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第二章「さらに7回追加されました」
第二章第25話「一日中そばにいてくれて、寂しいことはありません」
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四人で話し、僕たちがまず行ったところは警察だった。
旅人を連れ去り、人身売買をする斡旋所がある。そう告げた時に警官は嫌そうな顔をし、斡旋所の名前を口にした瞬間、警官をからかうなとつまみ出された。
「……からかうも何も、実体験なのに」
宿屋に戻り、僕は唇を尖らせる。ピオさんは腕を組んでうんうんと頷いていた。ピオさんとオリバー君の部屋で僕たちはベッドに座り、今後について話し合うことにしたのだった。
「こんだけわかりやすい癒着ムーブをされたらむしろありがたいくらいだよな」
「癒着?」
僕が首を傾げると、ピオさんは人差し指をピンとつきたてた。
「現場でもみ消そうとしていただろう? あれは、警官のほうであの斡旋所には手を出すなって命令が下っている可能性があるな」
「……それは、元警官としての感ですか?」
尋ねると、ピオさんは片眉をあげた。
「あれ? 俺が元警官って言ったっけ?」
「言っていました。……前回のループでですけど」
「ああ……、なるほど。なんだかややこしいな。まぁ、前回の俺がどこまで言ったのかはわからないけど、たしかにオッドリーもそういうところがあったからなぁ。だから俺も嫌になって警官を辞めてレオンと一緒にオリジンを作ったんだけどさ」
その後、経営や事務については向いているスタッフにまかせ、レオン君とピオさんはもっぱら現場仕事を請け負っていると聞いた。ガシガシとピオさんは自分の頭をかく。
「しかし、そうすると中々厄介だぞ。仮にあの斡旋所を制圧したとして、俺たちに逮捕は出来ないからな」
レオン君の言葉にうんざりしたようにピオさんは腰掛けていたベッドに倒れ込んだ。
「それなんだよなぁ。事件をもみ消されないようにわざわざ他の街に持っていかなきゃいけないのはキツいなぁ」
「連絡係は俺がするよ。飛べば数時間だし」
オリバー君が提案する。
「そりゃありがたい。そのうちお願いするわ」
ぐったりと天井を見続けるピオさんだったが、ふいに体を震わせ、腰につけていた革袋からトランシーバーを取り出した。
彼は起き上がり、全員に聞こえるように差し出す。
『すみません。中々連絡が取れなくて……』
ウィル君からだった。
「ううん。どうだい? パウル君は、君に良くしてくれている?」
尋ねると、少しの沈黙の後に肯定の返事があった。
『……そうですね。すごくいい人ですし、一日中そばにいてくれて、寂しいことはありません』
僕の隣にいたオリバー君が唇を引き結ぶ。
『研究のことも色々教えてくれて、まだ二日ですけど楽しい時間を過ごしています。……………………。そうそう、パウルさんのお母さんが今度のフェスティバルで占いブースをやるらしいですよ。……………………。よかったら行ってみたらどうでしょうか?』
彼からの通信には何故か途中やたらと沈黙が入る。どうしたのだろうかと頭を傾げていると、レオン君がどんどん厳しい表情になっていっていた。
「そういえば、街中のいたるところにチラシを見たな」
ピオさんが頷く。僕も脳内に街中で見かけたチラシを思い出した。
「そうだね。時間があったら行ってみるよ」
「ウィル。………………」
レオン君が重い口調で通話の相手の名前を呼ぶ。
『…………。はい』
「体調はどうだ? 変わりないか?」
『はい。おかげさまで』
「そうか。ならいい。また何かあったらすぐに連絡をくれ。…………」
『………………。ありがとうございます』
そうして、通話は切れてしまった。やたら間のある会話だったな、とレオン君を見ると、彼は眉間にシワを作り、片手で顎をさすっていた。
「どうやら、思っていたよりも状況は悪いらしい」
重い口調だった。僕はびっくりして目を丸くする。
「え? 一体さっきのどこにそんな要素があったんだい?」
「人狼は人間の姿でも耳がいい。すごく微かな声でウィルが別の情報を伝えてきた」
「ああ、あの沈黙はそういうことだったのか」
ピオさんが納得しているかのように腕を組む。オリバー君も頷いた。
「レオンの口が小さく動いているなって思っていたんだ」
どうやら気がついていなかったのは僕だけらしい。
「とりあえず、いつもパウルが隣にいるからウィルの方はあまり動けないようだ。これはさきほどウィル本人が言っていたな」
「え? あれって幸せな報告じゃなかったのかい!?」
また僕は驚いてしまう。普通にパウル君とうまくやっていると伝えたかっただけだと思っていたのだ。
「愛し合っている二人ならね。でも、今ウィルは潜入捜査をしているんだ。四六時中一緒にいられたら自由に動けないだろ」
オリバー君が冷めた口調で告げる。ショックを受けているかと思ったが、表面上は冷静なようで安心した。
「とりあえず、俺とルカスは今度はメウトについて調べるから、オリバーとピオは引き続き斡旋所について調べてもらえるか?」
