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①
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「海野くん。今日は付き合ってくれてありがとう」
「あ……はい、こちらこそ」
差し出されたグラスに自分のものをカチンと打ち付けると、俺はその中身を一気に呷った。緊張で乾いた喉が潤っていく感覚が気持ちいい。
「君とは前から一度食事してみたいと思っていたからね。それが叶って嬉しいよ」
「そのために、こんないいお店まで……ほんと、恐縮です」
なぜか正面ではなく隣に座っているこの男は、俺が勤める会社の社長だった。
ちょうど半月前、ぺーぺーの平社員である俺に、なぜか社長直々にお呼び出しがかかった。クビを切られるのかとビビり散らかして社長室に赴いたら、なんとぜひ今度俺と食事に行きたいとのことだった。それはそれで逆にビビったが、社長の誘いを飲まないわけにはいかない。なぜほとんど接点のない俺なんかを……?と思いながら、俺はぎこちない営業スマイルで頷いたのだった。
「ここは謂わばVIPルームのようなものだからね。のびのび寛いで、ゆっくりしようじゃないか」
「は、はい……」
連れてこられたのはひと目で高級だとわかるだだっ広い料亭で、この部屋はその奥の奥に隔離されていた。明らか大人数用の広い個室に、俺と社長はふたりきりだった。ほんとになぜ、俺相手なんかにこんな高待遇を……?その辺の適当な居酒屋でいいのに、恐れ多くて緊張しまくってしまうじゃないか。
「あの……社長はなぜ、貴重なお時間を割いてまで、俺なんかと……?」
「はは、君は自分を蔑みすぎだよ。仕事の出来はいいしかなり頑張ってくれてるって評判になってるんだよ」
「え……社長の耳にまで、ですか?」
「ああ、この間のプロジェクトだって……」
社長はビールを片手に、俺の些細な功績を褒めちぎり始める。あまり人に褒められる経験の無い俺は、それが擽ったくもあり嬉しかった。完全に縁の下の力持ちだと自覚していたが、見ててくれてる人がいたんだなあと感動する。
「さすが、社長ですね……社員ひとりひとりに、しっかり目を向けているなんて……」
「はは、まあ、あらかた把握はしているが……でも、ここまで知り尽くしているのは君だけだよ、海野くん」
社長のその言葉に、俺の胸がほのかに騒いだ。さすがにそんなことは無いと思うのだが、嫌な予感がする。俺は愛想笑いで軽くいなし、きっと冗談だろうと思い込もうとする。
「君はほんとにシャイだねえ。その様子だと、女性と付き合った経験もそんなにないんじゃないかい?」
「……っ、そ、んな、こと……」
「うん?もしかして今彼女がいたり?」
突然プライベートの話に踏み込まれて困惑する。これ、女性相手だったら完全にセクハラだろ……でもまあ俺は男だし、相手が社長なので、嫌だなと思いながら素直に答える。
「彼女は……いま、せん」
「はは、やっぱりそうなんだね。ちなみに今までお付き合いをしたことは?」
「……っ、ない、です……」
なんかめんどくさい方向に話が向かっていってるな……とウンザリする。こんな男のそんな話聞いて、一体何が楽しいのだろう。社長はげらげら笑いながら、飽きることなく詰めてくる。
「そっかあ、思った通りのピュアボーイなんだね、海野くんは。なら、女性経験も勿論ないんだよね?」
「っ、え……?」
「どうなんだい海野くん、はっきり答えなさい」
「……っ、あり、ません……」
一体なんなんだ。社長だからって、不躾にズケズケ踏み込みやがって……!恥ずかしいのと腹立たしいので、俺はほんのり赤らんでいた顔が真っ赤になる。
「ふはっ、可愛いねぇ、海野くん。そんなんだと、性欲が溜まってしょうがないだろう?」
「えっ、い、いや……」
「君みたいな真面目そう子ほどむっつりだって、よく知ってるよ。風俗とかも行きそうなタイプじゃないし、日頃からオナニーばっかしてるんだろう?」
社長がグラスを置き、俺との距離を詰めてきた。さすがに気持ち悪い。いくら男相手でも、度を超えている。嫌悪感でいっぱいになった俺は距離を取ろうとするも、社長に腰を抱かれてしまう。
「っ、ちょっ、社長……!」
「駄目じゃないか、海野くん。社長の質問にはちゃんと答えないと」
「……っ!」
「私はね、君という可愛い部下のこともっと知りたいし、仲良くなりたいんだよ」
