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第二章第37話「……遅い」
しおりを挟む「……遅い」
日が沈み、周囲を闇が包んでもルカスは帰ってこない。宿で本日手に入れた情報をピオと一緒に精査していたレオンは苛立ち混じりに呟いた。
「確かに、いい時間だよなぁ。オリバーも帰ってきてないし」
「探しに行ってくる」
告げるとレオンは狼の姿になる。腕飾りに加工したキャリーの中に自分の服を入れ、ベルトを引いて細くなった前足に縛り付けた。
「久しぶりに見たな、その姿」
ピオもベッドから立ち上がる。一緒に来てくれる気らしい。
レオンは外に出てルカスの匂いをたどる。様々な匂いの入り混じった中でルカスのものを探すのは厳しかった。それでも、直感と微かな香りを頼りに足を進める。後ろからピオが小走りになってついてきていた。
嫌な予感がしてまずは件の結婚斡旋所へと行くが、特に何もなかった。ではどこに、と考え、メウトの研究所が頭に浮かんだ。
セキュリティが厳重で中に忍び込むことが出来なかった。けれど不安により足がそちらの方へ向く。
「さすがにここにいたらまずいだろ」
ついてきたピオは頬を引きつらせる。眼の前にメウトの研究所の門があった。
彼の言葉を無視して匂いを嗅ぐ。わずかにだがルカスの匂いがした。振り返り、ピオをじっと見つめる。
「え……? 何? なんなのその目。言っておくけど、俺じゃどうしようも……」
その時、ピオが震え、トランシーバーを取り出す。淡く鉱石が光り、着信を告げていた。
「お、ウィルか?」
ピオの言葉をじっと待つ。
「……ああ、うん。わかった。とりあえず合流しよう」
研究所の場所を告げ、ピオはトランシーバーをしまってレオンを見た。
「家に戻ったら、執事にパウルがこの研究所に行ったって教えられたんだとさ。どうやら、アイツは研究所に出資を願いに行ったみたいだな」
レオンは渋面を作る。肩をすくめてピオが続けた。
「ウィルは一度宿屋に寄ってオリバーを連れてこっちに来てくれるとさ」
嫌な予感にぐるぐるとその場を回るがどうしようもない。門の前には門番が二人立っていて、周囲をランプが照らしている。研究所の周りは高い壁に覆われており、飛び越えられそうになかった。
それから数分後、再びウィルから連絡があった。
「この近くの裏路地に場所を変更したいって」
ピオに連れられて行った裏路地には一匹のドラゴンとウィルがいた。
「もしかして、これがオリバーか?」
人一人が騎乗出来そうなドラゴンを見てピオが尋ねる。ウィルはこくりと頷いた。
「地上から行けないなら、上から潜入したほうがいいでしょう。俺はパウルさんの伴侶として夫を探しに来たと告げて門番をひきつけますから、その間にお二人はオリバーに乗って上から入ってください」
オリバーはウィルの言葉に少し不満そうにしていたが、レオンの瞳を見ると背中を下げて乗りやすいようにしてくれた。
ウィルが門番に夫の行方を聞き、中にいることを確かめている間に、レオンたちは闇に紛れて屋上に降り立った。
一応明かりはあるものの、誰もいない。扉があるが当然のように閉まっていた。ピオは慣れた手付きでどこからともなく針金を取り出すと鍵穴に挿す。数秒後、扉が開いていた。
「やるじゃん」
人間に戻り、服を着たオリバーがヒュウと口笛を吹く。ピオは片目をつぶった。
「まぁ、元警官ですから」
「普通逆じゃない?」
「泥棒の手立ては知っておかないと捕まえられないだろ」
軽口を叩き合いながら扉の中に入る。レオンも侵入し、ルカスの匂いを追いかけた。
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