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#2 まさかの追放!?
しおりを挟む一体、ここがどこなのかも、どういう状況なのかも理解できずに、目をぱちくりさせるしかない。
そんな私の眼前に、一歩歩み寄ってきた小柄ながらに恰幅のいい中年男性が感嘆の声を上げ、『殿下』とやらに対してなにやらお伺いを立てている。
「おう、今度こそ召喚成功でございます。殿下、いかがでございましょう?」
中世のヨーロッパのお城を思わせるような豪奢な内装に、外国かと思ったが、言語が理解できるので、どうやら日本ではあるらしい。
ーーそれにしてもリアルだなぁ。映画かドラマのロケとかに使うセットだろうか。
キョロキョロと忙しなく辺りに視線を彷徨わせていた私の耳に、今度は、別の男性の声が届いた。
「確かに、俺好みの可憐な顔立ちをしているようだが」
気だるげに放たれたその声の主に意識を向けると、深紅の絨毯が敷かれている雛壇のようなものがあり。
そこに設えられている立派な玉座で、足を組んでふんぞり返っている、これまたおとぎ話に登場しそうな、王子様然とした衣装に身を包んだ美青年の姿が見て取れる。
顎に手を添え難しい顔で何やら思案しているようだ。
明るいブロンドのロングヘアを後ろで結わえた彫りの深い顔立ちに碧眼の、ハリウッド映画に登場する俳優のようなイケメン。
ーーメチャクチャ格好いいけど、なんか感じ悪。
そんなことを思っていると、すっくと立ち上がった『殿下』と呼ばれた美青年がこちらへ颯爽と近づいてくる。
そうして眼前までくると長身を屈めて、私の顎先を指で捉えて上向かせ、「立ってみろ」と命令してきた。
ーー綺麗な顔してるし、偉い人みたいだけど、やっぱり感じ悪い。優しい野々宮先輩とは大違いだ。
とは思っても、ここは、従っておいた方がよさそうだ。そう判断し言われた通りゆっくりと立ち上がってみる。
痛みもないし、ケガもしていないことに、生きているようだとホッと安堵する。
そんな私の頭のてっぺんから爪先まで品定めするように眺めると、渋い顔をした『殿下』が信じられないことを口にした。
「確かに、顔は俺好みだが。ここまで貧相な胸ではなぁ。この召喚も失敗だな」
「ま、またでございますかッ」
『殿下』の言葉を聞いた臣下とおぼしき恰幅のいいおじさんが、疲労感漂う顔に悲壮感まで滲ませている。
周囲の臣下たちもそろって肩を落として落胆している様子だが、こっちはあまりのショックでそれどころじゃない。
そりゃ、初対面で『貧相な胸』なんて失礼極まりないことを言われたんだから、無理もない。
ショックで呆然としている私の眼前で殿下と臣下のおじさんとのやりとりが続いている。
「なんだ、俺の言うことが聞けないというのか? お前が俺の言うとおりにできないだけではないか。それとも、その娘と一緒にお前もお役御免になりたいか?」
「とっ、とんでもございませんッ。すぐに召喚の準備にとりかかります」
殿下が不遜な物言いで放った『お役御免』という言葉に臣下のおじさんが慄き青ざめる。
ーーん? 今、『その娘と一緒に』って言わなかった?
ぼんやりとそんなことを考えていると、臣下のおじさんが大慌てで周囲の部下と思われる男らに指示を出し始めた。
状況が飲み込めず棒立ち状態の私に向けて、殿下から穏やかな口調とは裏腹な実に冷ややかな言葉が放たれた。
「そこの娘。『聖女』として『召喚』しておいて悪いが、もうよい。『追放』だ。どこへでも自由に行くがよい」
未だ、にわかに信じがたいが。この様子から察するに。
どうやら私はどういうわけか異世界に転移してしまったようだ。
それだけでも驚きなのに、一方的に『聖女』として『召喚』された挙げ句に、『貧乳』を理由に『追放』されてしまうらしい。
ーーえ!? いきなり異世界に召喚されて追放って、私、どうなっちゃうの? 元の世界に返してくれないの?
「元の世界に戻してくださいッ! どこへでも自由にって言われても困りますッ!」
殿下の声で我に返り、『貧乳』といわれて落胆している場合ではないと、とっさに傍にいた臣下のおじさんに必死に縋りつく。
けれどもすぐに駆け寄ってきた厳つい顔つきの屈強な男らに、私はあっけなく捕獲され、お城から摘まみ出されてしまうのだった。
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