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#14 夢に見た王子様現る!?

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 誰かの腕の中にすっぽりと包み込まれているような、そんな心地がする。

 あたたかくてとっても心地がよくて、凄く安心できる。

 まるでゆりかごのよう。

 いつまでもいつまでも微睡んでいたくなってしまう。そこに。

「ノゾミ」

 なんとも耳に心地いい甘やかな声音で名を呼ばれ。

 ーーこの声、もしかして夢に出てくる王子様?  あぁ、また夢を見てるんだ。

 淫夢に登場する王子様の声に、当然夢を見ているのだと思い込み目を開けてみると。

「ノゾミ、大丈夫? どこか痛いところはない? 頭とか打っていない?」

 とっても心配そうに矢継ぎ早に問い返してくる淫夢に登場してくる先輩に瓜二つの王子様の姿がそこにはあった。

 けれどそこにいたのは王子様だけじゃない。

 王子様の隣には、同じく心配そうな顔をしたルーカスさんもいる。その傍らには、いつものようにフェアリーもピクシーもいた。

 皆一様にベッドに横になっている私のことを心配そうに覗き込んでいる。

 どうやらいつものあの淫夢ではないらしい。

 けれども、一体なにがどうしてこんなことになっているのかがさっぱりわからない。

 寝起きというのも手伝って、正常に働かない頭は大混乱だ。

「ちょっと、待って。私、まだ夢の中なの? それとも頭が可笑しくなっちゃってるの? なにこれ、夢と現実がごちゃ混ぜになってる。もー、ヤダッ! 誰か助けてーー!」

 寝起きでパニックを起こしてしまった私は、頭を両手で抱え込んで大声を出すなり布団の中に潜り込んだ。

 すぐに皆が心配しておのおの声をかけてくれていたけれど、それに何かを返すような余裕などなかった。

 少しして目も完全に醒めて落ち着を取り戻した頃。

 ルーカスさんの優しい声音が耳に流れ込んできて。

「ノゾミ様。ご安心くだされ。この若者は、倒れたノゾミ様を連れ帰ってくれたレオンですじゃ。否、正確には、レオンは仮の姿で隣国からきた旅人だそうですじゃ。わしが以前お伝えしました、ゴブリンの呪いで、変身魔法が解けなくなっていたそうですじゃ」

 思いもよらなかった言葉に驚き、飛び上がるような勢いで布団から顔を出す。

 そうして続けざまに混乱気味に私が放った、

「え? レオンが旅人? それに変身魔法ってどういうことですか?!」

という問い掛けに対して応えてくれたのは、ルーカスさんではなく先輩に瓜二つの王子様もとい、隣国の旅人だった。

「隣国のモンターニャ王国からこの国に来るには、精霊の森を抜けるのが一番の近道なんだよ。でも邪妖精や魔物が棲まうだろう。だから狼に変身して抜けようとしたんだ。そこでゴブリンに遭遇したんだよ」

 『隣国の旅人』というのも言いにくいので、レオンと呼ぶことにする。

 なんでもレオンは、隣国の商人であるらしく、珍しい骨董品を買い付けるためにこの国に来る途中、人間嫌いの魔物らに見つからないように狼の子供の姿に『変身魔法』とやらで化けていたらしい。

 その道中、運悪く遭遇したゴブリンに変身魔法が解けないように呪いの呪文をかけられたのだという。

 そして驚くことに、その呪いをかけられたら最後。解く術はなく傷が全身に及んで死に至るんだそうだ。

 それに関しては、私が聖女として召喚された際に備わっていたという驚異的な能力が絶大な力を発揮したようだった。

 もう一つ驚いたのは、レオンは呪いをかけられたあと頭を強く打っていたようで、すべてではないが、所々記憶が抜け落ちてしまっているらしい。

 なので、自分が商人で、この国に骨董品を求めて訪れていた以外の記憶を失ってしまっているというのだ。

「え? じゃあ、名前も思い出せないんですか?」

 さぞかし心細いだろうと思って思わずかけた言葉に、

「……うん。でも、悪いことばかりじゃないよ。こうしてノゾミのようなとても可憐で愛らしい聖女様に巡り会えたんだからねぇ」

レオンは、大したことでもないというように爽やかな微笑みを浮かべて、なんとも甘やかな声音で歯の浮くような台詞を吐く。

 なんだか、淫夢からそのまま飛び出してきたようなレオンの風貌や物言いに私の心はザワザワとして、ちっとも落ち着かなかった。

 そんな私の様子をやけに静かに見守っていたフェアリーとピクシーが、とんでもないことを言い放つ。

「あらあらノゾミンったら、真っ赤になっちゃって。狼のレオンのときとは違ってぽーっとしちゃってるし。もしかして、人間の姿のレオンに一目惚れでもしちゃったのかしら」

「あっ、ホントだ~! ノゾミ、真っ赤になってる~!」

「そうなの? だったら光栄だなぁ」

「////ーーち、違うからッ! 布団に潜り込んでたせいなんだってば!」

「これこれ、フェアリーにピクシー。二人の邪魔になるじゃろうが。こういうときは気を利かすもんじゃ」

  おかげで、ルーカスさんまでが余計なお節介発言を繰り出してきて、私は真っ赤になりながら言い訳を繰り返す羽目になったのだった。

 どうして突然呪いが解けて人の姿に戻れたのかなど少々謎めいた部分はあれど……。

 こうしてルーカスさんの家に居候中の身である私の他に、人間の姿であるレオンが加わることとなったのである。

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