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5 シロリンと森へ行こう①
しおりを挟むもふもふわしゃわしゃを心置きなく堪能して満たされたマリサは、改めて犬? から少し離れて眺める。
プロフィールというか、ステイタスみたいなものは、動植物も、アイテムも、人も、スマホ画面では、草なら草をタップすれば見られるのだ。
試しに、犬? の方に手を翳して(オープン)と心で念じてみた。すると、
『S・魔獣(進化確率10%) イヌ科・?(幼体) サイズ・? 強さ・-S 色・シルバーホワイト&ブルー』
と、目の前に半透明の画面が表示された。
「凄い、一発で出てきたよ。どれどれ……進化って? なんか、?で分からない項目があるけど、S級の魔獣なんだ。大きいワンちゃんにしか見えないけど。強さはSマイナスってことかな? でも、まだ子犬だから、伸びしろしかないんじゃない? まあ、イヌ科だからワンちゃんで間違いないよね。あなた、こんなに大きいのに子犬なのね。それで毛並みがふわっふわで柔らかいんだ。そうだ、名前を決めなくちゃ」
ううむと腕を組み目を閉じて考えること数秒。
マリサはぱっと目を開けて宣言する。
「あなたの名前、『シロリン』でどうかな?」
と、手を伸ばすと、犬の魔獣はなんだか笑ったような、嬉しそうな顔をこちらに向けてくれた。
そして、くんくんとにおいをかいでマリサの手をぺろぺろ舐めてくる。
「くふふっ、気にいってくれたみたいね?」
マリサの顔はとろけきって、再び撫でてしまう。
「やばいやばい、とまんないよ~。でももうちょっとだけ」
わしゃわしゃ、もふんもふん……。
エンドレス。
命尽きるまで撫で続けてしまいそうになり、心と手にぐぐっとブレーキをかけて、マリサは立ち上がった。
「だめよ、マリサ。さあ、水を汲みに行くのよ。今日は畑も作んなきゃなんだから。その前に、汲んだ水を貯めるために、桶みたいなのが欲しいな。ほんとは、ここに井戸があったらいいんだけどさ、この乾いた土地じゃ無理そうよね」
シロリンのお尻に潰された簡易テントを建て直して、スマホを中から取り出す。
「スマホを手にしてるのも、ちゃんと立ち上がるのも奇妙っちゃ奇妙だけど、ここは考えたらダメだ、うん。そんなことより、えっと、受信箱になにか使えるものはないかな?」
続いてアイテムボックスも確認しても、目ぼしい物はみつからなかった。
「うーん、最初は何度も水を汲んだり、地道に畑を耕したりしないとだめみたいね」
困り顔でシロリンに話しかけると、
「ワフワフ♪」
と嬉しそうにゆさゆさ尻尾を振っている。
「わははっ、そうよね、やるしかないのよね」
それに、一人じゃないってなんて嬉しいのだろう、なんと心強いのだろうと、マリサはしみじみ思うのだった。
しかも念願の犬と生活できるのだ。
(サイズ感は間違ってるけど、大型犬大好物の私からしたら、大きすぎる犬? 魔犬? なんて、むしろご褒美にほかならないわ)
「よしっ、シロリン、森に行くよ!」
プラスチック製らしい、小さな黄色いバケツと、取りあえず金属で出来てはいるが、小さな赤いスコップをもつと、マリサは頼もしい相棒シロリンと共に、森へと歩いて行くのだった。
昨日はおっかなびっくりだった森が、シロリンと歩けば、「避暑に訪れた森で愛犬とお散歩中」みたいだとマリサはニヤる。
(いやだ、こんなに幸せでいいのかしら。やっぱり、夢の中なんじゃ……)
「いでっ」
頬を強めにつねったせいで涙目になるマリサだった。
悲しいかな幸せに対する耐性がない上、臆病になりすぎているのかもしれない。
最初、シロリンはスキップするように斜め後ろに付いてきていたが、森に入ってからはマリサの前を歩き出した。
尻尾をわさわさ振っていても、時折警戒するような仕草を見せていた。
(垂れ耳がぴんってなってるし、何かを感じ取っているのかな? ていうか、なんか危険な獣とかいるっぽい感じ? そう言えば、箱庭ゲームなのに、畑を獣に荒らされたり、盗賊がいたり、なんか物騒なこともあったんだよね。モモクマがいたから、被害は一度もなかったけど。やっぱり、昨日森から無事に帰れたのって、ラッキーだっただけかも……)
今更ながら、ぞわっと背中に悪寒が走り、マリサは自らを抱きしめる。
「ううっ、シロリン、ありがとうね」
マリサが声をかけたら、振り返って、
「ワフッ!」
と答えるシロリンが眩しい。
(まだ子犬なのに、わたしを守ろうとしてくれてるんだ。まあ、サイズは大型犬の倍くらいあるけど。やだ、かわい過ぎて胸が潰れそう!)
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