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#21 レオンとはじめてのお遣い

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 ある問題が勃発したのは、ルーカスさんがぎっくり腰になってしまった日の夜のことである。

 その問題とは、毎日のように薬草や薪を届けるために村に赴いていたルーカスさんの代役を誰が務めるかだ。

 それだけならまだしも、国王陛下に精霊使いとして仕えていた頃からの長い付き合いである王都住まいのお得意様に、珍しい薬草を届けに行かなければならなかった。

 本音を言えば、ブラの開発のためにも、一度は王都の市井に行ってみたいという気持ちはある。

 小妖精であるフェアリーとピクシーを除くと、レオンか私のどちらかになるが、追われる身となっている私には、当然のことながら無理だと思われた。けれど。

『僕の変身魔法をもってすれば、ノゾミが聖女だなんて誰も気づきやしないから安心して欲しい』
 
 という、レオンからの予想外な言葉によってレオンと私とが王都に赴くことになったのである。

 なんでもレオンは、魔法の中でも『変身魔法』が得意であるらしいのだが、ゴブリンの呪いのせいで使えずにいたのだという。

 それが傷が癒えたせいか、以前のように魔力が戻ってきているらしかった。

 それが昼間の『一緒に王都の市井に行ってみない?』発言へと繋がったらしいのだ。

 ということでつい今しがた、自室で準備に励んでいたところに、『打ち合わせがしたいと』言ってきたレオンから、

『好きな装いとか、こんな風になりたいとかいうのはない? もしあるならなんだって叶えてあげるよ』

そう問い掛けられた事により……。

  『変身魔法』とやらがどんなものかと興味津々だった私は、思わず、幼い頃に憧れていたシンデレラの事を喋ってしまったことにより、可笑しなことになってしまっている。

「お姫様かぁ。ノゾミにぴったりだと思うんだけどなぁ」

「……そ、そうかなぁ。ただ、小さい頃に読んだ絵本で見て、憧れてただけだから、別に自分がそうなりたいとかじゃないから」

「だったら尚更だよ。それに、ちゃんと魔力が戻ったかの確認もしたいし、試させてもらってもいいかな? ね? ノゾミ。お願い」

「そ、そういうことなら、いいけど」

「ホントに?」

「う、うん。試すだけだったら」

「ありがとう」

 レオンは私の言葉に、俄然ヤル気を出している様子で、綺麗なサファイアブルーの瞳をキラキラと煌めかせガッツポーズを決め込んでいる。

 そんなレオンの様子をチラチラと窺いつつ、野々宮先輩に瓜二つなせいか、どうも私は、レオンのお強請りに弱いらしい。なんてことを思っていると。

「ノゾミ、準備はいいかい?」

  レオンの問いかけにより、いよいよなんだと思うと、緊張してぐっと身体に力が入ってしまう。

「は、はいッ!」

「そんなに緊張しないでいいから。ほら、肩の力を抜いて、瞼をゆっくり閉ざしてみて?」

  そんな私のことをレオンがリラックスさせようとしてか、両肩を両の手でポンポンとしてくれた。

 そうしたら不思議と、硬直していた身体から力がすーっと抜けていく。

「こ、こう?」

「そうそう、その調子。はい。目を開けてみて」

 そうこうしているうちに、頭上で指をパチンと弾くような音がしてすぐに、レオンの声に促され開け放った視界の先には、大きな姿見鏡があって、そこに映し出されている自分の姿に私はハッと息を呑んだ。

 驚きを隠せないでいる私は、姿見鏡の中の自分の姿を目を瞬かせ何度も見返すのだった。

 こんな風に驚いてしまうのも無理はない。

 淡いブルーの上品なプリンセスラインの素敵なドレスに、キラキラと煌めくティアラ。

 瞳の色と同じく、濡羽色だったはずの髪も綺麗な金髪のサラサラヘアとなっており、綺麗に結い上げられていて、ほんのりとメイクもなされている。

 確かに顔こそ私だが、幼い頃から夢に見ていたシンデレラの姿がそこにあったのだ。

 しばし茫然自失で姿見鏡の中の自分の姿を凝視したままだった私は、レオンの放った感嘆の声により我を取り戻した。

「あー、なんて美しいんだ。できることなら、僕のこの腕の中に閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくないくらいだよ」

 甘い言葉もそうだが、あんまりレオンがまじまじと全身を舐め回すように見下ろしてくるものだから、恥ずかしくてどうしようもない。

「////……ちょ、レオン。これじゃあ、目立って仕方ないから、この地味な顔を活かして、もっと目立たないようにしてくれたら、それでいいから」

 羞恥を覚えつつも、こんなハロウィンの仮装パーティーのような格好で人前に出るなんて冗談じゃないと、大慌てで捲し立てた私の言葉は、残念なことにレオンには届いていなかったようで。

 シンデレラの格好よりはだいぶんマシになったものの、黒髪はキラッキラの金髪ヘアに豹変していた。

 それだけじゃない。

 金髪もボリュームたっぷりのゆるふわロングで、どこかの貴族のご令嬢か、成金のお嬢様風の可憐なドレス姿へと変化していた。

 おそらくレオンの趣味だろう。

 そんなどこかのご令嬢仕様の私の姿を前に、レオンはとっても満足げに見遣ったあとで。

「ノゾミの可憐な愛らしい顔にはこれくらいでないと釣り合わないからね。これ以上は譲れないよ」
「……」

 王子様然とした麗しい顔に、なにやら悪戯っぽい黒い微笑を湛えつつ、そんなことを囁いてきたので、どうやら確信犯だったらしい。

 とはいえ、自分では変身魔法なんて使えないから、早々に諦めることにした。というのは建前。

 表面上はその体で振る舞ってはいるが、正直なところ、満更でもなかったのだ。

 大学デビューを果たしたくらいだ。

 これまでの自分を変えたいと思っていた私にとっては、まさに渡りに船だった。

 だって一度は死んだ身なんだし、異世界なんだし、一度くらい羽目を外してもいいよね。

 なんてウキウキしてたものだから、知らず知らずのうちに姿見鏡の前でクルンとターンなんかしてしまっていて。

「気に入ってくれたようで何よりだよ。あー、明日が待ち遠しいなぁ。早くノゾミとデートがしたくてどうしようもないよ」

「////……で、デートじゃなくて、王都へのお遣いだからッ!」

「あー、照れてるノゾミも可憐だなぁ」

「////ーーッ!?」

 それをクスクスと笑みを零したレオンに指摘された上に、『デート』なんて言葉まで持ち出されてしまうこととなった。

 何を言っても飄然と甘い台詞をお見舞いしてくるレオンと一緒に王都へと出向くことに、一抹の不安はあるにはあったが、わくわくとした期待感の方が勝っていて。

 まるで遠足の前日のような心持ちで久々に眠れない夜を過ごし、いよいよ王都へと出向く当日の朝を迎えたのだった。

「レオン、くれぐれもノゾミ様のことを頼みますじゃ」

「はい、勿論ですよ。僕にお任せください」

「じゃあ行ってきま~すッ!」

「お気をつけて」

「ノゾミン、レオン、気をつけてね~!」

「行ってらっしゃ~い。お土産も忘れないでね~!」

 皆に見送られるなか、ルーカスさんの代役として、荷車に積んだ薬草と薪を届けるため、私とレオンは王都へ向けて出発したのである。

 その様子を少し離れた繁みのから静かに窺っている者がいることなど知る由もなかった。

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