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第二章「さらに7回追加されました」

第二章第27話「よかった。元気でやっているようだね」

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 研究発表はそれぞれ三つのホールで行われる。大きなホールは入場料が必要で、大学の権威あるチームが発表を行う。

 中ホールはどちらかというと商業色が強く、発表をすることで自社製品を売る目的のようだった。

 最後の小ホールはというと、成人男性が両手を広げた程度の広さのブースが沢山設置されており、各々が好きにディスプレイを出来る仕様になっている。ここで在野の研究者や学生が自分の研究成果を展示し、スポンサーを募るというもののようだった。

「人狼と人間の幼児期における発達の違いから、ケットシーのまたたび講義まで、本当に色々な発表があるんだな」

「人狼の生態とツガイについて……。これは気になる……」

 大ホールで行われるメウトの発表につきっきりになる予定だったので、僕たちはチケットを二枚買ってロビーで時間を待つ。パンフレットを見ながら気になる発表項目について話をしていると、不意に後ろから話しかけられた。

「レオンさん、ルカスさん」

 柔らかな声で振り返る。ウィル君だ。パウル君も居る。二人は仲睦まじそうに手を繋いでいた。うまくやっているようだ、と胸を撫で下ろす。さらにその後ろに一人、ニコニコと笑っている薄青色の髪を持った男が立っていた。年の頃はパウル君、つまり僕たちと同じくらいに見える。

「ウィル君。よかった。元気でやっているようだね」

「はい、お二人も。久しぶりですね。まさかこんなところでお会いするとは思いませんでした」

 どうやらそういう設定でいくらしい。僕は笑って返した。

「うん。旅行のついでに研究発表を見にね。……久しぶりだね、パウル君。学校卒業以来かな?」

 パウル君は僕の方を見ていた。頬がやたら赤い。

「あ、うん! 久しぶりだね! 君は……、大人になったと言うか、綺麗になったね」

「え? そ、そうかな……」

 いきなり褒められて顔が熱くなった。レオン君以外の人にそんな事を言われるのは久しぶりで照れてしまう。レオン君の視線が突き刺さるのを感じ、必死でパタパタと手で顔を仰いで熱を冷ました。

「紹介するね。この人は僕の同僚でオロスって言うんだ。メウト研究所に務めていて、今回発表をするんだ」

 後ろに居た薄緑色の髪の男を紹介され、僕は手を差し出して握手をした。レオン君も同様に握手を返している。

「はじめまして。オロスと言います」

「はじめまして。登壇なされるんですね。がんばってください。僕たち、一日中見ている予定なので」

 メウト研究所という名前に反応をしつつも僕はなるべくあっさりと返す。オロスさんは肩をすくめた。

「いやぁ、なかなか緊張するものですねぇ。発表というものは」

「こいつ、教授陣からの質問が怖いからって僕になんでもいいから質問しろって言ってるんだ。おかげで今から僕も緊張しているよ」

 はは、とパウル君が笑う。それから、不思議そうに僕たちを見てきた。

「あの、でも、なんでレオン君と一緒にいるんだい? たまたま会ったのかな」

 パウル君は首を傾げる。僕は迷いなく答えていた。

「実は僕たち、卒業後恋人になったんだ!」

「………………………………………………え?」

 笑顔で告げると、ぽかん、とパウル君が口を開ける。レオン君は気まずそうに口に手を当て、ウィル君は黙って成り行きを見守っていた。

「あの、え? あれ? え? でも……」

 助けを求めるようにパウル君がレオン君を見る。彼は苦しそうに肯定した。

「すまない……。言えなくて。実はそうだったんだ」

「え…………」

 パウル君が顔を青くしている。僕はハっとしてレオン君を見た。

「あれ、もしかして隠していたの? 言っちゃダメだった!?」

 レオン君はオッドリーにいる間、オリジンの団員に僕のことを恋人として紹介してくれている。今回もそんな感じで紹介してくれると思っていたから自分から言ったのだ。

「いや……、いつかは言うつもりだったから」

 けれどレオン君は気まずそうにしている。もしかしたらパウル君は同性愛に苦手意識があるのかもしれない。けれど、パウル君の選んだウィル君は男である。どうしたのだろう、とパウル君の方を見ると、真っ青な顔をしていた。

「あの、パウル君……」

「パウルさん。そろそろ行きませんか? 僕、喉が渇いたのでジュースが飲みたいです」

 僕の言葉を遮るようにウィル君が口を挟み、半ば引っ張るようにパウル君を連れて行った。彼なりに気を利かせてくれたのだろうか。残されたオロスさんは僕とパウル君の背中を交互に見て、ニヤっと笑う。

「なるほどねぇ。アナタが噂の君だったってことですか」

「え? 噂の……?」

「なかなかいい男を連れているじゃあないですか。どうぞ、末永くお幸せに」

 底の見えない笑みに、含まれた意味があるのかと首を傾げる。さきほどから何なのだろう。レオン君は頭を抱えていて、教えてくれる気配はなさそうだ。

「それでは、私はリハーサルがありますので」

 ひらひらと手を振ってオロスさんが踵を返し、歩き去る。後ろ姿を見ながら、僕は不安になって聞いてみた。

「一体なんだったんだろう……」

 レオン君は視線をあわせてくれない。何かを知っていそうなのに、彼ははぐらかすだけだった。

「さぁな……。まぁ、そういうこともあるだろう」

「そういうこと?」

 ますます意味がわからない。不思議に思っていると、レオン君は屋台に連れて行ってくれ、何でも好きなジュースを奢ると言ってくれたのだった。


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