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第二章第15話「なかなか強い酒を飲むんだな」
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テーブルの上には買ってきたばかりの酒瓶が置かれていた。封は開けられておらず、手に取ったオリバーはコルクを抜く。
「テキーラ……、なかなか強い酒を飲むんだな」
ピオが呆れた声を出す。黄金の液体をコップに注ぎ、オリバーは目を瞑って飲み始めた。
さきほどまでルカスを探して走り回っていた体にアルコールがよく効いたようで、オリバーは一杯で体をテーブルに崩れさせる。
ルカスからの通信が来た時、ちょうど三人は合流したところだった。オリバーが空から探し、ピオは聞き込み、レオンは狼の姿になってルカスの匂いを辿っていた。けれどなかなか見つからない。
人通りが少なくなり、一度宿屋で合流し情報交換をしていたところにルカスからの連絡が入ってきたのだ。
「俺、才能が予知夢なんだけど、こうやってお酒でべろべろになったら、見たい夢が見られるようになるんだ。その分、体にダメージがあるからあまりやらないようにしてるんだけどね」
もう顔が赤い。呂律も怪しい。きっと彼は酒に強くないのだろう。
「オリバー君よぉ、君、そんだけ顔がよかったら相手なんざいくらでも寄ってきてくれるだろ? なんでフラれた相手にそんなに固執するんだよ」
ピオはもう一つの椅子に腰掛けオリバーを観察する。子供の頃から天使のように愛らしかった彼は、大人になった今、多くの人を虜にする美形に育っていた。
「……フラれてないもん」
涙目になっている。置き手紙一つで姿を消した事について、レオンはさきほど聞いていた。普通、そんな事をされたらフラれたものだと思うだろうが、彼は認めたくないようだった。
「竜人の執着とか言ってたが、確かに竜人は他の種族に比べて執着しやすいけど、さすがにここまでじゃないだろ? 和を尊ぶ種族なんだ。相手の意志を無視してまで縛り付けるのはどうなんだ?」
ピオは続ける。彼は竜人の幼馴染がいるので余計にそう思うのだろう。
「それは、南の地方の竜人だから。俺たち北の竜人は、一途なんですぅ~」
更にオリバーは酒を煽る。だいぶ言動が子供じみてきた。一歩間違えれば狂気と言える執着を一途と言い張るとは。はぁ、とレオンはため息をつく。
そんな彼の執着する相手、ウィルを説得すると言ってルカスからの通信が途切れてしまい、今は何度かけても応答がない。
昔からそうだった。
ルカスは自分がこうと決めたら突き進むところがある。学校の裏の水車小屋で爆弾を量産していた時には驚いたし、魔力量も少なければ武芸に秀でているわけでもない彼が旅に出ようとしていた時は本当に心配した。
レオンは魔術学校の六年生の頃にはルカスのことを認知していた。たった百名ちょっとしかいない同級生なのだ。六年もいたら他人の顔くらいは覚える。
当時、レオンが認識していた彼は、滅多に笑わない男だった。目を伏せ、簡単な応答しかせず、どこか一線を引いている印象だった。せっかく顔はかわいいのに、と男友達が残念がっているのを何度も聞いた。
そんな彼が、動物の姿の自分にはとろけるような笑顔を向けてくれるのだ。嫌悪していた獣の姿を何度も褒められ、大好きだと言われるうちに、人間の姿でもいつも彼のことを目で追うようになっていた。
けれど、人間の時にはそっけない態度しか取ってもらえない。
だから、狼の姿で会うのをやめられなかった。人間の姿で同行を断られたあと、未練たらしく狼になってまでついていったのだ。
今考えたら、かなり危ない行為をしているな、と自己嫌悪に陥る。眼の前で耳まで赤くしてアルコールを体内に流し込んでいる男に何も言えない。
「ウィルがいい……。ウィルがいいんだもん……。寄ってくる子も可愛いと思うけど、ウィルが世界で一番好きなんだもん」
べしょべしょと泣いている彼は、ウィルさえ絡まなければ絡みやすい好青年なのに。残念なイケメンっぷりを眺めていると、ピオは感心したように頷いた。
