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#3 きこりのおじいさんと妖精
しおりを挟む「これこれ二人とも、そんなに騒いでいては、聖女様が起きてしまうではないか」
「だってぇ、追放された聖女様なんて滅多にお目にかかれないんですもの~」
「そうだよね~。僕も気になって気になって」
「困った奴らじゃのう」
微睡んでいるとなにやら騒がしい声が聞こえてきて、目を開けると、そこには見知らぬおじいさんがいた。
その傍らには、おとぎ話に出てくる妖精のような生き物が二人いるようだ。
一人は、着せ替え人形くらいの大きさの綺麗な女性の姿をしている。
そして驚くことに宙に浮いているようだ。
夢か幻覚かと思い、目を凝らしてよくよく見れば、背中には、昆虫の羽のようなものが生えているように見える。
もう一人は、小さな幼稚園児くらいの背丈の男の子? というよりは、風体からして男の人のようだ。
ーー確かに、異世界に召喚されたようだったけれど、今度は一体何事ですか?
お世辞にも寝心地がいいとは言えない硬い木製のベッドの上で、起き抜けのせいで状況がまったく理解できずにいる。
眠気と驚きとで、しょぼつく眠気眼を擦っている私のことを、妖精は物珍しそうにキラキラとした眼を向けたままだ。
そこに立派な白い髭を生やしたおじいさんの優しい声音が割り込んできた。
「聖女様、こやつらが騒がしゅうして申し訳ございません。ずいぶんと酷い目に遭われたようでしたが、お身体の具合はどうですかな?」
その声があんまり優しくて、田舎に住んでいた今は亡き母方の祖父のことを思い出し、なんだかホッとする。
そのせいか覚醒してきた思考を巡らせる。
ーー確か、お城から追い出されてから行く当てなくとぼとぼと歩いていたんだっけ。
やがて街の外れで男たち数人に絡まれて、逃げ出したところまでは覚えている。
この状況からすると、このおじいさんが私のことを助けてくれたのだろう。
けれども、わからないことだらけだ。
まずはお礼を言わなければいけないのだろうが、私の口から出たものは質問ばかり。
「……は、はぁ。あのう、私、どうしてここに? それにあなたは?」
助けてもらったというのに、礼儀知らずの私のことをおじいさんは気分を害することなく、ニッコリと微笑んでから再び口を開いた。
「ああ、わしとしたことが、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。聖女様を召喚した王太子殿下チャールズ・アルガン様のお父上であられる国王陛下のアレクサンダー・アルガン様に、昔お仕えしておりました、精霊使いのルーカス・コレットと申しますじゃ」
「精霊……使い……? ですか?」
けれども、すぐに引っかかるワードにぶつかり聞きかえした私の言葉にも、ルーカスさんは、やっぱり柔和な笑みを絶やすことなく説明を始めた。
「噂によると、聖女様は異世界から召喚されたんでしたなぁ。まぁ、簡単に説明しますと、精霊使いというのはーー」
聞いてもよくはわからなかったが、精霊を召喚・使役する担い手のことらしい。
「といっても、もうとっくの昔に引退して、今はただの樵ですがな。そしてこの二人は小妖精のフェアリーとピクシーと申しますじゃ」
そのあとで小妖精を紹介してくれて、この世界には、精霊使いの他に、魔法使いがいることも教えてくれた。
そのことに関しては、召喚されたことからも頷けたが、今お世話になっているルーカスさんの家がある精霊の森には、フェアリーとピクシーのような小妖精だけでなく、オークやゴブリンといった邪妖精も棲み着いているらしい。
愛読していたファンタジー小説にはつきものの邪妖精だが、実際に存在するとなると、途端に恐怖心を抱いた。
けれど、今いる家の周辺には、ルーカスさんによって結界が張られており、森の奥地へ行ったり夜間に出歩いたりしない限りは、それらが襲ってきたり、遭遇する心配はないのだという。
ホッと安堵したところで、私のことを召喚した王太子についての話題へと移っていった。
その前に、どうしてルーカスさんが私が異国から召喚されたかを知っていたかというと、なんでも王都では、召喚された聖女様が追放されたという噂でもちきりなのだとか。
なので私を目にした瞬間、ピンときたらしい。
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