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24 閑話⑤ ~三日目(16話と17話の間)
しおりを挟むライアンは立ち上がると、ワゴンのところまで行き、被せた布を次々に剥がしていく。
(わっ、これ、全部生活用品?)
「マリサ嬢、君は金貨ではなく生活用品と交換したいとのことだったな。ここに、日持ちのする食料と共に一通り揃えたが、他にもし、必要なもの、足りないものがあれば遠慮なく言いたまえ」
「あの、確認させていただいても?」
ライアンが頷いてテーブルの方へ戻っていく。
「悪いがオレの方は少しやることがある。何かあれば、アンナに頼むがいい。……アンナ」
プチサロンの隅で控えていたメイド長のアンナが「さあどうぞこちらへ」と、マリサを誘った。
(すごいっ!)
マリサは興奮を抑えるのが大変なほど、ワゴンに並んだものは素晴らしく、充実したものばかりだった。
「わあ、素敵なティーカップのセット」
薄い白磁に、太陽に似た抽象的なヒマワリの模様がワンポイントで入った美しいものだ。
魔石で冷やす小型の冷蔵庫と、魔石で火を保つコンロが二台。大小様々な皿に、ガラスのコップ、カトラリー、数種類の鍋、フライパン、お玉やフライ返しや、まな板に包丁、小型ナイフ……、台所用品は完璧といっていい上に、ドライフルーツと炒ったナッツ類、数種類の干し肉、干した魚、干したきのこ類、小麦粉や、植物油に砂糖に塩まで並んでいる。
畑で使う道具は、農作業用一輪車に、鍬、鋤、鎌、ショベル、大きめのバケツにジョウロ、マリサが持っていない野菜や果物や花の種や苗を数種類に、腐葉土や肥料に至るまで殆どと言っていいほど揃っていた。
「あっ、こんなに上等な洋服の数々に、作業着になりそうなものや、こっちには長靴やハイヒールに、エプロンもあるのね」
コートやドレスや寝巻き、それらの下に隠れるように何種類かの下着も揃っている。まだ他に、毛布にマクラ等の寝具に、雨傘やリュックにハンドバッグ等々……至れり尽くせりのラインナップだ。
マリサははっと目を瞠った。
(やだ、私、全部貰えるだなんて、ずうずうしいことを思いかけてた。いやいや、いくらなんでも、こんなに沢山は頂けないじゃない)
すると、
「せっかく用意してくださったのよ。貰えるだけ貰っておきましょうよ!」と、真面目マリサがキリッとした口調で訴えだした。「ちょ、ちょっと、必要なものだけにしようよ。がめつい女だと思われたくないよ~っ」新マリサがぶんぶん首を振っている。
マリサの方も、今回は新マリサの意見に賛成だ。もし、がめついなどと思われてしまったら、考えただけで背筋が寒くなる。
人に出会う確率の低い、閑散とした北の領地で知り合った貴重なお隣さんに、微妙な顔などされたくはない。
俯きがちに、何を選ぼうか、下品じゃない程度ってどのくらいだろう、などと悩みに悩んでいたら、不意にアンナの顔がどアップで視界に入ってきた。
「わっ!」
アンナは、屈んでマリサの顔を覗きこんでいたらしい。
「驚かせてしまいましたね。もしかして、どこか、お加減でも?」
アンナの心配そうなささやき声に、マリサはふるふるふると首を振る。
「いいえ、違うんです。この中から、なにを頂こうかしらと悩んでしまって。それで、相談に乗って貰えないかと思いまして」
自分一人ではまるで決められそうにない。
マリサは、自分の顔が真っ赤になっているのを感じつつ正直に話した。
「まあ、失礼いたしました」
突然の謝罪の言葉に、マリサは頭の上に? を浮かべた。
「お持ち帰りになるのに、今は、おき場所のスペースのご用意が出来ていないとお聞きしました」
「へっ?」
いったいどう理解すればいいのかと、マリサは戸惑った。
「つきましては、小屋等を建てさせていただけたらと思うのですが、いかがでしょう?」
「ええっと、お話の意図が掴めないのですが?」
マリサの隣にライアンがやってきた。
「君がいくら収納魔法を持っていても、何もかも収納していては、その内満杯になってしまうだろう。ましてや女性一人でのテント生活はこちらとしても心配だ。そちらの土地の適当な場所に、住居と物置小屋を建てようと言っているのだが?」
「家と小屋を建てていただけるのですか?」
マリサはの思考は迷路に嵌まってしまうのだった。
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