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#13 眠りに墜ちる狭間で
しおりを挟む驚くことに次に目を覚ましたのは、転た寝する前に突っ伏していた丸テーブルではなく、すぐ傍にあるベッドの上だった。
しかも毎朝目覚めるとき同様、胸にはしっかりとレオンのことを抱きしめている。
ーーあれ、私、いつの間にベッドに? それに、なんでレオンまで。
寝ぼけ眼をパチパチしていると、抱きしめているレオンが目を覚まし、綺麗なサファイアブルーの瞳と視線が絡まった。
その瞬間、さっきまで見ていた夢の中の先輩と瓜二つの王子様の姿とがレオンの姿とシンクロする。
そういえば、王子様のアッシュグレーの髪の色とレオンの毛色って同じかも。
それに、煌めく宝石のように綺麗な瞳の色も同じだ。
よく見ると、レオンって狼だけあって、凜々しい顔つきしてるし。
きっと狼の中ではイケメンの部類に入るんだろうなぁ。
未だ夢現でぼんやりとレオンの顔を眺めていると、不意にレオンがあたかもキスでもするようにして唇にそうっと触れてきた。
否、私にはそう見えただけで、ただクンクン匂いを嗅いでいて、ちょこんとぶつかっただけだったのかもしれない。
それなのに……ドクドクと胸の鼓動が高鳴ってしまう。
そんな私の耳に、レオンが甘えてくるときに出す「クゥン……クゥン」という鳴き声が流れ込んでくる。
途端に胸がきゅうんと切ない音色を奏でた。
それと同じくして、意思とは関係なく、どういうわけか下腹部がキュンと疼く。
得体の知れない感覚に途轍もない羞恥心が沸き起こってくる。
数日前に、フェアリーに言われた言葉が脳裏を掠めた。
『いくら欲求不満だからって、寝床をともにしているレオンに欲情したらダメよ? 人狼が生まれちゃうから』
ーー今のって、もしかしなくても、レオンに欲情したってことだよね。
「ウソッ!? ヤダーーッ!」
言いようのない羞恥を覚えハッとした私は、動揺する余り抱え込んでいたレオンのことを突き放していた。
幸いにも寝起きで思ったほど力が入っていなかったようで、レオンはベッドからは落ちずに済んだ。
けれど、寝起きでいきなり突き飛ばされ、驚いたのだろう。
布団のうえで怯えたように身体を縮こめ丸くなってしまっている。
慌てた私が抱き上げると、いつもはピンと綺麗に立っているはずの耳もしょげたように寝かせてしまっている。
怒って噛んでもよさそうなのに、そうしないのは、それだけレオンが私に懐いてくれている所以だろう。
それなのに、勝手に見た夢に出てきた先輩とそっくりな王子様の姿がちょっとレオンとダブってしまったからって、レオンのことを突き放すなんてあんまりな行動だ。
言葉を使って意思表示することのできないレオンに対して、なんて酷いことをしてしまったんだろう。
いつもはもふもふしてて可愛いって言って可愛がってるクセに、身勝手もいいとこだ。
私は大慌てでレオンのことを抱き上げ、ぎゅうっと胸に掻き抱き。
「レオン、ごめんね。吃驚したよね。怖かったよね。本当にごめんね」
もふもふしたアッシュグレーのふわふわの毛に顔を埋め、幾度も幾度も謝罪を繰り返す。
そんな私に対してレオンは、いつもと変わらず、「クゥン……クゥン」といつもの甘えた鳴き声を出しつつ、頭や身体を擦りつけてきたり、私の顔や身体の至る所をペロペロし続けてくれていた。
そんなことがあったものの……。
それから数日が経った今でも、レオンは相も変わらず私に酷く懐いてくれていて、以前と何も変わらない日々が続いていた。
けれどその日を境に、私の睡眠不足は加速することになる。
あの淫夢は毎晩のように見るし、これまで同様、レオンとは寝床が一緒なのだ。
そりゃ無理もないだろう。
そんなわけで、先輩に瓜二つの王子様とレオンによって、淫夢のなかで毎晩翻弄されていた私の睡眠不足は、少しも解消されることなく、日増しに酷くなっていった。
先輩と瓜二つの王子様とレオンとに翻弄される淫夢を見るようになってから十日ほどたった頃だろうか。
ーー睡眠不足くらいで休んでなんかいられない。昼間のうちに身体を動かしていたら、そのうち疲れて深い眠りにつけるだろう。
そうやって自分に言い聞かせ、睡眠不足のせいでクラクラする頭とフラフラと覚束ない足取りで薬草探しと下着の開発とに勤しんでいた。
そんな私は、薬草探しの途中、とうとう睡眠不足が祟って、湖の畔の大きなモミの木の根元で倒れてしまう。
この頃にはこちらの世界にもずいぶんと慣れてきて、薬草探しは一人でするようになっていた。なので。
ーーフェアリーを呼ばなくちゃ。
意識が遠のいていく狭間でそんなことを思っていると、頬にもふもふとしたレオンの身体が触れる感触がしたのを最後に、私は深い深い眠りへと誘われていったのだった。
『ノゾミ、しっかりして。ねえ、ノゾミ!? ノゾミッ!?』
そうして心地のいい深い眠りに落ちていく狭間で、夢に出てくるあの王子様のまるで砂糖菓子のように甘やかな声音で、名前を呼ばれていたような、そんな気がした。
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