっと差し出してくる。

「ほら」

 突然の男の言動の意図が掴めない。男の顔と手とに視線を交互に行き来させていると、ふっと柔らかい笑みを零した男が思わず漏らしたのだろう小さな呟きに、美桜はますます首を傾げるしかなかった。

「ぼうっとしてるのは相変わらずだな」

 唐突だったことで、呟きのすべてを拾えなかったというのもあるが。

 そんなことよりも、畏怖を抱かせるほどの威圧感を纏う男がチラチラと垣間見せる優しい表情に、いちいち惹きつけられて、苦しいほどに胸を高鳴らせてしまう自分の事が不可解でしかなかったからだ。

 ーー私ってば、さっきからどうしちゃったんだろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした!

如月 そら
恋愛
「それなら、いっそ契約婚でもするか?」  そう言った目の前の男は椿美冬の顔を見てふっと余裕のある笑みを浮かべた。 ──契約結婚なのだから。 そんな風に思っていたのだけれど。 なんか妙に甘くないですか!? アパレルメーカー社長の椿美冬とベンチャーキャピタルの副社長、槙野祐輔。 二人の結婚は果たして契約結婚か、溺愛婚か!? ※イラストは玉子様(@tamagokikaku)イラストの無断転載複写は禁止させて頂きます

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

処理中です...