3 / 37
3 やっぱり箱庭ゲームの世界? ~二日目
しおりを挟む一日目の夕方になり、ここが剣と魔法のファンタジーの世界でもなんでもないらしいことがわかり、益々マリサは途方にくれた。
しかもここは、マリサがやっていた、箱庭ゲームの世界に似ていることに気がついたのだ。
暮れていく世界の中、一本の木以外何もない場所で心細さとひもじさで、今度こそ正気がどうかなりそうだった。
現実からの逃避だったのかもしれない、なんとなくマリサは目を瞑り、エアースマホ・・・・・・を片手に、箱庭ゲームを指で操作してしまっていた。
毎日惰性でやっていた箱庭ゲームが、現実となって起動していたとしたら……。
ここが箱庭ゲームの世界ならば、初期設定では受信箱に、簡易テントとおもちゃのバケツとスコップ、何種類かの種と苗やなんかが入っているはずなのだ。
最初の箱庭の世界は荒れ地で、一本だけ実のなる木が生えているのだ。
目を瞑り、エアースマホ片手に簡易テントを選択する。
おっかなびっくり目を開けると、一抱え程の大きさの、ベージュ色の収納袋が足元に横たわっていた。
収納袋に、『簡易テント』どプリントされている。
マリサはがくっと肩を落とした。
「……やっぱり、『箱庭のロンド』の中のような気がする。ふっ、ふふふ……」
よろよろと立ち上がって、のろのろとテントの設営をすると、マリサは倒れこむようにテントに潜り込んだ。
「……ふっ、ふふふっ……」
それからしばらく、くぐもった声が荒れ地に虚しく響いていた。
◇◇◆◇◇
スマホの箱庭ゲーム、『箱庭のロンド』と思しき、妙ちくりんな世界に放り込まれて二日目の朝。
マリサはテント横の一本だけの木を見て目を瞠った。
「そうだ、昨日収穫忘れてたっ!」
一本の木には、一つだけマンゴーのような形の赤い実が生っていた。
ゲームのアバターが何も生産できなくても飢えないように、一日に一度だけ収穫の出来る、食べられる実だった。
ただし、収穫しなければ熟れたままで時を止めてしまうのだ。
「あーっ、もったいなかったあ、お腹減ってるのに!」
とほほ顔で掌サイズの実をもぐと、早速かじりつく。
じゅわっと甘酸っぱい果汁がしたたり、とろりとした果肉と共に喉を潤していく。夢中で噛り付いてあっと言う間に食べ終える。
「はあ~おいしかったあー」
しみじみと言ってお腹をさするが、いっきに食べるのではなかったと後悔もする。
中途半端にお腹に入れたせいか、お腹にスイッチが入ったように、より、グーグーと煩く鳴りだしたのだ。
まだまだ空腹を満たすには足りない、足りなすぎるのだ。
絶望と言う名の岩が背中にのしかかっていた。
いつの間にか木には明日のための小さな実が生っているのが目に留まる。
青く硬い実はか細い光となって、絶望的な気持ちを僅かに照らしていた。
「なにもしなくても一日、だったら少しでもあがいてみようじゃないの」
まずは、昨日苦労して見つけた小川へ水を汲みにいくのだ。
幸い、お腹は壊れてないし、どこにも不調はない。
生水はやはり躊躇するので、火を起こす術を考えること、生命を繋ぐ、この一本の木にも水をやりたいことと、畑も作らなければとマリサは考えていた。
「でも、さすがに一人じゃこわいのよね」
昨日はたまたま無事に水場まで辿り着いて、たまたま無事に戻れただけかもしれないのだ。
そう考えたら額から汗がたらりと流れた。
「あっ、そうだ。もしかしてもしかしたら、もう一つギフトがあるかも」
目を瞑る必要はないかと思い至って、左手にスマホを持っているつもりになると、不思議なことに、長四角の物体がぼんやりと見えてきて、手にも重みを感じて、マリサは鳥肌を立てる。
「うわっ、これ、私のスマホだわ……。だんだん鮮明になってきた」
オレンジ色のカバーをつけたスマホが、はっきりと手に握られていた。
ドキドキする胸を押さえ、電源を入れてみてずっこけた。
いきなり、ゲーム画面だったのだ。
ゲームを起動させようとしたのに、既にゲームは立ち上がっていた。
「そっか、エンドレスでゲームしてるのね。ゲーム三昧だわ……ははっ」
じわじわと涙が浮かんでくる。滲んだ涙を拭って画面を覗いたら、受信箱に目当てのものが入っていた。
「うわあ、あった! もうこれで、『箱庭のロンド』の世界で間違いないってことだわね」
どーん、ずーんと落ち込みながら、受信箱の中の「???」と表示された箱に指を乗せる。
『中身は開けてのお楽しみ ランダムにて、S、A、B、C、D、E、Fの便利アイテム又はペットが貰えます 便利アイテムかペットをお選びください』
という説明が画面に浮かび上がった。
1
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる