ループももう17回目なので恋心を捨てて狼を愛でてスローライフを送りたい

箱根ハコ

文字の大きさ
上 下
69 / 84
第二章「さらに7回追加されました」

第二章第29話「以上で『ヒジリ様の出すフェロモンと魔獣の関係について』の発表を終わります~」

しおりを挟む
「それでは、以上で『ヒジリ様の出すフェロモンと魔獣の関係について』の発表を終わります~。質問がありましたら挙手をお願いします~」

 ペコリ、とお辞儀をした発表者の後、ホールのいたるところで人の手があがっていく。登壇者が指名をすると、次々と鋭い質問、指摘が飛んできた。

「……なんだか、怖いところだね」

 自分があの場所に居たらと思うと落ち着かない。僕は隣に座っているレオン君にひっそりと話しかけた。

 今は遥か東の国からの研究者の発表で、馴染みのない文化の話を楽しく聞いていたが、その後の質疑応答の時間は毎回肝が冷える。

「質問をしているのは基本的にはスポンサー側の人間だな。自分たちが金を出すにふさわしい研究か見極めているんだろう。それに、出版社側の人間もいる」

「ああ、たしかにさっきから出版社の人たちが質問をしていたね。そっか、それでスポンサーがつかなくても論文を本として発表するんだ」

 壇上にあがった登壇者はニコニコとした笑顔を絶やさないまま、そつなく返答をし、無事質疑応答の時間が終わった。

「次がオロスさんの発表だね」

 登壇者が入れ替わり、オロスさんが姿を表す。彼は緊張した様子なく、持ってきたポスターを黒板に貼り始めた。

 発表の内容は主に竜人の体の構造についてではあったが、僕は彼の話を聞いて不快に思った。彼の発表は竜人を人間ではなく素材としてみなしているのだ。竜人の逆鱗の力はヒドラの逆鱗よりも数倍力が強いとか、血液には若返りの効果があるとか。

 研究自体主観が多く、よくこの研究がこの場で発表できたな、と半ば怒り混じりに考えていると、彼の発表が終わった。約束通りパウル君が手を挙げ、質問時間を食いつぶしている。

 ここからメウトの研究者の発表が続くが、やはりどれも獣人関連の発表で、人間との差異を強調するものだった。中には獣人の品位を下げるものもあり、僕は大変気分が悪くなったのだった。






「少なくとも、これでメウト研究機関のスタンスははっきりしたな。反獣人団体だ。オリジンとは折り合いが悪いだろうな」

 発表が終わり、ホールから出てレオン君は呟く。人狼の彼からすると聞き苦しい場面が何度もあっただろう。

「そうだね……。でも、だとしたらなんで獣人との結婚斡旋所に出資しているんだろう? 普通だったら、むしろ禁止して潰すほうに回るんじゃないのかな?」

「斡旋所がやっていることはほぼ奴隷売買だろう? だったら、人間にとって獣人との間に価値観の溝があるほうが助かるからな」

 そう言われてみれば、あの斡旋所がやっていることは人間相手にすれば警察に捕まることだろう。警察がまともに機能していれば、の話だが。

 頬を膨らませていると、ピオさんとオリバー君が合流した。

 彼らはある程度調査を済ませたようで、手には屋台の食べ物を持っていた。

「よぉ、おつかれさん」

 貝のタレ焼き串を片手に、もう片手に麦酒を持ってピオさんは笑う。すっかりくつろいでいるようだった。

「お疲れ様です。どうでした?」

「まぁ、斡旋所と警官の癒着はしっかり見てきたな。前回追い返してきた警官が猫娘にでれっでれになって口説いてやがんの」

 ピオさんは肩をすくめる。僕は頬を引きつらせた。オリバー君は元気がないようで、唇を引き結んだままそんなピオさんをぼんやりと眺めている。

「オリバー君?」

 彼の顔を覗き込むと、彼はハっとして僕を見た。

「大丈夫?」

「あー、うん。でも、ごめん。俺もあんまりいい情報は引き出せなかったんだ。っていうのも、ほとんどの占い師が獣人お断りってスタンスでさ。だから仕方ないから適当に女の子を口説いて、その子の付き添いって体で探ってきたの」

