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新学期が始まり、1ヶ月が過ぎた。あんなにドキドキだった海翔との生活も、ようやく慣れてきた。一緒にご飯を食べたり、テレビを見たりなんかしてると、まるで同棲してるみたいだなとひとり浮かれたりなんかしていた。新たに知れた海翔の一面も沢山あって、それもすごく嬉しかった。特に驚いたのは、海翔は寝つきが良くて一度寝たら全く起きないということだ。このおかげで、俺は悠々自適なオナニーライフを送れている。ほんとに全然起きないものだから、最近だと普通にベッドでしちゃったりしている。もし海翔が起きちゃったらどうしよう……♡というドキドキもあって、これがすっかり癖になってしまっていた。

こんなド変態に好かれてしまって、海翔も可哀想だなあ……なんて自嘲する。一足先に部屋に戻ってベッドでだらけていると、部屋のドアが開く音がした。程なくして海翔が部屋に入ってきて、俺はそちらに身体を向けた。

「おかえり、海翔」
「ただいま……なあ依央里、今時間あるか?」
「見ての通り暇してるけど……どうしたの?」
「その……もしよかったら、ちょっと勉強教えてくれないか?」
「え……?」
「最近の数学が全然分からなくて……お前頭いいし、頼む!」

海翔が両手を合わせて頭を下げ、切に頼み込んでくる。そんなのお安い御用だし、好きな人に頼られてめちゃくちゃ嬉しい。俺は即座に引き受けようとしたが、ふと悪戯心が湧いてしまった。

「うーん、どうしよっかなあ……」
「たっ、頼む!俺の友達、勉強苦手な奴ばっかで……頼れるのお前しかいないんだ!」
「ああ、確かに……それじゃあ、なにかご褒美とかくれたらしてあげようかな」
「っ、え……?」

俺はベッドから降り、勉強机の前で佇む海翔の元へ寄る。距離を詰めると、俺より僅かに下にある顔をまじまじと見つめる。ああ、このままキスしちゃいたいなあなんて思いながら、目元をにんまり歪めた。すると海翔は瞳を揺らして息を飲み、俺に見蕩れているのだとわかってゾクゾクした。

「っ、……」
「あはは!なんてね、冗談だよ。いいよ、勉強教えてあげる」

俺は接近させた顔を離し、雰囲気をガラッと変えてけらけら笑う。海翔に目をやるとあからさまに動揺した様子で、ほんのり頬を赤らめていた。最高だ。あわよくば、俺を少しでも意識するようになればいい。

「ふは……っ、ほら海翔、勉強するんでしょ?教科書出して」
「……っ!あ、ああ……ありがとな、依央里」
「いいって。別にすることなかったし」

海翔は気を取り直した様子で、机の上に問題集やら教科書を広げる。俺は自分の椅子を海翔の机の隣まで引き寄せ、腰掛けた。

「で?分からないところは?」
「えっと……この辺りから……」
「おお、随分と広範囲だね」
「うぐ……ほんと悪い……!」
「いいよ、大丈夫。じゃあ一緒に頑張ろうね」

悪びれる海翔に微笑みかけ、シャーペンを手に取る。それからふたりっきりの勉強会が、長いこと続いた。





***





「お疲れ様、海翔。よく頑張ったね」
「はぁ……疲れた……もう何も入らない……」

なんとか目標ページまで達成し、海翔は机の上にぐったり突っ伏す。柔らかな茶色の髪をよしよしと撫でてやると、海翔は顔をこちらへと向けた。

「ここまで付き合ってくれてありがとな、依央里。すごく分かりやすくて助かった」
「どういたしまして。また分からないところあったら、見てあげるからね」
「うぅ、神だ……お前と同室になれて、ほんとによかった」

海翔がしみじみと言うものだから、俺は苦笑してしまう。するとようやく復活した海翔は近くにあった鞄を手繰り寄せ、その中から何かを取り出した。

「お礼……になるかわからんが、よかったらこれ、貰ってくれ」
「え……?」

そう言って海翔が差し出してきたのは、グミの小袋だった。恐らく自分のおやつ用に買ってきたものだろう。俺はそれを素直に受け取ると、海翔は満足気に微笑んだ。

「ありがとう、海翔。でも別に、そんなのいいのに」
「ささやかな気持ちだ。その代わり、また次回も頼むぞ」
「うん、勿論」

海翔からの初めてのプレゼントを、俺は両手で大事に包む。嬉しさのあまり、胸がじんわり熱くなる。どうしよう、勿体なくて食べられないかもしれない。

「……お前、そんなにグミ好きだったのか?」
「え……?いや、まあ、好きっちゃ好きだけど……」
「そ、そうなのか……なんか、めちゃくちゃ嬉しそうにするから……」

指摘され、どっと羞恥が込み上げる。それ程までに、喜びが顔に出てしまってたのか……俺は咄嗟に、真っ赤になった顔を手で覆う。

「依央里……?どうした、大丈夫か?」
「……ごめん、なんでもない。大丈夫」

嬉しさと羞恥でぐちゃぐちゃになりながら、俺はなんとか火照りを収めようとする。一丁前に海翔を誘惑なんかしようとしたが、やっぱり敵うわけがないなと痛感させられた。

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