いじわるドクター

羽村美海

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episodo:8

#3

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颯介さんの話しは尽きることがなく、


楽しい時間は、


あっという間に過ぎてしまう。



一方の海翔さんはというと…、


颯介さんと私が仲良くなって話している間、


ずっと面白くなさそうにしていた。



それを、


颯介さんに茶化されて、


ブツブツ文句を言いながらも、


どこか楽しそうな海翔さん。



きっと、


お父さんの居ない海翔さんにとって、


颯介さんはお父さんのような大事な存在なんだろうな。



そして、


海翔さんが颯介さんのお店に、


私を連れて来てくれたって事が、


何よりも一番嬉しかった……。



こっそり颯介さんが、


海翔さんが女の人を連れて来たことがない……って教えてくれたからだ。





午後11時になって、


颯介さんに見送って貰いながら、


颯介さんのお店、マ:メゾンを後にした。



帰る間際、


悪戯っぽい笑みを浮かべた颯介さんに、



『海翔、独占欲強いようだから朝まで頑張って』



なんて、


私だけに聞こえるように、


意味深な言葉とアップルパイの入った箱をプレゼントに貰って……。



*五十嵐颯介side*



海翔と芽依ちゃんを店先で見送っていると、


ふと…海翔が小さかった頃のことを思い出した。



純粋で心根の優しかった海翔は、


いつも猫や犬を拾ってきては彩乃を困らせていたっけ。



まさか獣医になるとは思わなかったけれど……。



そんな海翔が小学校の高学年になる頃には、


子供らしさがなくなって、感情を表に出さなくなっていった。



きっと、


普通とは違う家庭だって気づいたんだろうな?



それで、


母親である彩乃の負担になりたくないとでも思ったんだろな?



でも俺は、


解っていても、


なんにもしてやれなかったんだ。



ただ、


時々、一緒に遊んだり、見守ってやることしかできなかった。



年を重ねて、見かけだけは大人になった海翔。



寂しさを間違ったことで埋め合わせしてんだろうな……ってことも薄々は感じていた。



それでも、俺は何も言ってやることなんてできなかった。



結局、


海翔がどんな想いをしてきたかなんて、



海翔にしか解らないんだから、



俺なんかがとやかく言うことなんてできる筈がない。



自分の感情は抑え込んでしまうクセに、


周りの顔色ばかり気にしていたような気がする。



家の中でも、


他人に家のことをしてもらうのが嫌だと言って、


なんでもソツなくこなしてしまう海翔が家事全般やってたし。



まぁ、彩乃たちにできるとは思えないが。



きっと、自分の存在を認めて欲しかったんだろうな?



そんなことしなくても、彩乃たちも俺も、海翔のことを大事に思っていたのに。



もっと甘えても良かったのに、不器用だからできなかったんだろうな?



そうさせてたのは、周りに居た俺たちなんだけれど……。



そんな海翔が、


感情を剥き出しにして、


あんなにムキになる姿を見せたのは、


……いつ以来だっただろうか。



もう…ずいぶんと昔のことのような気がする。



彩乃から聞いてはいたが、正直驚いた。



それに、


リカとのことが少し気にはなったが…、


『もう会ってない』


って言った海翔はなんとも思ってはないようだった。



そりゃそーだよな?



海翔は今まで、


本気で人を好きになったことがなかったんだろうから。



リカには悪いが、俺は海翔と芽依ちゃんに幸せになって欲しい。



海翔を変えてくれた芽依ちゃんのためにも……。

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