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第二章「さらに7回追加されました」
第二章第22話「すごいお金だね! どうしたんだい!?」
しおりを挟む僕達と合流するなり、オリバー君は顔をしかめた。やはり彼の鼻はごまかせなかったか。けれど、あえて何も言わずベッドの端に寄る。横に座れるようにという配慮だろう。
ピオさんとオリバー君は宿屋のツインルームを取っていた。ベッドに挟まれて真ん中にローテーブルが置かれている。そこには大量の革袋が積まれていた。上の方にある革袋から中身が見えている。金貨だった。
「すごいお金だね! どうしたんだい!?」
この革袋に同量の金貨が入っているのだろう。だとしたら総額いくらになるのだろう。僕たちがシュタインを倒した時と同じくらい、もしくはそれ以上かもしれない。
「競馬でボロ勝ちした。……今となっては無駄なお金だけど」
オリバー君の目の下のクマがすごい。ピオさんは僕を見ると立ち上がり、片手を差し出してきた。
「君が噂のレオンのパートナーか。よろしく」
「あ、よろしくお願いします。……噂って?」
ピオさんとはこれまでのループで何度も会っている。改めて挨拶をされるのは不思議な気がした。
「レオンが誰にもなびかないのは絶世の美人がパートナーだからって、オリジンの中で噂になってんだよ」
「ひぇっ……」
体を震わせ一歩下がる。とん、と後ろに居たレオン君にぶつかった。
オリジンの中でレオン君が浮気をしていないのは喜ばしいが、そんなにハードルを上げられても困る。ラビィさんは僕を見てどう思っていたのだろうか。
「まぁまぁ、そんな怯えなさんなって。なかなかかわいい容姿をしているじゃん。レオンが心配するのも納得だわ」
「いえ! そんな……、恐れ多い」
レオン君は僕を隠すようにピオさんとの間に立つと、はぁ、とため息をついた。
「ピオ。あまりからかうな。それより昨日はどうしていたんだ?」
曰く、ウィル君を手に入れる為にお酒を飲んだ影響で二日酔いがすごく、さらには既にウィル君が買われてしまったことのショックでオリバー君は一日使い物にならなかったらしい。今も濃いクマがあるのは、良い睡眠が取れていないからだろう。
「ずっとコイツの付き添い。危なくて一人にしてらんねーだろ」
ピオさんは肩をすくめる。
「で、ルカスさんよ。アンタは直前までウィルと一緒に居て、しかもウィルが買われた時には喜んでいたって話じゃねぇか。アンタはどんな情報を知ってるんだ?」
さすがレオン君の同僚だ。話が早い。
僕とレオン君はそれぞれオリバー君とピオさんの隣に座ると、これまでの経緯を全て話した。ループしていることも、このままだとレオン君とオリバー君が死んでしまうことも含めて。
ピオさんもオリバー君も顔をかたくして僕の話に聞き入っていた。
「なるほど。事情はわかった。……しかし、そのパウルって奴はどうなんだ? お前たちはそう言うが、本当に信用出来るやつなのか?」
「出来ると思うよ! パウル君はとってもいい人なんだ!」
僕は力説する。少なくとも僕の知っている彼は優しく接してくれた。
「それは七年前の話だろ? 今はどうなんだ? 人間七年もあればいくらでも変わるだろう」
「昨日の時点では、俺の知っているパウルだった」
レオン君が口を挟む。三人の視線が彼に集中した。
「昨日?」
「ああ。競馬場で会っていたんだよ。結婚斡旋所に行く前の彼に」
「え!? 何で言ってくれなかったの!」
オリバー君が叫ぶ。
「あの時点ではただの同級生だっただろう。第一、それどころじゃなかった」
涼しい顔でレオン君が返すと、オリバー君はしゅんとうなだれた。
「まぁ、よかったじゃないか。ウィルが心底お前のことを嫌っていたら、何度も時間を巻き戻そうだなんて思わないだろ」
前回のループで魔力を提供したのはピオさんだが、それを聞いた彼は不思議そうな顔をしていた。今の時点ではウィル君とは面識がないので当たり前の反応だろう。
ずん、とオリバー君の雰囲気が重くなった。
「心の底から嫌われてはいない、けど、好かれてもいないと思う。もし俺だったら、半年後には死んでしまう相手を好きになったらずっとそばにいたいと思う。それこそ、死ぬ直前まで……」
彼の瞳が潤んでいく。思わず僕は口を挟んだ。
「それは、一回目や二回目ならそう思うだろうよ。でも、死ぬ瞬間は何度も繰り返すんだ。もう嫌だと思っても止めてもらえない。大好きな相手の死に目に何度も立ち会いたくないよ……。オリバー君からしたら一回目でも、ウィル君からすると今回が七回目なんだ。必死に解決法を探すんじゃないのかな」
「……それは、ルカスが巻き込まれたからそう思うんだろう? ウィルは自分で時間を巻き戻しているんだ。時間を巻き戻した上で俺と別れたいって言っているんだ」
てっきり僕はそれほどまでにウィル君はオリバー君達に生きていて欲しいのだと思っていたが、彼の解釈は違うらしい。
「ウィル君は、自分で自分の血を抜きながら魔力を注ぎ込んでいたんだ。それがどんなに辛くて苦しいことか、想像がつくかい? そんな思いをしてまで戻っているんだ。……彼を信じようよ」
真摯にオリバー君を見つめると、彼は悲しそうに目を伏せた。
「まぁ、ウィルの内心がどうかはわからねぇが、チャンスをくれたことには感謝するぜ。おかげで俺等は有利な情報をもらった上で今後のことに対処できる」
「うん。トランシーバーも渡しておいたし、何かあったら連絡をくれるはずだよ」
ウィル君からはいまだに連絡がない。きっと寝ているか、常に誰かが近くにいてそれどころじゃないのだろう。
「……わかった」
オリバー君はコクリと頭を縦にふる。ふいに、出会った頃の子供だった姿と重なり、思わず頭を撫でていた。彼は振り払いはせずに、うなだれている。
「とりあえず、オリバー。お前はオリジンの団員なんだし、しばらくは俺たちを手伝ってくれるか? 相談所の実態も探らなくてはいけないし、ウィルの話に出てきたメウトも気になる」
「……はい」
すっかり大人しくなった彼から手を離し、僕も話に入る。ラビィさんに秘密保持契約を結ばされたと告げると、ピオさんは僕にも手伝うようにと促してきた。
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