なんて真っ当なことを言いながら、逆らったらどうなるか分かってるな、という圧が滲み出ている。本当にクソだ。こんなことなら、ボイスレコーダーを忍ばせてくれば良かった。だってまさか、こんなことになるなんて思わないだろう。
「ふふ……むっつり男子の海野くんは、週何回オナニーをしてるのかな?」
「……」
「うん?聞こえないよ?ほら、正直に答えるんだ」
「……さ、三回、くらい……です」
「あははっ、意外に少ないねえ。とてもそれじゃ満足できそうには見えないけどねえ」
相変わらず社長はひとり楽しそうに笑い、グラスを呷る。密着した身体が気持ち悪くて吐き気がしてくる。そしてあろうことかこいつは明確に俺に邪な目を向けていると察し、本気で吐きそうになる。
「それで、オカズはどんなの?AVとか見たりするの?それとも妄想?」
「……AVを、見ます……」
「ふぅん。どんなのが好きなんだい?女優のタイプは?興奮するシチュエーションは?」
「……清楚系の子が好きです……普通の、恋人同士でイチャイチャする系のやつ……」
「ははっ、いかにも童貞らしい好みだね。巨乳かスレンダーでいったらどっちが好き?」
「きょ、巨乳、です……」
何をド正直に答えてるんだ俺は、ととめどなく羞恥が込み上げる。そしてそれを聞いて興奮している隣のセクハラ親父に、鳥肌が止まらない。
「そっかあ……海野くんは、清楚な巨乳彼女とえっちがしたいわけだね」
「……」
「それで、オナニーはどんな風にするの?ちょっとやってみせてよ」
「……は?」
さすがに言われたことが理解できなくて、俺はきょとんとして社長を見やる。すると社長は密着した俺の身体を、自分の方へと向けさせた。対面する俺を、いやらしい目で舐めるように見つめてくる。
「いつもしてるみたいに、今ここでオナニーしてみせてよ」
「は……?な、なに言ってるんですか……」
「なんならスマホでエロ動画見ながらでもいいからさ。ね?できるよね?」
スケベ心を剥き出しにしながらも、社長はお前に拒否権はないと言外に訴えてくる。これもう事案じゃないのか。でもここで全てを突っぱねて逃げでもしたら、俺は明日から会社に居られなくなってしまうかもしれない。不本意極まりないが、とりあえずこの場では素直に言うことを聞くしかない。それが終わったらなんとしてでも証拠を集めて訴えてやると決意し、俺はベルトに手をかけた。
「あ……はい、こちらこそ」
差し出されたグラスに自分のものをカチンと打ち付けると、俺はその中身を一気に呷った。緊張で乾いた喉が潤っていく感覚が気持ちいい。
「君とは前から一度食事してみたいと思っていたからね。それが叶って嬉しいよ」
「そのために、こんないいお店まで……ほんと、恐縮です」
なぜか正面ではなく隣に座っているこの男は、俺が勤める会社の社長だった。
ちょうど半月前、ぺーぺーの平社員である俺に、なぜか社長直々にお呼び出しがかかった。クビを切られるのかとビビり散らかして社長室に赴いたら、なんとぜひ今度俺と食事に行きたいとのことだった。それはそれで逆にビビったが、社長の誘いを飲まないわけにはいかない。なぜほとんど接点のない俺なんかを……?と思いながら、俺はぎこちない営業スマイルで頷いたのだった。
「ここは謂わばVIPルームのようなものだからね。のびのび寛いで、ゆっくりしようじゃないか」
「は、はい……」
連れてこられたのはひと目で高級だとわかるだだっ広い料亭で、この部屋はその奥の奥に隔離されていた。明らか大人数用の広い個室に、俺と社長はふたりきりだった。ほんとになぜ、俺相手なんかにこんな高待遇を……?その辺の適当な居酒屋でいいのに、恐れ多くて緊張しまくってしまうじゃないか。
「あの……社長はなぜ、貴重なお時間を割いてまで、俺なんかと……?」
「はは、君は自分を蔑みすぎだよ。仕事の出来はいいしかなり頑張ってくれてるって評判になってるんだよ」
「え……社長の耳にまで、ですか?」
「ああ、この間のプロジェクトだって……」
社長はビールを片手に、俺の些細な功績を褒めちぎり始める。あまり人に褒められる経験の無い俺は、それが擽ったくもあり嬉しかった。完全に縁の下の力持ちだと自覚していたが、見ててくれてる人がいたんだなあと感動する。
「さすが、社長ですね……社員ひとりひとりに、しっかり目を向けているなんて……」
「はは、まあ、あらかた把握はしているが……でも、ここまで知り尽くしているのは君だけだよ、海野くん」
