上 下
25 / 30

24 閑話⑤ ~三日目(16話と17話の間)

しおりを挟む


 ライアンは立ち上がると、ワゴンのところまで行き、被せた布を次々に剥がしていく。


(わっ、これ、全部生活用品?)


「マリサ嬢、君は金貨ではなく生活用品と交換したいとのことだったな。ここに、日持ちのする食料と共に一通り揃えたが、他にもし、必要なもの、足りないものがあれば遠慮なく言いたまえ」

「あの、確認させていただいても?」


 ライアンが頷いてテーブルの方へ戻っていく。


「悪いがオレの方は少しやることがある。何かあれば、アンナに頼むがいい。……アンナ」


 プチサロンの隅で控えていたメイド長のアンナが「さあどうぞこちらへ」と、マリサを誘った。



(すごいっ!)


 マリサは興奮を抑えるのが大変なほど、ワゴンに並んだものは素晴らしく、充実したものばかりだった。


「わあ、素敵なティーカップのセット」


 薄い白磁に、太陽に似た抽象的なヒマワリの模様がワンポイントで入った美しいものだ。

 魔石で冷やす小型の冷蔵庫と、魔石で火を保つコンロが二台。大小様々な皿に、ガラスのコップ、カトラリー、数種類の鍋、フライパン、お玉やフライ返しや、まな板に包丁、小型ナイフ……、台所用品は完璧といっていい上に、ドライフルーツと炒ったナッツ類、数種類の干し肉、干した魚、干したきのこ類、小麦粉や、植物油に砂糖に塩まで並んでいる。


 畑で使う道具は、農作業用一輪車に、鍬、鋤、鎌、ショベル、大きめのバケツにジョウロ、マリサが持っていない野菜や果物や花の種や苗を数種類に、腐葉土や肥料に至るまで殆どと言っていいほど揃っていた。


「あっ、こんなに上等な洋服の数々に、作業着になりそうなものや、こっちには長靴やハイヒールに、エプロンもあるのね」


 コートやドレスや寝巻き、それらの下に隠れるように何種類かの下着も揃っている。まだ他に、毛布にマクラ等の寝具に、雨傘やリュックにハンドバッグ等々……至れり尽くせりのラインナップだ。

 マリサははっと目を瞠った。


(やだ、私、全部貰えるだなんて、ずうずうしいことを思いかけてた。いやいや、いくらなんでも、こんなに沢山は頂けないじゃない)


 すると、

「せっかく用意してくださったのよ。貰えるだけ貰っておきましょうよ!」と、真面目マリサがキリッとした口調で訴えだした。「ちょ、ちょっと、必要なものだけにしようよ。がめつい女だと思われたくないよ~っ」新マリサがぶんぶん首を振っている。


 マリサの方も、今回は新マリサの意見に賛成だ。もし、がめついなどと思われてしまったら、考えただけで背筋が寒くなる。

 人に出会う確率の低い、閑散とした北の領地で知り合った貴重なお隣さんに、微妙な顔などされたくはない。

 俯きがちに、何を選ぼうか、下品じゃない程度ってどのくらいだろう、などと悩みに悩んでいたら、不意にアンナの顔がどアップで視界に入ってきた。


「わっ!」


 アンナは、屈んでマリサの顔を覗きこんでいたらしい。


「驚かせてしまいましたね。もしかして、どこか、お加減でも?」


 アンナの心配そうなささやき声に、マリサはふるふるふると首を振る。


「いいえ、違うんです。この中から、なにを頂こうかしらと悩んでしまって。それで、相談に乗って貰えないかと思いまして」


 自分一人ではまるで決められそうにない。

 マリサは、自分の顔が真っ赤になっているのを感じつつ正直に話した。


「まあ、失礼いたしました」


 突然の謝罪の言葉に、マリサは頭の上に? を浮かべた。


「お持ち帰りになるのに、今は、おき場所のスペースのご用意が出来ていないとお聞きしました」

「へっ?」


 いったいどう理解すればいいのかと、マリサは戸惑った。


「つきましては、小屋等を建てさせていただけたらと思うのですが、いかがでしょう?」

「ええっと、お話の意図が掴めないのですが?」


 マリサの隣にライアンがやってきた。


「君がいくら収納魔法を持っていても、何もかも収納していては、その内満杯になってしまうだろう。ましてや女性一人でのテント生活はこちらとしても心配だ。そちらの土地の適当な場所に、住居と物置小屋を建てようと言っているのだが?」

「家と小屋を建てていただけるのですか?」


 マリサはの思考は迷路に嵌まってしまうのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~

あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい? とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。 犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!

転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸
ファンタジー
異世界に転生した葉菜花には前世の料理を再現するチートなスキルがあった! 食いしん坊の王国ラトニーで俺様王子様と残念聖女様を餌付けしながら、可愛い使い魔ラケル(モフモフわんこ)と一緒に頑張るよ♪ ※基本のんびりスローライフ? で、たまに事件に関わります。 ※本編は葉菜花の一人称、ときどき別視点の三人称です。 ※ひとつの話の中で視点が変わるときは★、同じ視点で場面や時間が変わるときは☆で区切っています。 ※20210114、11話内の神殿からもらったお金がおかしかったので訂正しました。

転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
 人魔戦争。  それは魔人と人族の戦争。  その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。  勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。  それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。  勇者は終戦後、すぐに国を建国。  そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。  それから25年後。  1人の子供が異世界に降り立つ。      

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...