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4 シルバーホワイトもふんもふん♪

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     以前のマリサは、ゲームを始めたばかりでなにを選んでいいのか分からないまま、獣好きなのでペットを選択した。


 幸運にも、ペットのBを引き当てた。

 マリサのアバター『マリーサ』の前に現れたのは、巨大なピンク色のクマだった。


『B・魔獣 クマ科・ワイルド&ヒュージカラーベア サイズ・ホッキョクグマ以上 強さ・A~B 色・ピンク』

とあった。


 Bクラスの魔獣で、サイズはホッキョクグマより大きく、強さはAクラスに匹敵するほどらしかった。

 モモクマと名付けたクマは、おおぐらいが玉に瑕だがかなりの働き者だ。


 森で倒した木を一度に何本も担いで運んだり、川で鱒を何匹も釣り上げたり、ミツバチの巣を見つけて蜂蜜やローヤルゼリーを採取したり(自ら食べ尽くすこともしばしばあったが)、マリーサの代わりに荒れ地をあっという間に耕してもくれ、それはそれは大いに役立ってくれた。


 何より、大きくてもふもふで、時折見せてくれるキョトンとした顔や、豪快に食べる姿もかわいい上に、兎に角、頼もしい存在だったのだ。


「モモクマに会えないかなあ」


 マリサは、スマホ画面の「???」の箱を見つめて、祈るように呟いていた。


「はぁ~、Bのモモクマを当てる確率って凄―く低かったんだっけ……」


 後になり、検索でゲームの解説や裏技を教えるSNSを見つけて知ったのだが、「???」の中身はバラエティ豊かで、アイテムだけで千種類以上、ペットも数百種類はあるらしかった。


「クマ一つとっても、大きさや色も含めて、複数あるのではないかと検証されていたよね。私以外にもBでクマを当てている人が二人いて、体毛はオレンジ色と水色だった。アイテムの方も、同じ物でも色違いもあれば、大きさや素材違いとかもあるんだよね……」



確率は、Sで10万分の1、Aで10万分の4、Bで10万分の45、Cで1万分の15、Dで1000分の18、Eで100分の8、Fで10分の9。



 アイテムは、


Fで丸太一本や、シャベル一本、鍬一本、桶一つ、のこぎり一つ、ジョウロ一つ、これらは、いずれも複数のカラー展開ありで、他に、野菜の苗十束×10、十種類の種セット、肥料……等々。


Eは、丸太十本、農作業用一輪車、作業着、(どちらも十二種類のカラー展開)等。


Dは、一輪車と種と肥料セット、又は作業着と苗と肥料のセット。


Cは、F~Eまでの全セット。


Bでトラクターや作業小屋の小。


Aで馬車(馬一頭付き)、バス専用小屋、トイレ専用小屋、作業小屋大、等。


Sは情報がなかったが、家とか、A~F全セットとかありそうな気がすると書き込みがあった。



 ペットの方は、小動物から様々な種類の動物があって、Sで伝説や神話級の神獣が出るという噂があったが、モモクマで十分満足していたため、その話題については一度きりしか見ていない。


 どの道、マリサは今回もペット一択だ。


「当然ね。飼いたくてもペットなんて飼えなかったけど、私は、動物を、獣を、愛しているのよ! (両手をグーにするマリサ)どんなに好きでも、ドスブラック企業、薄給事務員の給料じゃ養えないし、1Kの狭いアパートでずーっとお留守番だなんて、きっと地獄だもの……ぐすん」


 早朝から出社して、サービス残業は当たり前の会社だった。

 日付が変わる頃ようやくボロアパートへ帰宅して、毎日泥のように眠るだけの日々を思い出し、後から後から涙が零れ落ちて行く。


 犬と暮らすのが幼い頃からの夢だったのだが、貧しい上、狭い借家暮らしでは両親にねだることも憚られ、近所で飼われている犬や猫を眺めては、溜め息をついたものだ。

 大人になり、会社の同僚から、保護猫を飼えないかと声をかけられた時は、やるせなかった。手を差し伸べられない無念さと悔しさが、今も心に燻り続けている。

 この箱庭ゲームを始めたのは、毎朝、絶望的な気分に苛まれる通勤途中の慰めであり、一時の癒しだったのだ。


(あれ? 毎朝出社しなくていいのなら、今の方がマシなんじゃないの?)


 マリサは、少し心が軽くなっている自分に気付いてクスッと笑う。


「よしっ、やり直しは利かないから、緊張するけど、開けちゃおう」


 受信箱から「???」を取り出す。

 赤い?模様の、手の平サイズの銀色の箱に手をかざす。

 早速『ペット』を選択すると、ごくっと唾を飲み込む。


《☆開ける☆削除する》


 の、『☆開ける』を人差し指でタップすれば、ボフン!

と、金色の紙ふぶきが舞い散った。


『おめでとう! ☆S・魔獣☆ 大当たり!』


 紙ふぶきの量が多すぎで、文字も前も見にくかったが、☆S・魔獣☆ だけは、しっかり目が捉えていた。


(えっ、えっ、Sって見間違いじゃ?)


 大量の紙ふぶきが一瞬で消え去ると、目の前で、青味がかったシルバーホワイトのもふんもふんがしっぽをわさわさ振っていた。


「か、か、かわいいぃぃ」


 思わず駆け寄ってマリサはもふんもふんに抱きついていた。


「ワフン」


 大型犬のゆうに二倍はありそうな、美しいもふ毛の犬が、ちょこんと……大きいのでちょこんでもないが、簡易テントを半分潰して座っていたのだった。


 わしゃわしゃわしゃわしゃ……。


 犬を撫でるマリサの手は暫く止まらない。


 たとえ ☆S・魔獣☆ が見間違いでも、大好きな犬、それも大好物の大型犬ときたら、マリサにとっては、スーパーウルトラS級でも言い足りない。神降臨? いやいや、比べるまでもなく、尊いことだった。



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