レオン君がそう結ぶ。彼の指示に不満はなかったようで、ピオさんもオリバー君も了承の意を返した。
旅人を連れ去り、人身売買をする斡旋所がある。そう告げた時に警官は嫌そうな顔をし、斡旋所の名前を口にした瞬間、警官をからかうなとつまみ出された。
「……からかうも何も、実体験なのに」
宿屋に戻り、僕は唇を尖らせる。ピオさんは腕を組んでうんうんと頷いていた。ピオさんとオリバー君の部屋で僕たちはベッドに座り、今後について話し合うことにしたのだった。
「こんだけわかりやすい癒着ムーブをされたらむしろありがたいくらいだよな」
「癒着?」
僕が首を傾げると、ピオさんは人差し指をピンとつきたてた。
「現場でもみ消そうとしていただろう? あれは、警官のほうであの斡旋所には手を出すなって命令が下っている可能性があるな」
「……それは、元警官としての感ですか?」
尋ねると、ピオさんは片眉をあげた。
「あれ? 俺が元警官って言ったっけ?」
「言っていました。……前回のループでですけど」
「ああ……、なるほど。なんだかややこしいな。まぁ、前回の俺がどこまで言ったのかはわからないけど、たしかにオッドリーもそういうところがあったからなぁ。だから俺も嫌になって警官を辞めてレオンと一緒にオリジンを作ったんだけどさ」
その後、経営や事務については向いているスタッフにまかせ、レオン君とピオさんはもっぱら現場仕事を請け負っていると聞いた。ガシガシとピオさんは自分の頭をかく。
「しかし、そうすると中々厄介だぞ。仮にあの斡旋所を制圧したとして、俺たちに逮捕は出来ないからな」
レオン君の言葉にうんざりしたようにピオさんは腰掛けていたベッドに倒れ込んだ。
「それなんだよなぁ。事件をもみ消されないようにわざわざ他の街に持っていかなきゃいけないのはキツいなぁ」
「連絡係は俺がするよ。飛べば数時間だし」
オリバー君が提案する。
「そりゃありがたい。そのうちお願いするわ」
ぐったりと天井を見続けるピオさんだったが、ふいに体を震わせ、腰につけていた革袋からトランシーバーを取り出した。
彼は起き上がり、全員に聞こえるように差し出す。
『すみません。中々連絡が取れなくて……』
ウィル君からだった。
「ううん。どうだい? パウル君は、君に良くしてくれている?」
尋ねると、少しの沈黙の後に肯定の返事があった。
『……そうですね。すごくいい人ですし、一日中そばにいてくれて、寂しいことはありません』
僕の隣にいたオリバー君が唇を引き結ぶ。
『研究のことも色々教えてくれて、まだ二日ですけど楽しい時間を過ごしています。……………………。そうそう、パウルさんのお母さんが今度のフェスティバルで占いブースをやるらしいですよ。……………………。よかったら行ってみたらどうでしょうか?』
彼からの通信には何故か途中やたらと沈黙が入る。どうしたのだろうかと頭を傾げていると、レオン君がどんどん厳しい表情になっていっていた。
「そういえば、街中のいたるところにチラシを見たな」
ピオさんが頷く。僕も脳内に街中で見かけたチラシを思い出した。
「そうだね。時間があったら行ってみるよ」
「ウィル。………………」
レオン君が重い口調で通話の相手の名前を呼ぶ。
『…………。はい』
「体調はどうだ? 変わりないか?」
『はい。おかげさまで』
「そうか。ならいい。また何かあったらすぐに連絡をくれ。…………」
『………………。ありがとうございます』
そうして、通話は切れてしまった。やたら間のある会話だったな、とレオン君を見ると、彼は眉間にシワを作り、片手で顎をさすっていた。
「どうやら、思っていたよりも状況は悪いらしい」
重い口調だった。僕はびっくりして目を丸くする。
「え? 一体さっきのどこにそんな要素があったんだい?」
「人狼は人間の姿でも耳がいい。すごく微かな声でウィルが別の情報を伝えてきた」
「ああ、あの沈黙はそういうことだったのか」
ピオさんが納得しているかのように腕を組む。オリバー君も頷いた。
「レオンの口が小さく動いているなって思っていたんだ」
どうやら気がついていなかったのは僕だけらしい。
「とりあえず、いつもパウルが隣にいるからウィルの方はあまり動けないようだ。これはさきほどウィル本人が言っていたな」
「え? あれって幸せな報告じゃなかったのかい!?」
また僕は驚いてしまう。普通にパウル君とうまくやっていると伝えたかっただけだと思っていたのだ。
「愛し合っている二人ならね。でも、今ウィルは潜入捜査をしているんだ。四六時中一緒にいられたら自由に動けないだろ」
オリバー君が冷めた口調で告げる。ショックを受けているかと思ったが、表面上は冷静なようで安心した。
「とりあえず、俺とルカスは今度はメウトについて調べるから、オリバーとピオは引き続き斡旋所について調べてもらえるか?」
レオン君がそう結ぶ。彼の指示に不満はなかったようで、ピオさんもオリバー君も了承の意を返した。
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