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第三章「図書館」
「……文字の成り立ち」
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以前の記憶を頼りに、俺は怪異についての本を探す。
イリニシア魔法はマリオネットが、古代魔法はイリスさんが探し、オリバーはこの地方の呪いについて、ピオさんが近代魔法を調べる手はずになっていた。
そうは言っても中々よい資料にたどり着けない。俺は一次中断して、その場にあった文字の大きな本に手を出した。
「……文字の成り立ち。古代文字から、暗号まで……」
なんともなしにパラパラとめくる。文字の成り立ちについては学校の初等学級で習った。今更、と思いながらも懐かしさでついつい読んでしまった。
あの頃、俺とオリバーはいつも一緒に居て、授業中ですらひそひそとおしゃべりをしていたっけな。当時からオリバーは俺をツガイとして見ていたのか、やたら世話をやかれていた。
ページをめくり、暗号の項目に行き着く。
授業の間の雑談が教師に見咎められた俺たちは、こっそり二人で喋るために暗号を作って手紙を送りあった。二人にしか解読できなかったそれは、覚えるのも一苦労で気がつけば使わなくなっていったっけ。
過去の記憶で頬がほころぶ。ふいに肩にとすん、と顎が乗せられる感触がした。
「何ニヤニヤしてんの?」
オリバーだった。彼は本を覗き込んでくる。
「暗号?」
「ああ、うん。子供の頃俺達で作って遊んでいたんだよ」
文字を指先でなぞりながら告げると、金髪の麗人の顔が真顔になる。
「……どんな文字」
「あまり覚えていない。……換字表も多分なくなっていると思う」
換字表とは、記号がどの文字に対応するかを書いた表である。それと照らし合わせながら記号を解読するのだ。
「……ふぅん」
つまらなさそうにオリバーは体を離しつつも、暗号の項目を見続けていた。
「言葉が消えた文字はただの記号にしか見えないね」
どこか拗ねているようだった。
「まぁ、そうだな。とはいっても、繰り返し出てくる記号で言葉を推測することは出来る。確か、オリバーの文字は◯に翼が生えている記号だったな。それだけは覚えているんだ」
「……たくさん書いた?」
じ、と顔を覗き込まれる。俺は首を縦に振った。
「ああ……」
そこまで話すと、ふいにオリバーは唇に指を当てた。
「……そうか、暗号かもしれないのか」
「オリバー?」
彼は懐から導き様に使われた用紙を取り出す。手がかりを探しやすいように前もってピオさんから書き写させてもらっていたらしい。
「この周囲の記号、もしかしたらどこかで使われていた文字じゃなくて、暗号なのかもしれない」
「暗号……?」
「うん。つまり、これは魔法陣じゃなくて、何かの記事、記録、誓約書なのかもしれない。読む人同士がわかっていればいいような、そんな文字」
なるほど、と俺は魔法陣を読む。
「でも……、これが何かの文章だとしたら、せいぜい6文字前後しかないぞ? それで一体何が出来ると言うんだ?」
「まだわからないよ。換字表もないんだ」
オリバーは肩をすくめる。とはいえ、暗号かもしれないと閃いたのは収穫だろう。
昼をまわり、一度四人は集合をする。食事を摂るために書庫を後にして、図書館に併設されている喫茶店に足を運んだ。
「なるほど、暗号という線はなきにしもあらずだね。だとしたら、表音文字ではなく表意文字の可能性が出てくるし、6つも図形があれば、何らかの意味をもたせられる」
オリバーの推測に、イリスさんは頷いた。
表音文字とは音を表す文字で、多くの場合単体では意味をなさないが、組み合わせ次第で様々な単語を表現できる。表意文字は一文字で意味を表す文字で、先述した◯に竜の翼の生えている記号でオリバーを表すような文字のことだ。
「でも、その場合契約者同士で同意を取れているとは思えないな。導き様をおまじない感覚でやった子たちに、きっと意図は伝わっていない」
ピオさんがコーヒーを飲みながら異論を唱える。
「意図は伝わっていなくても同意は出来る。賃貸契約の際に書いてある条項を全部読まなくても契約が出来るようにさ」
オリバーも負けじと返す。
「それはそうなんだけどよ……」
けれど納得行っていないという顔をして元警官は頭をかいた。
「これが魔法じゃなくて契約書だったら、また別の意味で厄介だけどね。書いてある内容を解き明かさなきゃ誰がなんのためにしているのかもわからない。古代魔法だったら、文字の読み方が研究されているけど、それすらないんだもん」
イリスさんが腕を組んで考え込む。