「なるほどなぁ。この年になると、そんなに他人に入れ込めないし、いっそ羨ましくもあるな。……よし、わかった!」
ドン、と胸を叩く。
「俺に任せろ! お前の予知夢の力を更に強めてやるよ!」
「え?」
「は?」
まさか彼が乗るとは思わなかった。ピオはオリバーの胸に手を当てる。
「……何?」
「俺の能力は増幅だ。自分、他人関係なく魔力を倍に増幅することが出来る。ただし、一時間だけだがな」
だからこそ彼はトランシーバーをここからオッドリーまでつなげる事ができるのだ。
「これで、お前は倍の強さで予知夢を見られる。それが、時間が伸びるのか当たる確率があがるのかどっちかはわからないがな」
「なにそれ……、助かる。お兄さんキューピットか……」
「お、いいな。若者のキューピット! 粋じゃねぇか」
「……おい」
やっとレオンが口を挟んだ。
「ルカスはどうするんだ」
「どうするも何も、彼は望んで残ったんだろ? 無理やり攫うわけにもいかねぇし……」
「ルカスはウィルが心配で残ってるんだから、俺がお金を払えばルカスも一緒に来てくれるって!」
ギロリ、とレオンは二人を睨む。それまでにルカスが誰かに手籠めにでもされたらどうしてくれるのだ。
「オリバーはまだわかるが、ピオ、お前は調査の方にもっときちんと力を入れろ」
苛つく気持ちそのままに告げると、ピオは頬を掻く。
「でもさ、お前の話を聞いている限り、最初の数日は研修で客の前には出さないんだろ? だったら、ウィルのほうがより残り時間が少ないだろ? 何かあったらトランシーバーもあるんだし、お前のパートナーはもう二十六歳なんだから、本当に危なければ自分で助けくらい呼べるだろ」
呼べるだろうし、自分で切り抜けられる力があるのはレオンも認めている。
なんといっても、あのミランダと対峙して、時間を戻すことで生き残った男だ。
けれど、心配してしまうのだ。
「よし! ここまで酔えば大丈夫!」
どんどん悪くなる空気を読んでいないのか、あえて無視しているのか、オリバーはそう叫んでベッドに横になる。ここはピオの借りている部屋で、ベッドは一つしか無い。
「は? おいちょっと、部屋は自分で取れよ……」
ピオの戸惑う声がする。レオンの部屋は隣だ。
いい気味だ、とレオンはため息を付いて自室に引き上げたのだった。
「テキーラ……、なかなか強い酒を飲むんだな」
ピオが呆れた声を出す。黄金の液体をコップに注ぎ、オリバーは目を瞑って飲み始めた。
さきほどまでルカスを探して走り回っていた体にアルコールがよく効いたようで、オリバーは一杯で体をテーブルに崩れさせる。
ルカスからの通信が来た時、ちょうど三人は合流したところだった。オリバーが空から探し、ピオは聞き込み、レオンは狼の姿になってルカスの匂いを辿っていた。けれどなかなか見つからない。
人通りが少なくなり、一度宿屋で合流し情報交換をしていたところにルカスからの連絡が入ってきたのだ。
「俺、才能が予知夢なんだけど、こうやってお酒でべろべろになったら、見たい夢が見られるようになるんだ。その分、体にダメージがあるからあまりやらないようにしてるんだけどね」
もう顔が赤い。呂律も怪しい。きっと彼は酒に強くないのだろう。
「オリバー君よぉ、君、そんだけ顔がよかったら相手なんざいくらでも寄ってきてくれるだろ? なんでフラれた相手にそんなに固執するんだよ」
ピオはもう一つの椅子に腰掛けオリバーを観察する。子供の頃から天使のように愛らしかった彼は、大人になった今、多くの人を虜にする美形に育っていた。
「……フラれてないもん」
涙目になっている。置き手紙一つで姿を消した事について、レオンはさきほど聞いていた。普通、そんな事をされたらフラれたものだと思うだろうが、彼は認めたくないようだった。
「竜人の執着とか言ってたが、確かに竜人は他の種族に比べて執着しやすいけど、さすがにここまでじゃないだろ? 和を尊ぶ種族なんだ。相手の意志を無視してまで縛り付けるのはどうなんだ?」
ピオは続ける。彼は竜人の幼馴染がいるので余計にそう思うのだろう。
「それは、南の地方の竜人だから。俺たち北の竜人は、一途なんですぅ~」
更にオリバーは酒を煽る。だいぶ言動が子供じみてきた。一歩間違えれば狂気と言える執着を一途と言い張るとは。はぁ、とレオンはため息をつく。
そんな彼の執着する相手、ウィルを説得すると言ってルカスからの通信が途切れてしまい、今は何度かけても応答がない。
昔からそうだった。
ルカスは自分がこうと決めたら突き進むところがある。学校の裏の水車小屋で爆弾を量産していた時には驚いたし、魔力量も少なければ武芸に秀でているわけでもない彼が旅に出ようとしていた時は本当に心配した。
レオンは魔術学校の六年生の頃にはルカスのことを認知していた。たった百名ちょっとしかいない同級生なのだ。六年もいたら他人の顔くらいは覚える。
当時、レオンが認識していた彼は、滅多に笑わない男だった。目を伏せ、簡単な応答しかせず、どこか一線を引いている印象だった。せっかく顔はかわいいのに、と男友達が残念がっているのを何度も聞いた。
そんな彼が、動物の姿の自分にはとろけるような笑顔を向けてくれるのだ。嫌悪していた獣の姿を何度も褒められ、大好きだと言われるうちに、人間の姿でもいつも彼のことを目で追うようになっていた。
けれど、人間の時にはそっけない態度しか取ってもらえない。
だから、狼の姿で会うのをやめられなかった。人間の姿で同行を断られたあと、未練たらしく狼になってまでついていったのだ。
今考えたら、かなり危ない行為をしているな、と自己嫌悪に陥る。眼の前で耳まで赤くしてアルコールを体内に流し込んでいる男に何も言えない。
「ウィルがいい……。ウィルがいいんだもん……。寄ってくる子も可愛いと思うけど、ウィルが世界で一番好きなんだもん」
べしょべしょと泣いている彼は、ウィルさえ絡まなければ絡みやすい好青年なのに。残念なイケメンっぷりを眺めていると、ピオは感心したように頷いた。
「なるほどなぁ。この年になると、そんなに他人に入れ込めないし、いっそ羨ましくもあるな。……よし、わかった!」
ドン、と胸を叩く。
「俺に任せろ! お前の予知夢の力を更に強めてやるよ!」
「え?」
「は?」
まさか彼が乗るとは思わなかった。ピオはオリバーの胸に手を当てる。
「……何?」
「俺の能力は増幅だ。自分、他人関係なく魔力を倍に増幅することが出来る。ただし、一時間だけだがな」
だからこそ彼はトランシーバーをここからオッドリーまでつなげる事ができるのだ。
「これで、お前は倍の強さで予知夢を見られる。それが、時間が伸びるのか当たる確率があがるのかどっちかはわからないがな」
「なにそれ……、助かる。お兄さんキューピットか……」
「お、いいな。若者のキューピット! 粋じゃねぇか」
「……おい」
やっとレオンが口を挟んだ。
「ルカスはどうするんだ」
「どうするも何も、彼は望んで残ったんだろ? 無理やり攫うわけにもいかねぇし……」
「ルカスはウィルが心配で残ってるんだから、俺がお金を払えばルカスも一緒に来てくれるって!」
ギロリ、とレオンは二人を睨む。それまでにルカスが誰かに手籠めにでもされたらどうしてくれるのだ。
「オリバーはまだわかるが、ピオ、お前は調査の方にもっときちんと力を入れろ」
苛つく気持ちそのままに告げると、ピオは頬を掻く。
「でもさ、お前の話を聞いている限り、最初の数日は研修で客の前には出さないんだろ? だったら、ウィルのほうがより残り時間が少ないだろ? 何かあったらトランシーバーもあるんだし、お前のパートナーはもう二十六歳なんだから、本当に危なければ自分で助けくらい呼べるだろ」
呼べるだろうし、自分で切り抜けられる力があるのはレオンも認めている。
なんといっても、あのミランダと対峙して、時間を戻すことで生き残った男だ。
けれど、心配してしまうのだ。
「よし! ここまで酔えば大丈夫!」
どんどん悪くなる空気を読んでいないのか、あえて無視しているのか、オリバーはそう叫んでベッドに横になる。ここはピオの借りている部屋で、ベッドは一つしか無い。
「は? おいちょっと、部屋は自分で取れよ……」
ピオの戸惑う声がする。レオンの部屋は隣だ。
いい気味だ、とレオンはため息を付いて自室に引き上げたのだった。
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