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番外編~海翔の呟き~
#4
しおりを挟む俺は芽依の肩を掴んだまま、ちゃんと解って貰えたかどうかを確かめるためにジッと芽依を見つめていると、カッコ悪ぃ俺の言葉を聞いた芽依は、大きなどんぐり眼を見開いて、俺の顔を凝視したままフリーズしてしまった。
そして、パチパチって何度か瞬きしてから、
「……へっ!?」
って、間抜けな声だけ返してきた。
その直後、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
小さかった音が少しずつ大きくなってきて、 やがて、辺りがけたたましいサイレンの音だけに支配されてゆく。
「海翔? ねぇ、海翔? ねぇ、海翔ってばぁ!? どうしちゃったの?
やだ。大丈夫?」
それと同時に、まるで世界から全ての音が消え去るように、芽依の声まで掻き消されてしまった。
ホッと一息ついた俺は、安心することができたと同時に、たかが、こんくらいのことで、
ーーこんなにも怖じ気づいてしまう自分が情けなくて、
ーー無性に腹が立ってしょうがない。
俺の頭の中は、そんな感情で一杯になってしまい。
そんな風にしか思えない俺は、
「……こんなことで怖じ気づくなんて、ごめんな?」
芽依のことを抱きしめたままで、ついポロリと本音を雫してしまったのだった。
そのせいで、
「……え?海翔? 気分が悪くなったんじゃ……? あ、けど、さっきまでは平気だったし、ニヤケてたくらいだもんね……。
……もしかして、今通った救急車のせい?」
せっかく誤魔化せていたものを、芽依に勘繰られてしまうという、なんとも情けない結果となってしまった。
「・・・」
芽依が言った【救急車】って単語を聞いて、 言葉に詰まってしまった俺の顔色を、静かにうかがうようにして。
ジッと真っ直ぐに ドングリ眼を心配げにゆらゆらと揺らしながら見つめてくる芽依。
こんなことなんかでーー芽依を心配させたくなんてなかったのにーー。
そう思うと、芽依が向け続ける真っ直ぐな視線に耐えられなくなった俺は、芽依のドングリ眼から視線を逸らせ、芽依のことをギュッと胸に抱き寄せると。
「……あぁ、その通りだよ。スッゲー情けねぇけど……。あのやかましいサイレンの音、近くで聞くたびに、事故の夜、芽依が居なくなるんじゃねぇかって怖くて堪んなかったときのこと思い出して、 ……怖くて堪んなくなる……。
そんくらい芽依のこと大事だから、だから芽依以外の女になんて、愛想笑いなんてしない」
せめて、ーー芽依が少しでも不安に思ってたことを取り去ってやりたい。
俺は、 そのことだけを願いながら、 芽依に洗いざらい全てを打ち明けた。
俺の言葉を聞いた瞬間、腕の中の芽依がギュッと胸にしがみついてきて、
「海翔、ごめんね…」
僅かに震える声を絞り出すようにして響かせた。
優しい芽依のことだから、こうやって心配して、自分のせいだって、ーー芽依が自分を責めることになるって解っていたのに……。
それなのに、あっさりバラしてしまうことになってしまった自分が、腹立たしいやら情けないやら……。
「謝ったりするなよ。芽依に、謝らせたり、心配かけたくなんかなかったのに……。こんくらいのことで、怖がったりして情けねぇよ、ホント。こんな俺じゃ、頼りになんねぇよな?
俺こそ、ごめんな?」
俺の胸に顔を埋めてしがみついてる芽依に、 どう言ってやれば良いのか解らなくて、こうやって謝ることしかできなくて。
そんな、情けない俺の言葉を聞いた芽依は、 俺の胸からガバッと顔を上げてきて、
「そんなことない! 海翔に辛い想いさせて、こんなの不謹慎だって解ってるけど……。それでも、大好きな海翔に、こんなに想って貰えて、スッゴく嬉しいもん。 ワガママだって、自分勝手だって解ってるけど……。 海翔には、ずっと私だけ見てて欲しいって思っちゃうんだもん。
私こそ、自分勝手で、ごめんなさい」
真っ直ぐ俺の顔を覗き込むようにして、 見つめながら、捲し立てるようにして言ってきた。
最後には、 とても申し訳無さそうに、眉尻を八の字に下げて謝りながら。
そんな芽依の不安を少しでも取り除くために、
「そんなの俺だっておんなじだし。じゃぁ、お互い様ってことでもう謝るのは無しな?」
「うん」
そんなの気にするようなことじゃないって想いを添えて……。
なるだけ優しく声をかけてから、芽依の全てをフワリと優しく包み込むようにして抱きしめた。
俺も芽依も、こうやって少しずつ互いの色んな想いに触れて、互いの色んな想いが1つになるたびに、絆が深まって。
本当の【夫婦】になって行くんだろうな?
それは、 他の誰でもない 世界でただ一人 ーー愛おしくて愛おしくて堪らない芽依だから……。
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