「まぁ、そこのあたりはアカデミーに行って聞いてみるか」
各々の口数が少なくなり、食べ終えたところでピオさんが告げる。
大量の本を借り、俺達は次なる目的地へと進んだのだった。
イリニシア魔法はマリオネットが、古代魔法はイリスさんが探し、オリバーはこの地方の呪いについて、ピオさんが近代魔法を調べる手はずになっていた。
そうは言っても中々よい資料にたどり着けない。俺は一次中断して、その場にあった文字の大きな本に手を出した。
「……文字の成り立ち。古代文字から、暗号まで……」
なんともなしにパラパラとめくる。文字の成り立ちについては学校の初等学級で習った。今更、と思いながらも懐かしさでついつい読んでしまった。
あの頃、俺とオリバーはいつも一緒に居て、授業中ですらひそひそとおしゃべりをしていたっけな。当時からオリバーは俺をツガイとして見ていたのか、やたら世話をやかれていた。
ページをめくり、暗号の項目に行き着く。
授業の間の雑談が教師に見咎められた俺たちは、こっそり二人で喋るために暗号を作って手紙を送りあった。二人にしか解読できなかったそれは、覚えるのも一苦労で気がつけば使わなくなっていったっけ。
過去の記憶で頬がほころぶ。ふいに肩にとすん、と顎が乗せられる感触がした。
「何ニヤニヤしてんの?」
オリバーだった。彼は本を覗き込んでくる。
「暗号?」
「ああ、うん。子供の頃俺達で作って遊んでいたんだよ」
文字を指先でなぞりながら告げると、金髪の麗人の顔が真顔になる。
「……どんな文字」
「あまり覚えていない。……換字表も多分なくなっていると思う」
換字表とは、記号がどの文字に対応するかを書いた表である。それと照らし合わせながら記号を解読するのだ。
「……ふぅん」
つまらなさそうにオリバーは体を離しつつも、暗号の項目を見続けていた。
「言葉が消えた文字はただの記号にしか見えないね」
どこか拗ねているようだった。
「まぁ、そうだな。とはいっても、繰り返し出てくる記号で言葉を推測することは出来る。確か、オリバーの文字は◯に翼が生えている記号だったな。それだけは覚えているんだ」
「……たくさん書いた?」
じ、と顔を覗き込まれる。俺は首を縦に振った。
「ああ……」
そこまで話すと、ふいにオリバーは唇に指を当てた。
「……そうか、暗号かもしれないのか」
「オリバー?」
彼は懐から導き様に使われた用紙を取り出す。手がかりを探しやすいように前もってピオさんから書き写させてもらっていたらしい。
「この周囲の記号、もしかしたらどこかで使われていた文字じゃなくて、暗号なのかもしれない」
「暗号……?」
「うん。つまり、これは魔法陣じゃなくて、何かの記事、記録、誓約書なのかもしれない。読む人同士がわかっていればいいような、そんな文字」
なるほど、と俺は魔法陣を読む。
「でも……、これが何かの文章だとしたら、せいぜい6文字前後しかないぞ? それで一体何が出来ると言うんだ?」
「まだわからないよ。換字表もないんだ」
オリバーは肩をすくめる。とはいえ、暗号かもしれないと閃いたのは収穫だろう。
昼をまわり、一度四人は集合をする。食事を摂るために書庫を後にして、図書館に併設されている喫茶店に足を運んだ。
「なるほど、暗号という線はなきにしもあらずだね。だとしたら、表音文字ではなく表意文字の可能性が出てくるし、6つも図形があれば、何らかの意味をもたせられる」
オリバーの推測に、イリスさんは頷いた。
表音文字とは音を表す文字で、多くの場合単体では意味をなさないが、組み合わせ次第で様々な単語を表現できる。表意文字は一文字で意味を表す文字で、先述した◯に竜の翼の生えている記号でオリバーを表すような文字のことだ。
「でも、その場合契約者同士で同意を取れているとは思えないな。導き様をおまじない感覚でやった子たちに、きっと意図は伝わっていない」
ピオさんがコーヒーを飲みながら異論を唱える。
「意図は伝わっていなくても同意は出来る。賃貸契約の際に書いてある条項を全部読まなくても契約が出来るようにさ」
オリバーも負けじと返す。
「それはそうなんだけどよ……」
けれど納得行っていないという顔をして元警官は頭をかいた。
「これが魔法じゃなくて契約書だったら、また別の意味で厄介だけどね。書いてある内容を解き明かさなきゃ誰がなんのためにしているのかもわからない。古代魔法だったら、文字の読み方が研究されているけど、それすらないんだもん」
イリスさんが腕を組んで考え込む。
「まぁ、そこのあたりはアカデミーに行って聞いてみるか」
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