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第10話「無事に僕が生き残ったら、君は一緒にいてくれるかい?」

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 この日以来、レオン君達三人が僕に絡む頻度が増えた。フィリップ君はクラスも同じだから二人で話す時間が増え、嬉しい半分、周囲の視線に不釣り合いと言われているようで怖かった。

 考えてみたら旅の間はひたすら敵を倒してたまに宿に泊まるくらいで周りの目なんて気にしていなかった。スクールカーストのある場所だとこんなに絡みづらい人たちなのか、と最近の僕は気疲れが絶えず、反動から放課後は日暮れまで水車小屋に入り浸るようになっていた。

 そんな日々が続いて冬を超え春になった。
 今日も水車小屋に足を運んだ僕は、鳩の飛び立つ音に心浮き立たせ扉を開ける。

「やあ。今日も来てくれたんだね」

 顔をほころばせ僕は狼に抱きつく。狼も尻尾を振ってくれているのが嬉しい。二、三日に一度の頻度で狼は水車小屋を訪れ、一時間ほど僕の隣でくつろいで帰っていく。この静かな時間を僕は何よりも尊いと思っていた。

 僕は作っていた爆弾を布で隠す。こんな事をしていると教師にバレたら反省文を書かされる上にチケットを三枚は取り上げられる。けれど、もうすぐミランダがシュタインを作るための材料集めを始める時期に入るのだ。少しでも戦いを有利に進めようと空いた時間に治癒薬や爆弾を作成していた。

 実は、前回のループではミランダの目論見を阻むのに成功はしたけれど、危ない場面が何度もあった。もし下手をしたら殺されていただろう。だから今回も万全の態勢で臨みたい。
 狼は匂いで爆薬に気がついたのだろう、布の上からフンフンと鼻を動かし、僕の方を振り向いた。

「危ないから近寄らないでね。今、爆弾を量産中なんだ」

 人の言葉なんてわからないであろう狼はぎょっとした顔をして僕を見上げた。ふふ、と僕は彼の頭を撫でる。

「大丈夫。ちゃんと部屋に持って帰るから。あと五日もすれば僕は旅に出るんだ。お守りに持っていくんだよ」

 狼はじっと僕の瞳を凝視していた。僕はソファに座って両手を広げる。狼は慣れた様子で隣に登り、僕の膝に頭を置いた。

「多分帰ってくるとは思うけど、帰ってこなかったら君は寂しがるかな……」

 今回も無事に生きて帰ると信じていたい。狼は頭を撫でる僕の手に自分の頭をこすりつけた。この子も寂しがってくれると言っているようだった。

「ふふ。ありがとう。君の為にも生きて帰らなくちゃな……」

 僕は決意を新たにする。
 この約半年で僕はとにかく自分を鍛えた。そうは言っても肉体的に強くなるのには限界があったので魔力を増やし、攻撃魔法をいくつも習得した。十六回分のトライアンドエラーの経験を活かし、効率よく僕は強くなっていった。それもこれもシュタインを倒し、全員生存ルートの上でハッピースローライフを営むためである。

 ちなみに、今回僕はレオン君とエミリアさんの恋路については何もしてこなかった。前回結婚というハッピーエンディングを迎えたのにもかかわらず僕はループしてしまったのだ。であれば、彼らをくっつけた所で未来が変わり、僕がループから抜け出せる確率は低いと思ったからだ。

 きっと、彼らは世界滅亡ルート、全員全滅ルートを除けば自然と結ばれていたのだろう。ならば恋愛偏差値が低い僕が下手に何かをするよりは、自然の成り行きを見守ったほうがいいんじゃないのかというのが僕の見解だった。

 さらに気になる事が二つある。
 一つは十五回目のループの際のレオン君の不審死だ。

 血だらけになって倒れていた彼に何があったか誰も知らない。考えられるのはシュタインの残党による襲撃だろう。だとしたら、生存したとしてレオン君を守らなければいけない。
 もう一つは、なぜ十六回目にループが起きたのか、である。僕がループを引き起こしていないのであれば、他に何か原因があるのだろう。もしくは、僕が夜中に殺されて死んだ原因を覚えていないか。

 どちらにせよ、原因を解明しないことにはスローライフは送れない。
 その為に日々の研鑽は欠かせない。レオン君を守り、不審者に殺されない体力。原因を解明するための知力。それらを鍛えるべく僕は魔術、体術ともに磨き、来るべき日に備えているのだ。

 とはいえ、休息は必要だ。先は長い。狼が来ている間は基本的に僕は彼の隣りにいて彼の毛皮を楽しむ事に時間を費やしていた。

「君は本当にかわいいなぁ……。全部終わったら君と一緒にスローライフを送れたら素敵だろうなぁ」

 僕は未来を夢想する。レオン君に愛されない事は頭では受け入れている。彼の幸せを願いつつ、心穏やかな日々を過ごせればそれでいい。そんな未来の僕の隣にかわいい狼が一緒にいてくれたら最高だと思った。
 狼は僕を凝視する。

「無事に僕が生き残ったら、君は一緒にいてくれるかい?」

 無駄だと思いながらも尋ねてみる。案の定、狼は顔を伏せた。僕は苦笑する。

「いきなりそんな事言われても困っちゃうよね」

 再び僕は狼の頭を撫でる。
 こうしてその日は一時間ほど一緒にいる時間を過ごし、狼は帰っていった。
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