ループももう17回目なので恋心を捨てて狼を愛でてスローライフを送りたい

箱根ハコ

文字の大きさ
上 下
24 / 84

第24話「皆さん、怪我はありませんか?」

しおりを挟む
 一度目はたくさん道に迷い、一日ではたどりつけなかったシュタインの居室だったが、十七回目ともなると最短ルートを迷いなく通ることが出来る。三人をそれとなく誘導しつつ僕はシュタインがいる広間の扉の前で立ち止まる。初めての時は扉を開けるなりシュタインの攻撃が飛んできてフィリップ君が殺されてしまった。

「何をされるかわかりません。万全の状態で臨みましょう」

 僕は全員に防御の補助魔法をかける。これにより今から三分の間なら全ての攻撃を跳ね返せる。
 そ、と扉を開ける。記憶通りに炎を纏った砲弾が飛んできた。レオン君とエミリアさんは難なく避けられたが、フィリップ君は避けられずにくらってしまう。補助魔法がなければ即死だった。

「うわ……っ! サンキュー、ルカス!」

 フィリップ君は満面の笑顔で僕を見る。彼が欠けるとこの後の戦闘はかなりつらいものがある。彼の生存を確認し、僕は攻撃系補助魔法をレオン君に、魔力系補助魔法をエミリアさんにかけた。
 まずはエミリアさんの攻撃である。彼女は足元に魔方陣を作り出し、そこから何発も光の矢がシュタインに向かって降り注いだ。

「……その程度か」

 シュタインは透明な声音で呟く。山羊の下半身の上に乗った人間の体はローブを纏っていた。黒髪を肩まで伸ばし、頭には大きな角が生えている。額には血のように赤い鉱石がついていた。

「結構な数の部下を配置していたが、案外早かったな」

 彼は酷薄に笑う。部下の死について悼んでも居ない表情だった。エミリアさんがどんどん光の矢を放つ。シュタインの頭についている宝石を狙っていた。しかしシュタインはあっさりと片手で弾き飛ばす。

「あまり強くないな。ここまで来たパーティは珍しいからどれほどのものかと思っていたが……」

 彼は悠然と座り直す。彼に言葉を返すことはせず、僕は更にエミリアさんに魔力強化魔法をかけ、彼女はガンガン矢を放っていた。光の矢は初級魔法で威力は弱い。さすがにシュタインはおかしいと思い眉間にしわを作ったが、もう遅い。

 ガン……。

 低い音を立ててシュタインの片方の角が切り落とされる。エミリアさんの方に注意を引き付け、その間にレオン君が近寄りシュタインの角を叩き落とす作戦だった。
 間髪入れずにレオン君はもう片方の角も折る。シュタインは驚愕に目を見開いた。

「な……ぜ……」

 シュタインの弱点は一見額の鉱石かと思うが、実際には角である。これを切り落とすと彼は塵となり死んでしまう。これには十五回目で気がついた。なので僕は事前に皆に作戦を提案し、三人は疑いながらも乗ってくれたのだった。
 シュタインは粒となり風に舞い、跡形もなく消えてしまう。

「……倒した、の?」

 恐る恐るエミリアさんが呟いた。

「まだです! 残党が襲ってきます!」

 言うとほぼ同時に扉から複数の鎧が入ってきた。皆一様に首から上がなく、アンデッドだとわかる。一回目の僕はこいつらに殺された。

「まかせて!」

 エミリアさんは光の追尾弾を魔方陣から取り出すとアンデッド達めがけて放つ。シュタイン戦でほぼ消費しなかったため、彼女の魔力は余裕がある。まずは数匹片付いた。あとはひたすら倒すだけだ。

 僕はけして得意でない攻撃魔法を使って近寄るアンデッドを迎え撃つ。レオン君は、と見ると、彼は僕のすぐ後ろにいた。襲ってくるアンデッドを倒しながら、僕を守ってくれている。エミリアさんも同様で、フィリップ君を守りながら戦っているようだった。過去どのループにもこのパターンはなかった。

 呆気にとられているとあっという間にアンデッド達が倒されていく。
 こうして僕達はこれまでのループの中で一番の大勝利を収めたのだった。











「皆さん、怪我はありませんか?」

 僕は尋ねる。フィリップ君が足に怪我を負ったものの、歩けないほどではない。エミリアさんやレオン君も体や顔に傷を負っていたが軽微なものだった。僕にいたってはほぼ無傷である。

「ああ。……皆無事なようだな。よかった」
「びっくりするぐらいあっさりと倒すことが出来たな。それもほぼルカスの占い通りに」

 フィリップ君は自分の足を治しながら破顔する。僕も安堵から頬を緩めた。

「よかったです……。何事もなく終わって」

 エミリアさんは猫目を細めて笑った。

「ね。レオンとか、シュタインと戦う時にルカスやフィリップに何かあるかもって出来るだけ守ろうって言ってたし」
「おい」

 彼女の言葉を気まずそうにレオン君が咎める。どういうことだ、と彼の方を見た。エミリアさんは猫のような瞳を細めて続ける。

「レオン、ルカスが未来に対して不穏なことを言うから、この旅で死んじゃうかもって思っていたみたいなんだよね。で、ルカスが死ぬってことは、治療役のフィリップにも何かあるかもしれないってことでしょ? だから、私達で二人を守ろうって」

 目をぱちぱちと瞬かせる。ふいにシュタイン復活の日を思い出した。僕はいつまで生きられるかわからないと告げた。たったそれだけの言葉から彼は僕やフィリップ君の死を予想して防ごうとしてくれていたのだろうか。
 すごい。素直に思う。やっぱりレオン君は優しくて賢くてかっこいい。

「へぇ、そうなのか。すごいな、レオン」

 フィリップ君は今度はエミリアさんの傷を直しながらレオン君を称賛する。

「ん……、それっていつの話だ?」

 フィリップ君はエミリアさんに向き直した。

「大体半年くらい前かな?」

 彼女は宙空を見ながら答える。

「それって、やたらレオンとエミリアが二人で話すようになった頃?」
「え? そう見えていたの?」

 エミリアさんは不思議そうに首を傾げる。本人に自覚はなかったみたいだ。

「うーん、まぁ、確かにあの辺りからレオンと一緒に特訓をすることは増えたけど……」
「あー、本当に特訓してたんだ……」

 フィリップ君は気まずそうに視線をそらす。エミリアは腰に手を当て彼の顔を覗き込んだ。

「何? 疑ってたの?」
「いや! そんな事は!」

 フィリップ君はたじたじと一歩引き、レオン君の後ろに隠れる。レオン君はしょうがないと言うように微笑んでいた。

「ま、とりあえずこれで全員無事に帰れるわけね! ギルドに行って倒したことを報告してきましょう」

 エミリアさんも笑う。こうして僕達は無事にシュタイン城を後にしたのだった。

しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

処理中です...