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「おじゃま、します……」

築年数そこそこなアパートのひと部屋に、笹野はおずおずと足を踏み入れる。その部屋の主である三崎は靴を脱ぎ捨てて電気をつけ、来客である笹野を招き入れた。

「きったなくてごめんねえ。いやまさか誰かを招くことになるなんて思ってなくてさ」
「ああいや……気にしないで」

散らばった諸々のモノを足で掻き分ける三崎に続き、笹野はリビングへと向かう。

あの後、笹野は家に来ないかと三崎に誘われた。あんなことがあった直後のそんなお誘いに、笹野は面食らいながらも二つ返事で了承した。それに気を良くした三崎は、この後授業があるにも関わらず笹野を無理矢理自宅へと連れたった。初めてのエスケープに笹野はハラハラだったが、それよりも三崎といたいという思いが強かった。

「ごめん、飲み物ミネラルウォーターしかないわ……あと食べ物はカップラーメンしかない」
「あはは……いいよ、お構いなく」
「せっかく来てもらったのにごめんね……なんかコンビニで買ってくりゃよかったね」

ひとつしかないコップにミネラルウォーターを注ぎ、三崎がテーブルの上に置いた。そして飲みかけのペットボトルがいくつも置かれるそこから、気付いたように小箱をひとつ取り上げた。

「あ、カロリーメイトあったわ……食べる?」
「いや、大丈夫。というか三崎くん、ちゃんとご飯食べてる?心配になるよ……」
「あー食事はだいたい……、っ」

何かを言いかけた三崎が、慌てて口を噤んだ。笹野はそれにきょとんとしつつ、改めて部屋の中を見渡した。1Kの手狭な部屋は、荒れた生活を物語るように散らかっていた。事前に一人暮らしだと聞いてから少し心配だったが、まさかここまでの有様だとは。そんな度肝を抜かれる笹野の隣に、三崎はそっと腰をおろした。

「……さっき親いないって話したじゃん?」
「……うん」
「少し前までかろうじて仕送りあったんだけどさ、それも途切れちゃって一時期マジやばかったんだよね。どうしようって途方に暮れてた時に、たまたま居た公園でおっさんに声かけられてさ」
「……」

笹野は手にしたコップに口付け、ごくりと水を一口飲み込んだ。なんとなく、この先の話を聞くのに覚悟がいる気がした。

「困ってるなら助けるよって。最初意味わかんなかったけど、万札チラつかされて察したよね。さすがに戸惑ったけど、でもぶっちゃけ興味無いこともなかったから、ほいほいついてっちゃって……そしたらそれが、想像以上によくてさあ」

なんてことのないように、三崎があっけらかんと言い放つ。笹野はなんて言えばいいのか、そもそもどんな顔をすればいいのか分からず、押し黙ったまま俯く。

「おっさんもいい人だし羽振りもよくてさ、そっから定期的に会って支援してくれてるんだよね。んで、おかげでこうして何不自由なく生活できてるってわけ」
「……っ」
「ドン引きでしょ?俺、おっさん相手に身体売ってんの。エンコーしてんだよ」

三崎は自嘲し、背後のベッドに背を預けて天を仰いだ。衝撃の事実に笹野は当然ショックを受けたが、それでも気持ちは変わらなかった。

「だからサノッチ、こんな汚い俺なんかは……」
「っ、言ったでしょ、何があっても三崎くんに幻滅することなんてないって」

笹野は俯いていた顔をあげ、隣で目を丸くしている三崎を見つめた。間近で直視するのが照れるほど綺麗な顔だが、笹野は目線を逸らさずに続ける。

「三崎くんは、とても綺麗だよ。僕にとっては、誰よりも何よりも大切な存在だから」
「……っ」
「そりゃまあ、多少はびっくりしたけど……でも、僕の気持ちは変わらないよ」

笹野が三崎の手を握り、慈しみを込めて微笑んだ。息を飲んで固まる三崎の瞳が揺らめく。

「三崎くん……僕は、君の全てが好きだよ。そんな君の……心も身体も、欲しいな……なんて……」

さすがに恥ずかしくなってきて、笹野は顔を真っ赤にして視線を逸らせる。キモオタの分際で、なにをこんなイケメンにしか許されないようなこと抜かしてるんだ。そんなじわじわと賢者モードになってきた笹野の手を、三崎はぎゅっと握り返した。

