いじわるドクター

羽村美海

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番外編~小さな幸せ~

#1

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海翔と籍を入れてからは、海翔の実家であるマンションで暮らすようになった。


前のアパートの方が病院には近いんだけど、 それだとミルクと一緒に暮らすことができないからだ。 


私と海翔にとって、ミルクは私たちを巡り逢わせてくれた大事な子だから、ミルクにはずっと傍に居て欲しいって思っている。 


それに、海翔が獣医師の勉強のために書斎にこもってる間は、いつもミルクが私と一緒に居てくれるし。 


本当に私たちにとってはペットなんかじゃなくて、とっても大事な家族の一員になっている。


もう大人になったミルクは病院でもマスコット的存在で。 


たまには、診察に来た動物の飼い主が若い女性だったりすると、なんだかちょっと不機嫌になることもあるんだけど、いつもは私たちのことを窓際から静かに見守ってくれている。


私たちには、ミルクが傍に居ない生活なんてもう考えられない……。 



*** 



仕事を終えて、マンションに帰ってから夕飯を済ませると、海翔は調べものなんかがある時には書斎にこもることがある。


それには、ちょっとした理由があって…… ソファーでゆっくり寛《くつろ》ぎながらだと、海翔に構って貰えないミルクが無理矢理膝に乗っかろうとして、勢いを付けすぎるのか、よく転げ落ちて、テーブルにぶつかりそうになってしまうからだ。 


そんな時は、ちょっと困った表情を浮かべた海翔が軽く笑いながら、 


「ハハ、ミルク、危ないだろ?  しょうがないヤツだなぁ……。ほら、芽依に遊んで貰ってろよ?」 


足元のミルクを両手でゆっくり自分の顔の高さまで抱き上げると、可愛いミルクの顔を、いつもの眩い程の柔らかい笑顔で見つめて、 言い聞かせるようにして優しく話しかける。 


そして、ミルクと離れるのを惜しむようにして、ゆっくり私の膝に乗せると、ミルクの頭を優しく撫でてから、私には、


 「芽依、ミルクが寝たらコーヒー頼む」 


ボソッと素っ気なく呟いてから書斎へと向ってしまう海翔。 


そのあまりの態度の差に、ちょっと嫉妬しちゃうんだけど、ミルクが眠ってしまうと私にべったり甘えてくる。


やっぱり一人で書斎にこもるのは寂しいようだ。 


そうやって、前みたいに感情を抑えることなく、態度で示して貰えることが何より嬉しくて堪らない……。 


私も相当な甘えただと思うけど、海翔もかなりの甘えただということに、初めはかなり驚いてしまった。 


初めての時なんて、コーヒーを用意して海翔を呼びに行くと、机に向かって熱心に勉強してたから、邪魔しちゃいけないって思って ドアを開けてソッと様子をうかがいながら声をかけてみれば……。


こちらに背を向けた海翔が 身体の向きはそのままで、後ろに手だけを伸ばして チョイチョイと手招きを始めた。


素直に海翔の傍まで行けば 


「芽依」 

「え、ちょっ……海翔?」 


急にクルッとこちらに椅子ごと方向転換した海翔により、グイッと腕を引っ張られて よろめいた私の身体は、背中から勢い良く海翔の胸にダイブする形で抱きすくめられてしまった。


そして、私の首筋に頬擦りするようにして顔を埋めた状態で、 


「スッゲー落ち着く」 


熱い吐息と一緒に囁かれてゾクリとさせられた。 


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