ループももう17回目なので恋心を捨てて狼を愛でてスローライフを送りたい

箱根ハコ

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番外編第一話

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 ただいま、という涼し気な声に僕は浮足立つ気持ちそのままにいそいそと玄関に急ぐ。今日は護衛任務を終えたレオン君が帰宅する日だった。

 オッドリーの郊外に買った家は一階にキッチンとダイニング、風呂場と僕の研究室があり、ここで薬を作り売ることで日々の生活費の足しにしていた。二階には寝室と、物置にしている部屋が二つある。レオン君は護衛任務で家を空けることが多いので多くは僕一人で使っていた。

「おかえり、レオン君……」

 三日ぶりに会う恋人にニコニコと寄っていった僕だったが、彼の姿を見て目を丸くして立ち止まった。
 正確にはレオン君ではなく、レオン君の隣りにいる二人の子どもの存在に、である。

「……この人がレオンさんの恋人ですか?」

「思ったよりちっちゃいね~」

 一人は狼の耳と尻尾、明るい茶髪に美しい金の瞳を持った人狼だった。年の頃は十歳前後だろうか。可愛らしい顔をしているものの、下がり眉とタレ目が大人しい印象を与えていた。
 もう一人は金色の髪に緑色の瞳、真っ白な肌、小さなドラゴンの羽に尻尾を持った竜人だった。年齢は人狼の子供と同じ位だと推測できる。大きな猫目は愛らしく、物怖じしない態度は利発そうだった。
 そんな二人がレオン君のズボンを掴み、周囲を見渡している。

「……え? レオン君?」

「悪い、ルカス。少し話を聞いてもらえないだろうか」

 レオン君は申し訳無さそうに肩を落とす。とりあえず立ち話もなんだから、と僕は三人を招き入れた。
 台所にはレオン君が帰宅するというので大量の食事を用意していた。そうは言っても僕は料理が上手ではない。買ってきたパンや焼いただけの肉、切っただけの野菜やチーズが並べられていた。

「うわぁ! 美味しそう!」

「こ、こら、迷惑だろう?」

 目をキラキラと輝かせる竜人に、人狼の子供が袖を引き止めている。レオン君は既にあった二脚の椅子を寄せると、子供用の椅子を二脚キャリーから取り出した。

「こちらの人狼の子供がウィル。竜人の子供がオリバー。今回の依頼の最中に保護した」

 レオン君が受けた依頼は警察の要人の護衛だったような気がする。詳しいことは守秘義務で教えて貰えなかったが、何故それで子供を保護するのだろう。
 考えが顔に出ていたのか、レオン君が気まずそうに視線をそらしながら続けた。

「……今回の依頼の詳しい内容は、違法に少数民族を捕まえて奴隷として売っている組織の摘発だったんだ。名のある商人や貴族が後ろについていて警察に手を回しているから、多くは動員できない。たった三人の警察が解雇覚悟で動いているところに手を貸していたんだ」

「……レオン君、そんな危険な仕事をしていたの……?」

 僕は真っ青になってレオン君を見る。下手をすると殺されていたかもしれない。レオン君は慌てて続けた。

「たまたま今回はそうなっただけで、いつもは安全を確認して仕事は引き受けている」

「…………」

 本当だろうか。じ、と上目遣いに見つめると、レオン君はしばらく黙った後、はぁ、と息を吐き出した。まるで、親に隠し事がバレた子どものようだった。

「……黙っていて悪かった。とはいえ、その少数民族が人狼や竜人、ケットシーを主としていたから見過ごせなかったんだ」

 人狼であるレオン君ならばたしかに放っておけないのだろう。僕は彼の連れてきた二人を見る。僕たちの間に流れている不穏な空気を察したのか、オリバー君が口を開いた。

「そうそう。俺たち故郷で暮らしていたのに拉致されちゃってさ~。まさに売られる前日だったんだよね」

「寸前でレオンさんが保護してくれて、組織の人達を逮捕してくれたんです」

 ウィル君も続く。奴隷商人から解放したレオン君に恩義を感じているのだろう、口調はどこか庇うようだった。
 子供二人にそんな風に言われてしまえば折れざるを得ない。詳しくは後で聞くことについて二人に話題を移した。

「君たちの両親はどうしたの?」

「売られちゃった」

 オリバー君が返す。両親が売られたというのに、あっけらかんとした口調だった。

「あの、でも、おかあさんたちはちゃんとレオンさんが探してくれるって……」

 ウィル君が続ける。彼らはレオン君に全幅の信頼を寄せているようだった。それはそうだろう。自分たちを拉致し、売ろうとした商人を捕まえ、親も見つけてくれると言ったのだから。義理堅く有言実行な彼はきっとやり遂げるだろう。
 レオン君は僕の方を向いて頭を下げた。

「そういうことなんだ。悪い、ルカス……。この子達の親を探し出して保護するまではこの家で預からせて貰えないだろうか。他に預けられる先がなくて……」

「え……」

 僕はまばたきをして二人に視線を向ける。大きくつぶらな瞳がじっと僕を見つめていた。
 ……かわいい。
 境遇を知ってしまうと無碍に出来ない。何よりウィル君の狼の耳や尻尾、オリバー君の羽や鱗で覆われた尻尾は僕の動物好きの心を刺激する。

「もちろん大丈夫だよ! ご飯を食べたら早速二階の物置部屋を片付けよう!」

 両手を握り、僕は答えた。途端にレオン君は頭をあげ、ほっとしたような顔をする。

「……よかった。出来るだけ早く見つけ出すようにするから」

「ううん。ゆっくりで大丈夫。……でも」

 僕は少し声を低くする。

「安全には十分気をつけてね。もしレオン君に何かあったら、僕は三日三晩泣いた後、後を追うからね」

 じ、とレオン君から顔をそらさずに告げる。真面目で情に厚いレオン君は止めても無理はするだろう。だから、こう言っておくのだ。そうすれば、彼は自分の安全を考えてくれるようになるだろうから。

「……わかった」

 レオン君は顔をほころばせて何度も頷いた。

「……何でそんなに嬉しそうなんだい?」

 あまり効いていなさそうな顔に僕は頬をふくらませる。レオン君は口元に手を当てて表情を隠しながら返した。

「……君が、そう言えば俺が無茶をしないと思っているんだと思うと……可愛くて」

 レオン君が言葉を選びながら言ったであろう言葉に僕は、かぁ、と顔中に熱が集まる。たしかに付き合い始めた当初なら絶対にこんな事は言わなかっただろう。
 僕はレオン君の精悍で綺麗な顔がこうして笑っているのに弱い。これ以上は真剣な顔を続けられなくてそっぽを向いて立ち上がった。

「ラブラブだね」

「うん……。レオンさん、嬉しそう……」

 子どもたちがひそひそと話をしている。僕たちが男同士でつきあっていることはレオン君から聞いていたのだろうが、それにしても子どもの前でする会話じゃなかったかもしれない。
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