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6 シロリンと森へ行こう②
しおりを挟む畑の予定地に水を撒くために、おもちゃのバケツを持って何度川まで往復しなければならないのだろうか。
シロリンが一緒とは言え、なかなか骨の折れることだった。
朝食べた実一つではお腹も心許なく馬力が出ないのだ。
四度目に出発した時は、マリサの足が前に進まなくなり、引き返そうかと考えたほどだった。
マリサが前かがみになって息を荒くしていた時だ、シロリンがマリサの服の端を軽く噛んで引っ張った。
マリサの横で腹ばいになると、くいっくいっと鼻先を自分の背中に向けたのだ。
「……えっ、もしかして乗せてくれるの?」
「ワフッ」
そうだと言っている気がして、マリサがおっかなびっくりシロリンの背中にまたがると、シロリンはシュタッと立ち上がって、走り出した。
その脚の速いことといったら凄かった。
さっきまでは、マリサに合わせてゆっくり歩いてくれていたのだろう。
今は風と一体になって飛んでいるのかと思うほど、森の木々がただの色になって、ヒュンヒュンと後ろへ消え去っていくのだ。
しかも、マリサが落っこちたりしないようにと気遣ってくれているのか、身体のブレがほとんどない。
(凄いよ、シロリンまだ子犬なのに、気遣い半端ないよ。王子様とか騎士様?)
シロリンの背中にしがみつきながら二ヒニヒ頬が緩んでしまう。
(わかった、守護神だ)
納得して前を見ると、もう川が迫っていた。
「わっ、シロリンっ」
川を目にしたシロリンがそのまま突っ込んでいく。
「まって!」
シロリンがジャンプ一番、思いっきり川へダイブした時には唖然となって固まった。
シロリンにまたがったままのマリサは、頭から思いっきり、盛大に上がった水飛沫を被ってしまったのだ。
ザンバと川に振り落ちたマリサは、前言に疑問を持った。
(あれは気遣いじゃなくて、子犬でもシロリンの体幹が強いだけかもね)
ばっしゃばっしゃ……。
「ワフッ、ワフッ、ワフッ!」
川の中でシロリンは、しばらく大はしゃぎしていた。
「かわいいから許す!」
上がり続ける水飛沫の中に虹が浮かび、シロリンが駆け回るのが神々しいほど美しい。
ザバザバ水を浴びながら、マリサはきゅんきゅんしていたのだった。
◇◇◆◇◇
「カラカラだったのが、ずいぶんましになったわね」
テントの位置から十メートル程離れた辺りに、まずは小さめの畑を作ることにする。
十メートル×五メートル程の長方形に区切った場所に水を蒔いていた。
その場所を、おもちゃスコップで少しずつ掘り返していく。
地道すぎるがこれしか術はないのだ。
五分の一程をなんとか耕して一息つく。
脚、腕、肩、全身ガチガチで、腰は更に悲鳴を上げている。
(残りの畑、どうしよう……、机に座りっぱなしの生活のせいで、もの凄く身体が鈍ってる。運動なんてずっとしてなかったしなぁ……)
そう言えば、シロリンはどこだと首を巡らせると、木の近くを絶賛掘っていた。
「へ? ちょっとシロリン!」
地面の穴に身体が半分埋もれている。
土木工事の掘削機械かい! とマリサが思わず突っ込みをいれたくなるほどの勢いで掘り続けている。
「ちょっ、いたっ、あぶなっ! うっ、石とか土くれとかめっちゃ飛んでくる!」
シャワーみたいに土やら石やらが降ってくるので、マリサはシロリンに近づくことが出来ない。
(こりゃ、シロリンのフィーバー状態が治まるまで、待つしかないかな)
なんて悠長に考えてたら、突然、バシューッと、シロリンが掘っていた穴から水柱が立って、シロリンを高く吹き上げた。
間欠泉かと思わず飛びのいたが、ザババッと冷たい水を浴びせられ、マリサは尻餅をついた。
マリサが頭から水を被ったのは、本日二度目だが、そんなことはどうでもいい。
「シロリンっ!」
水を滴らせ足を縺れさせながら、マリサは駆けていく。
シロリンが落ちて地面に叩きつけられてしまったらと、まずい映像が脳裏に浮かぶ。
ぐるぐるどうすれば助けられるかと考えるが、まるで良い案が浮かばない。
マリサが受け止ようにも、シロリンは巨大すぎるのだ。
「ワフッ、ワフッ!」
すると、ぐるんと一回転して、うまい具合にシロリンが地面に着地した。
水の威力が徐々に弱まっていく。
マリサの気も知らず、シロリンは自分の掘った穴の前で、わさわさ尻尾を振っている。
ドヤったような顔で目をキラキラさせているシロリンを見て、マリサは思わず吹き出していた。
「わははっ、井戸を掘るなんて想像してなかったよ。ほんと、ありがとうね!」
マリサはシロリンに抱きついた。
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