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第二章「さらに7回追加されました」

第二章第34話「パウル君」

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 朝起きたら、僕の周囲には誰も居なかった。

 朝というのには随分遅い時間だったからだ。とっくに太陽は西に傾いている。宿屋の僕とレオン君の部屋だった。サイドテーブルにはレオン君からのメモが残されている。

『引き続き調査を進める。起きたら適当に食事を取って、宿に待機していてほしい。オリバーはウィルと会っているから、彼が帰ってきたら進捗報告の連絡をくれ』

 ああ、そうだった。

 昨日はフェスティバルの最終日だった。あまり進捗が思わしくなく、最後はヤケになってお酒を飲んだんだっけ。そうして、ウィル君から連絡が来て……、そこまで思い出し、僕は周囲を見回す。オリバー君はまだ帰ってきてはいないようだった。

「……どうなったんだろう」

 子供の頃からの知り合いなのだ。二人がどうなったのか気になる。

 ぐぅ。

 しかし、そのタイミングで腹の虫が鳴ってしまった。

 僕は苦笑をして起き上がると身だしなみを整え外に出る。きっと食堂はしまっているだろうから、外に出て屋台で適当に食事をすませてこよう。






 宿のすぐ近くに競馬場があることに気が付き、僕は引き寄せられるように足を運んでしまう。今まで一度も見たことがなかったので、どんなものか見てみたいという好奇心に負けてしまったのだ。

 チケットを購入し、せっかくだからと馬券を買ってみる。適当な数字だったので当たるとは思えなかったが、ほんの記念のつもりだった。

 屋台でスープとパンを買うと、観客席に移動する。まだ始まるまでに時間があるようで、人もまばらだった。今からだと夕方の部を見て帰っても時間は大丈夫だろうと検討をつける。

「……あれ?」

 ふいに、少し前にいる人物に目を留める。パウル君だった。ひとりでぼんやりと誰も居ないトラックを眺めている。

「パウル君」

 僕は立ち上がり、彼の隣に移動する。パウル君は僕を見て、目を丸くしていた。

「あっ……、る、ルカス。どうしたの? 一人かい?」

 彼の手には馬券が握られていた。昼の部のもののようだった。

「うん。競馬に興味があって、来てみたんだ。パウル君はどうしたんだい? 一人?」

 見回すが、友人の姿もウィル君の姿もなかった。パウル君は肩を落として頷いた。

「あー、うん、そう。験担ぎのつもりで昼の部で賭けてみたんだけど、結果は惨敗。……やっぱり、僕に賭け事は向いてなかったんだろうなぁ」

 彼はぼんやりと空を見る。酷く疲れているようだった。

「験担ぎ? 何かあったの?」

「……母さんが、ウィルとの結婚に反対していてね。結婚をするんだったら、僕の研究資金を全部取り上げると言っているんだ」

「ああ……」

 昨日、ウィル君から聞いていた。

「聞いたよ。大変みたいだね。でも、もう少ししたらウィル君がお金を借りて来られると思うし……」

「故郷のご両親から借りるんだろう? 僕は断ろうと思っているんだ。さすがにそれは情けないよ」

 そういう話になっているのか。

 あえてそこのところには触れずに、何気ない様子で聞いてみる。

「じゃあ、どうするんだい?」

「うん……、僕の研究を欲しがってくれているところがあるんだ。友達もそこに務めていて、今なら彼が取り持ってくれると言っているし、行ってみようかなって」

 メウトのことだ。ピンときた僕は止めようとする。そこで将来レオン君を殺す病原体を作ってしまうからやめたほうがいい、と。

 しかし、何故そんな事を知っているのかと聞かれると困る。ループしていると告げて一切信じてもらえなかった過去を思い出した。

「……もしかして、メウトってところ?」

「ああ、知っていたんだね。うん、そこだよ。いろんな研究に出資しているから有名だったかな」

「……でも、やめたほうがいいんじゃないかな? ほら、今回のフェスティバルの発表でも、メウトの関係者の発表はあまりいい感じはしなかったし……」

 パウル君を正面から見つめ、誠意を表そうとする。彼は僕からそっと視線を外した。

「あー、うん。そりゃ、沢山の人に出資しているんだから、そういう人もいると思うよ」

「でも、メウトは獣人を差別するような発表ばかりしていただろう? 君は獣人のことが好きだったし、辛いんじゃないのかな」

 くしゃりとパウル君の顔が歪む。

「……それでも、僕に出資するって言ってくれたのはメウトだけなんだ」

 泣きそうな顔に僕は口をつぐんだ。お金がなければ研究は続けられない。今一番苦しんでいるのは彼だろうに。

「これから、メウトに行って話をつけてくるんだ。聞いてみて、本当に悪そうだったらやめるつもりだよ。……まぁ、多分話を受けることになると思うけど」

 くしゃりと笑うと、彼は立ち上がる。思わずその服を掴んでいた。

「僕も一緒に行くよ! このままだと心配だし」

 パウル君は目を丸くして僕を見る。

「え……、でも、ルカスは関係ないし」

「関係なくないよ! 同窓生じゃないか」

 彼は目を何度も瞬かせる。

「……そっか。ありがとう」

「僕も少しは研究のことわかると思うし、メウトが危なそうだったら僕が出資させてよ。少なくとも一年あれば今後の展望について何か道が開けるかもしれないし」

 絶対に彼がメウトに入るのは阻止しなければいけない。僕は彼の顔から目をそらさずに続けた。

「何かあったら、レオン君にもお金を借りられると思うよ。僕たち、シュタインを倒した時の報奨金がまだ残ってるし、レオン君なんかは、用心棒として結構お金を蓄えているようなんだ」

 続けると、パウル君は悲しそうに唇を引き結ぶ。何故そんな顔をするのかわからなくて首を傾げるとほぼ同時に競馬の開始時刻になり、レースが始まった。

 僕もパウル君も、一つもかすりもせず馬券はただのゴミになった。


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