「またそんな……」

 僕は半眼になり彼を見る。

「しょうがないだろ? てか、このオンガルは獣人フレンドリーじゃなかったのか? 至るところで獣人お断りって書いてあったんだけど」

 オリバー君は唇を尖らせる。確かに、結婚を認めているおかげで移住する人が増えているのに、獣人お断りというのはおかしい。

「一応俺も擬態の術で人間に化けはしたんだけど、一番人気のオーラを見るとかいう占い師に速攻バレちゃってさ。彼女が実行委員長だったみたいで、それからはずっと出禁。仕方がないから他のブースにでも、って思ったけど、獣人でも入れるブースが大道芸と食事ブースしかなくて、結局女の子数人とデートしただけで終わっちゃったよ」

 不満をあらわにしているものの、最後の一言でどうしても可哀想に思えない。

「占いの実行委員長? ということは、その人がウィルの義理の母か」

 レオン君が呟く。目に見えてオリバー君は嫌そうな顔をした。

「へぇ……、そうなんだ。あんなお義母さんがいるなんて、ウィルも大変だね」

 どこか突き放したような言い方だった。いまだに拗ねているのだろう。ピオさんもレオン君も困ったような顔をした。僕もあえて触れず、自分たちの得た情報を共有する。

「……そんなわけで、やっぱりというか何というか、メウトは獣人差別をしようとしている団体だってわかっただけだよ」

「ここのところ、各地で獣人の権利が拡大してきたからな。こういう反発もあるだろう」

 どこか他人事のように告げるレオン君は、けれどやはり疲労が見える。

「……まぁ、とりあえず今日のところはこれまでにして、少しでも祭りを楽しもうぜ。ほら、もうすぐ花火の時間だ」

 ピオさんが口を開くと同時に、夜空にパァン、と花火があがる。キラキラと舞う光の花はとても綺麗だった。

「うわぁ! 綺麗だね……! 僕、花火を見るのは何年ぶりだろう……」

 ここのところ、人混みが嫌でオッドリーの祭りですら滅多に行かなくなっていたので、久しぶりに見る花火にテンションがあがってしまった。

「前に見たのは当時預かっていた子にねだられて行った三年前だったな」

 レオン君が回答をくれる。そういえば、当時五歳の兎人を預かっていた。元気のいい子で、床に寝転がって手足をバタつかせて花火に行きたいとねだられたんだっけ、と当時を思い出して頬をほころばせた。

「オッドリーの花火も綺麗だが、こっちもいいもんだな」

 ピオさんが麦酒を飲み干しながら悦に浸っている。オリバー君は真顔で花火を見つめていた。てっきり彼ならば目を輝かせるものだと思っていたので意外な気がした。

「……オリバー君は、嫌な思い出でもあるのかい?」

 尋ねると、彼は弾かれたように僕を見た。思考の波に沈んでいたようだ。

「あー、うん。嫌な思い出ってわけじゃないけど、昔、ウィルと一緒にベルタール地方の花火大会に行ったのを思い出した。絶対また二人で見ようって約束したなぁって……」

 再び夜空に咲き乱れる花火に視線を移す彼の横顔は迷子の子供のようだった。

 パウル君と手を繋ぎ、微笑んでいたウィル君を思い出す。ちくちくと心臓が痛んだ。

「あの頃は、ウィルが何を考えているかは手に取るようにわかった。……でも、今は全然わかんないや。……わっ」

 眉尻を下げ、肩を丸めたオリバー君をレオン君が無言で頭をわしわしと撫でてあげていた。唇を尖らせるがあえて払い除ける気はないようで、オリバー君は顔を伏せた。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

タチですが異世界ではじめて奪われました

BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります! 読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです! 俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。 2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。 丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。 「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です! もちろんハルトのその後なんかも出てきます! ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

処理中です...