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22 閑話③ ~三日目(16話と17話の間)

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   プチサロンは、天井まである窓に囲まれたサンルームのような部屋だった。

   幾枚かの大きなガラス窓は、歪みが一切なく、現代の地球で工場生産されたもののように均一だ。      
   魔術で作られたものだろうかとマリサは思いながら部屋へ入って行った。

   ライアンは、ローテーブルいっぱいに置かれた書類や羊皮紙製の地図を、難しい顔をして眺めていた。

   マリサが声をかけられず佇んでいると、不意にライアンが顔を向けた。


「ああ、座ってくれ」

「失礼します」


 マリサは軽く会釈をしてライアンの向かいのソファに着くが、居住まいを正したままだ。

    今マリサが借りているドレスは、ライアンの母が嫁いだ頃着用したものだ。

   ローズグレーのシルク生地で、コスモス色のリボン飾りが胸元についた腰の辺りに軽くボリュウムのあるデザイン。若干丈が短いものの、ヒップとバストは丁度良い具合だ。

   但し、ウエストに遊びがなくコルセットを着用したため、全く寛げない状況だった。

   暫くしてメイド達がガラガラと数台のワゴンを押して入ってきた。


(えっ?)


 最初のワゴンは、お茶のセットが乗っているが、続く、五台のワゴンには白い布がかけられていた。

 ライアンは書類を纏めて脇に置き、マリサを見た。


「一つ聞くが……」

「は、はい」


 背筋を反らせてマリサは頷く。


「君の収穫物だが、本当に貰い受けてもいいか?」

「はい、女に二言はありません」

「ん? 不思議な言い回しをするのだな」


 意味が伝わらないのだろうかとマリサは焦った。


「あの、お約束したことを反故には……、えっと、一度交わした約束は守ると言いたかったのです」


 ライアンは、一見マリサの方を見ているようで、別の何かを見ているように、どこか遠い目をしていたかと思えば、今度はしっかりとマリサに焦点を合わせた。


「あの……」

「いや、昔、子供の頃に、その不思議な言葉を、誰かから聞いたような、懐かしい気がしたのだ」


 笑いかけられて、マリサは思わずドキッとしてしまい、注がれた紅茶を飲む振りをして俯いた。


「もう一つ聞くが、あの光魔法は、使い慣れていないようだったが?」


   魔力切れを起こして、倒れてしまったため、慣れていないと思われたのだろう。しかし、「魔力」や、「光魔法」と言われても、まだピンと来ないマリサだった。


「……はい、実は、使ったのは、公爵家の畑で二度目でした」

「信じがたいが、魔法そのものすら、理解が及んでいないのだろう?」


 冷や汗をかきつつ、マリサはこくんと頷いた。嘘をついたり誤魔化したりしても意味はないだろう。

 広大な公爵家の畑全てに行き渡る魔法を発動できたのだから、魔力量はそれなりにあるだろうということらしい。


「種の蒔き方にも驚いたが、なにより、植えたばかりの種が、目の前でぐんぐん育っていくのには度肝を抜いた。収穫まで、あと数ヶ月以上必要だった週辺の作物が成熟する様には恐れすら感じたよ」


(やっぱり、箱庭ゲームでは当たり前のことが、ここでは、当たり前ではないんだ……)


   いくら剣と魔法の世界とは言え、マリサは自分が禁忌を冒し自然の理を狂わせてしまったのだろうかと不安になった。

   よく考えたら、畑を耕せば土の匂いもするし、土まみれににもなる。身体も疲労するし、お腹もすくのだ。

   そう、ここは現実世界。

 マリサは目をぎゅっと閉じて、混乱する心を抑えようと必死だった。


「……もしかして、異世界人なのか?」

「!」


 マリサは固まってしまい、言葉を発することが出来ずにいた。


「もう一度聞く、君は異世界から来たのか?」


 新マリサがぶんぶんと首を振る。「真意がわからない内は明かしちゃだめよ!」「もう何もかも打ち明けてしまいなさい。こんなに親切にしてくださっているんだから、大丈夫よっ、多分……」真面目マリサがオロオロしながら呟いた。


 混乱するマリサはカタカタと震えながら、紅茶を口にする。

 ぬるくなってしまった紅茶は、心を落ち着かせる効果はないようだった。


「……わかってしまいますよね」


 涙声になり、ポタポタと紅茶やテーブルに涙の雫が落ちていった。

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