「……っ、いい、の……?」
「……え?」
「俺なんかで、ほんとにいいの……?」

なんとも心もとない表情で、三崎が上目遣いでおずおずと伺う。いつもの飄々とした姿はなりを潜め、まるで小動物のような弱々しさに笹野の庇護欲が掻き立てられる。

「僕には君だけだよ。三崎くん、君じゃなきゃ駄目なんだ」

そう言って笹野は握られた手を引き、三崎を抱きしめた。相変わらず三崎の鼓動は高鳴っていて、ドクドク伝わってくるその脈動が愛おしい。

「っ、うぅ~~~~……さのっちぃ……」
「……っ!」
「おれも……おれも、すき……」

感極まった三崎が笹野の正面にまわり、ぎゅうぅっと抱きついてきた。三崎も同じ気持ちを抱いていて、更にそれを伝えてくれたのが嬉しくて、笹野も負けじと抱きしめ返した。

「……っ、みさき、くん……」
「……さのっ、ち……」

揃って泣きそうになっている顔同士が対面する。すると三崎が顔を傾け、笹野の唇に吸い付いた。初めて味わう唇の感触にドキッとすると、そのままふにふに啄まれる。それが心地よくて、もっと味わいたくて、次第に笹野の唇も動き始める。

「んんっ、ふぅ……っ♡」

三崎は我慢できなくなり、うっすら空いた笹野の唇の狭間に舌を這わせた。あからさまに身体を強ばらせた笹野に苦笑しながら、三崎はゆっくり舌を捩じ込ませる。中で縮こまっている笹野の舌を、ちろちろ擽ってみせた。

「……っ、んんっ、ふぁ……♡」
「はぁ、んん♡んむ、ぅ♡」

口内で三崎の舌がぬるぬる蠢き、あまりのいやらしさに笹野の興奮が募っていく。巧みに動く舌は次から次へと気持ちいいところを擽り、身体をしきりに跳ねさせてしまう。呼吸も荒くなっていき、笹野は翻弄してくる三崎にぎゅっとしがみついた。

「ふぁ、はぁっ♡は……っ♡」
「んんん♡ふぁぁ、ぁ……っ♡」

ぐちゅぐちゅ舌を絡め合わせるふたりの股間が、むくむくと硬くなっていく。密着しているためふたりはその感触を鮮明に感じ、更に興奮が煽られる。笹野はたまらず腰を捻らすと、三崎の身体が大仰に震えあがった。

「んんっ♡ふぁっ、んんっ♡ぁふ、……っ♡」

気付けば笹野は、三崎の腰をホールドして股間をごりごり擦り付けていた。感じるあまり三崎の舌は動かなくなってしまい、笹野はそれをぢゅるぢゅるしゃぶる。舌を貪られ、ちんぽを擦られ、三崎の熱が早くも最高潮にまで高められていく。

「んぁ、はぁぁ♡あ、うぅ♡ふぁっ、ぁ……っ♡」

口内に溜まった涎を啜られ、ぢゅうぅっ♡と舌を根元からキツく吸いあげられる。その瞬間、三崎の背筋を鋭い電流が駆け上がり、脳天で盛大に弾けた。一層激しく身体が震え、ちんぽがじわぁ♡と生暖かくなる。

「ふぁ、ぁ……♡ぁ、んん……っ♡」
「……っ!?」

三崎のその極まったかのような反応に、笹野ははっと我に返る。そしてようやく唇を解放すると、三崎の顔は濡れてとろんとろんになっていた。

「あ……っ!み、みさきくんっ!ごめん……っ!つい、興奮しちゃって……」
「……っ♡うぅ……♡」

三崎は笹野にしがみつきながら、ビクッ♡ビクッ♡と小さく身体を跳ねさせる。そして触れ合ったちんぽも同じように跳ねていて、笹野はまさかと思ってそこに視線を向ける。すると張り詰めた三崎の股間部分が、ぐっしょり濡れてしまっていた。

「……っ!み、みさき、くん……」

まさかあれだけでイってしまうとは……興奮しすぎて我を忘れていた自分を、笹野は叱咤する。そして蕩けきった三崎に、慌てて謝り倒した。

「ごめんねっ、三崎くん!つい興奮しすぎちゃって……!せ、制服、僕がクリーニングに……!」

笹野がベルトに手を伸ばそうとしたところで、三崎がおもむろに腰をあげた。そして笹野の背後にあるベッドに、のろのろと乗りあげる。

「……っ!?」
「……さのっち、きて……♡つづき、して……♡」

ベッドに寝っ転がった三崎は、自らシャツのボタンを外して笹野を誘う。こんなの、据え膳以外のなにものでもない。笹野はごくりと生唾を飲み込み、素直にベッドに乗り上げた。
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