社長のその言葉に、俺の胸がほのかに騒いだ。さすがにそんなことは無いと思うのだが、嫌な予感がする。俺は愛想笑いで軽くいなし、きっと冗談だろうと思い込もうとする。
「君はほんとにシャイだねえ。その様子だと、女性と付き合った経験もそんなにないんじゃないかい?」
「……っ、そ、んな、こと……」
「うん?もしかして今彼女がいたり?」
突然プライベートの話に踏み込まれて困惑する。これ、女性相手だったら完全にセクハラだろ……でもまあ俺は男だし、相手が社長なので、嫌だなと思いながら素直に答える。
「彼女は……いま、せん」
「はは、やっぱりそうなんだね。ちなみに今までお付き合いをしたことは?」
「……っ、ない、です……」
なんかめんどくさい方向に話が向かっていってるな……とウンザリする。こんな男のそんな話聞いて、一体何が楽しいのだろう。社長はげらげら笑いながら、飽きることなく詰めてくる。
「そっかあ、思った通りのピュアボーイなんだね、海野くんは。なら、女性経験も勿論ないんだよね?」
「っ、え……?」
「どうなんだい海野くん、はっきり答えなさい」
「……っ、あり、ません……」
一体なんなんだ。社長だからって、不躾にズケズケ踏み込みやがって……!恥ずかしいのと腹立たしいので、俺はほんのり赤らんでいた顔が真っ赤になる。
「ふはっ、可愛いねぇ、海野くん。そんなんだと、性欲が溜まってしょうがないだろう?」
「えっ、い、いや……」
「君みたいな真面目そう子ほどむっつりだって、よく知ってるよ。風俗とかも行きそうなタイプじゃないし、日頃からオナニーばっかしてるんだろう?」
社長がグラスを置き、俺との距離を詰めてきた。さすがに気持ち悪い。いくら男相手でも、度を超えている。嫌悪感でいっぱいになった俺は距離を取ろうとするも、社長に腰を抱かれてしまう。
「っ、ちょっ、社長……!」
「駄目じゃないか、海野くん。社長の質問にはちゃんと答えないと」
「……っ!」
「私はね、君という可愛い部下のこともっと知りたいし、仲良くなりたいんだよ」
なんて真っ当なことを言いながら、逆らったらどうなるか分かってるな、という圧が滲み出ている。本当にクソだ。こんなことなら、ボイスレコーダーを忍ばせてくれば良かった。だってまさか、こんなことになるなんて思わないだろう。
「ふふ……むっつり男子の海野くんは、週何回オナニーをしてるのかな?」
「……」
「うん?聞こえないよ?ほら、正直に答えるんだ」
「……さ、三回、くらい……です」
「あははっ、意外に少ないねえ。とてもそれじゃ満足できそうには見えないけどねえ」
相変わらず社長はひとり楽しそうに笑い、グラスを呷る。密着した身体が気持ち悪くて吐き気がしてくる。そしてあろうことかこいつは明確に俺に邪な目を向けていると察し、本気で吐きそうになる。
「それで、オカズはどんなの?AVとか見たりするの?それとも妄想?」
「……AVを、見ます……」
「ふぅん。どんなのが好きなんだい?女優のタイプは?興奮するシチュエーションは?」
「……清楚系の子が好きです……普通の、恋人同士でイチャイチャする系のやつ……」
「ははっ、いかにも童貞らしい好みだね。巨乳かスレンダーでいったらどっちが好き?」
「きょ、巨乳、です……」
何をド正直に答えてるんだ俺は、ととめどなく羞恥が込み上げる。そしてそれを聞いて興奮している隣のセクハラ親父に、鳥肌が止まらない。
「そっかあ……海野くんは、清楚な巨乳彼女とえっちがしたいわけだね」
「……」
「それで、オナニーはどんな風にするの?ちょっとやってみせてよ」
「……は?」
さすがに言われたことが理解できなくて、俺はきょとんとして社長を見やる。すると社長は密着した俺の身体を、自分の方へと向けさせた。対面する俺を、いやらしい目で舐めるように見つめてくる。
「いつもしてるみたいに、今ここでオナニーしてみせてよ」
「は……?な、なに言ってるんですか……」
「なんならスマホでエロ動画見ながらでもいいからさ。ね?できるよね?」
スケベ心を剥き出しにしながらも、社長はお前に拒否権はないと言外に訴えてくる。これもう事案じゃないのか。でもここで全てを突っぱねて逃げでもしたら、俺は明日から会社に居られなくなってしまうかもしれない。不本意極まりないが、とりあえずこの場では素直に言うことを聞くしかない。それが終わったらなんとしてでも証拠を集めて訴えてやると決意し、俺はベルトに手をかけた。
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