23 / 28
22 閑話③ ~三日目(16話と17話の間)
しおりを挟むプチサロンは、天井まである窓に囲まれたサンルームのような部屋だった。
幾枚かの大きなガラス窓は、歪みが一切なく、現代の地球で工場生産されたもののように均一だ。
魔術で作られたものだろうかとマリサは思いながら部屋へ入って行った。
ライアンは、ローテーブルいっぱいに置かれた書類や羊皮紙製の地図を、難しい顔をして眺めていた。
マリサが声をかけられず佇んでいると、不意にライアンが顔を向けた。
「ああ、座ってくれ」
「失礼します」
マリサは軽く会釈をしてライアンの向かいのソファに着くが、居住まいを正したままだ。
今マリサが借りているドレスは、ライアンの母が嫁いだ頃着用したものだ。
ローズグレーのシルク生地で、コスモス色のリボン飾りが胸元についた腰の辺りに軽くボリュウムのあるデザイン。若干丈が短いものの、ヒップとバストは丁度良い具合だ。
但し、ウエストに遊びがなくコルセットを着用したため、全く寛げない状況だった。
暫くしてメイド達がガラガラと数台のワゴンを押して入ってきた。
(えっ?)
最初のワゴンは、お茶のセットが乗っているが、続く、五台のワゴンには白い布がかけられていた。
ライアンは書類を纏めて脇に置き、マリサを見た。
「一つ聞くが……」
「は、はい」
背筋を反らせてマリサは頷く。
「君の収穫物だが、本当に貰い受けてもいいか?」
「はい、女に二言はありません」
「ん? 不思議な言い回しをするのだな」
意味が伝わらないのだろうかとマリサは焦った。
「あの、お約束したことを反故には……、えっと、一度交わした約束は守ると言いたかったのです」
ライアンは、一見マリサの方を見ているようで、別の何かを見ているように、どこか遠い目をしていたかと思えば、今度はしっかりとマリサに焦点を合わせた。
「あの……」
「いや、昔、子供の頃に、その不思議な言葉を、誰かから聞いたような、懐かしい気がしたのだ」
笑いかけられて、マリサは思わずドキッとしてしまい、注がれた紅茶を飲む振りをして俯いた。
「もう一つ聞くが、あの光魔法は、使い慣れていないようだったが?」
魔力切れを起こして、倒れてしまったため、慣れていないと思われたのだろう。しかし、「魔力」や、「光魔法」と言われても、まだピンと来ないマリサだった。
「……はい、実は、使ったのは、公爵家の畑で二度目でした」
「信じがたいが、魔法そのものすら、理解が及んでいないのだろう?」
冷や汗をかきつつ、マリサはこくんと頷いた。嘘をついたり誤魔化したりしても意味はないだろう。
広大な公爵家の畑全てに行き渡る魔法を発動できたのだから、魔力量はそれなりにあるだろうということらしい。
「種の蒔き方にも驚いたが、なにより、植えたばかりの種が、目の前でぐんぐん育っていくのには度肝を抜いた。収穫まで、あと数ヶ月以上必要だった週辺の作物が成熟する様には恐れすら感じたよ」
(やっぱり、箱庭ゲームでは当たり前のことが、ここでは、当たり前ではないんだ……)
いくら剣と魔法の世界とは言え、マリサは自分が禁忌を冒し自然の理を狂わせてしまったのだろうかと不安になった。
よく考えたら、畑を耕せば土の匂いもするし、土まみれににもなる。身体も疲労するし、お腹もすくのだ。
そう、ここは現実世界。
マリサは目をぎゅっと閉じて、混乱する心を抑えようと必死だった。
「……もしかして、異世界人なのか?」
「!」
マリサは固まってしまい、言葉を発することが出来ずにいた。
「もう一度聞く、君は異世界から来たのか?」
新マリサがぶんぶんと首を振る。「真意がわからない内は明かしちゃだめよ!」「もう何もかも打ち明けてしまいなさい。こんなに親切にしてくださっているんだから、大丈夫よっ、多分……」真面目マリサがオロオロしながら呟いた。
混乱するマリサはカタカタと震えながら、紅茶を口にする。
ぬるくなってしまった紅茶は、心を落ち着かせる効果はないようだった。
「……わかってしまいますよね」
涙声になり、ポタポタと紅茶やテーブルに涙の雫が落ちていった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる