ループももう17回目なので恋心を捨てて狼を愛でてスローライフを送りたい

箱根ハコ

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第二章「さらに7回追加されました」

第二章第10話「はい、ルカス。魚の骨取っておいたよ」

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「はい、ルカス。魚の骨取っておいたよ。スープは熱くない? もう少し待ってから食べようね。パンも食べる? はい、あーん」

 オリジンに明日まで待てと言われた夜、僕とオリバー君は定食屋で食事を取っていた。隣に座った彼は、甲斐甲斐しく僕に世話を焼く。今もほかほかと湯気の立つパンをちぎり、僕の口元へ持ってきてくれようとしていた。

「……オリバー君」

「ん?」

 ニコリと笑って彼は小首をかしげる。王子様のような顔でそんな事をされたら世の中の彼に好意を抱く人間は皆舞い上がってしまうだろう。

「さすがにここまではしなくて大丈夫だよ! 僕、もう二十六歳になるんだからね!?」

「……え」

 オリバー君は目を丸くして、正気に戻ったというように手元のパンを見た。

「……またやっちゃった」

 へにょ、とオリバー君は肩を落とす。無意識だったのか。だとしたら恐ろしい。そんな事を考えているとオリバー君は手に持ったパンを自分の口に運んだ。

「竜人はとにかく他人に尽くしたがるんだよ。集団で子育てをするから、体に刻み込まれた習性なんだよ……!」

「でも、ウィル君は受け入れてくれてたんでしょ?」

 オリバー君はゆっくりと首を横に振る。

「一年生の最初の頃まではね。それくらいから、周りにおかしいって言われるようになって、干渉しすぎないでって言われちゃった……。おかげで、二人きりの時しか世話を焼けない……」

 あ、へこんでる。
 僕は彼の様子を観察しながらほぐしてもらった魚の白身を口に運ぶ。

 彼は最初のうちは怒って強気に振る舞うが、やはりまだ十八歳。時間が経つにつれてこうして落ち込んでくるのだ。これまでの経験からして、明日になったらまた強気モードでウィル君を追いかけるのだろうが。

「……オリバー君はウィル君のどういうところを好きになったんだい?」

 せっかく二人きりなので、今まで気になっていたことを尋ねてみる。彼はん~、と宙を見た。

「俺って、キラキラしてるらしいんだよ。で、色んな人が寄ってきてくれるの」

「自覚してたんだ」

 苦笑を漏らす。

「でも、ウィルは俺がつかれている時とか、しんどい時の、キラキラしていない時でもそばに居てくれるの」

「オリバー君……」

 真剣な横顔に胸がきゅんとする。

「俺のことを好きな女の子に刺された時も、八股かけてるって噂流されてクラスメイトに冷たくされた時もずっと隣にいてくれたんだ」

「………………」

 いい話かと思ったら、オリバー君の素行に思うところがあり半眼になった。彼は慌てて僕の方に向く。

「ちょっと! ルカス! 何でそんな目してんの! 言っておくけど、俺は被害者だからね? 俺のことを好きな女の子が俺の知らないところでつきあってるとか寝たとか嘘ついて、結果として刺されたり八股してるって噂になっただけだからね!」

「……そっかぁ。ウィル君も大変だったんだね」

「え!? 俺は!?」

 わぁわぁ喚くオリバー君を見て見ぬふりをして食事を平らげる。

 彼の真剣な気持ちを知ってしまうと、余計前のループでのウィル君についての情報は言わないほうがいい気がしてしまっていた。結局過去のループでは別れた理由は教えてくれなかったな、と思い出す。

 オリバー君は友達として付き合うぶんには面白くていい人だが、恋人となると大変そうだな、と彼の拗ねた顔を見ながら考えた。彼からしたら僕に言われても余計なお世話だろう。

 逆にウィル君は、僕と近い性質を持っていると感じる。静かなところが好きで、孤独が苦にならない。きっと、オリバー君の世話焼き体質も二人きりの場所でなら受け入れる気がしていた。実際、彼は生まれた時から十八年間、オリバー君と一緒にいる。だからこそ、別れたと言われてもすぐに元に戻るだろうと思っていた。

 前回のウィル君の焦燥し痩せた様子を思い出す。このオリバー君が隣りにいて、痩せることはあるんだろうか。

「………………」

 良くない考えが頭をよぎる。本当に別れて数ヶ月経っていたのかもしれない。ちゃんと、真面目に聞いておけばよかった。何年経っても他人の心の機微を読み取るのは苦手だな、とこっそりとため息をついたのだった。
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