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第1話「愛した男と、愛した男の愛した女性の結婚式」
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教会の鐘が鳴り響いている。
扉から出てきた二人の男女に来場者から花びらのシャワーが降り注いでいた。空は晴天。抜けるような青空に白いタキシードとウェディングドレスが映えている。
紛うことなき最良のハッピーエンドだ。
「よぉ、ルカス」
二人を見ていると、後ろから声をかけられた。
「フィリップ君」
先程までパートナーとなる女性と一緒に居た彼は、相変わらずの親しみやすさで僕に話しかけてきてくれた。
彼の名前はフィリップ・マイヤー。僕と一緒に怪物シュタインを倒した旅の仲間である。ポジションは体力、魔力を癒してくれるヒーラー。エメラルドのような艷やかな髪を耳のあたりまで伸ばし、黄金の瞳を嬉しそうに細めている。
「お前なぁ。今日くらい嬉しそうにしろよ」
笑いながらフィリップ君はドンドンと僕の背中を叩いてきた。
またも表情に出ていなかったのだろうかと僕は慌てて口角を上げる。するとフィリップ君は堪えきれないというように吹き出した。
「ごめんごめん。冗談だって。今日のお前は本当に嬉しそうな顔をしているよ」
「……そうですか」
「たった一年だったけど、一緒に居てお前の表情くらい見分けられるようになったからな。最初は感情ないのかと思っていたけど」
フィリップ君は悪戯げな顔で僕を覗き込んでくる。
どうやら僕は自分で思っている程には感情が外に出ないタイプらしく、よく鉄仮面だとか人形だと揶揄されていた。けれど、フィリップ君を始めとする僕の旅の仲間は次第に僕の扱いや表情の変化をわかるようになっていったようで、今は以心伝心ができる良い仲間になっていた。
フィリップ君は新郎新婦に視線を移す。
相変わらず幸せそうな笑みを浮かべ、二人は友人や親戚に取り囲まれていた。
花婿の名前はレオン・シュナイダー。剣で魔物を切り倒すアタッカーである。黒い髪を短く切りそろえ、漆黒の瞳が嬉しげに細められていた。程よく日に焼けた肌につけられた無数の傷を今は真っ白な花婿衣装で隠している。
花嫁の名前はエミリア・ミュラー。遠隔攻撃魔法により遠くから敵を倒す魔術師だ。美しい黒髪を腰まで伸ばし、瞳は見る者全てを魅了する薄紫色だ。褐色の肌を白いドレスで包んだ彼女の美貌は散々見慣れた僕でも、この日ばかりは目を見張るものだった。
「まさかあそこがくっつくとは思わなかったよなぁ」
フィリップ君はしみじみと呟く。
「僕はお似合いの二人だと思っていましたよ」
僕は心の底から感じている事を口に出した。レオン君に恋をしていた身としては心臓が少し痛むが、昔ほどの狂おしい嫉妬は感じていない。
「お前、何かとエミリアにレオンのいい所を吹き込んでいたもんな」
唇を尖らせるフィリップ君に、バレていたのか。僕は苦笑を漏らす。
レオン君の事が好きだった。けれど、何度告白しても僕の恋心は成就しなかった。
だから、僕はレオン君の幸せを願い、そのために行動することにしたのだった。
「二人共、来てくれていたんだね!」
エミリアさんが話しかけてくる。いつもは化粧っ気のない彼女だったが、今日ばかりは濃い化粧が施されている。ドレスに映える、美しい姿だった。
「おう! おめでとうな! 凄く綺麗じゃねぇか!」
フィリップ君が二人に近寄る。彼はエミリアさんの正面に立った。僕もおずおずとフィリップ君の後ろから覗き込む。
「俺、実は昔お前の事好きだったんだよな。でも、レオンを選んだのは英断だったよ。レオンは世界一いい男だからな」
「えっ!?」
フィリップ君の言葉にエミリアさんの頬が赤くなる。フィリップ君はレオン君に向き直った。
「エミリアを幸せにしてくれよな。もし何かあったら俺が殴りに行くから」
「……ああ」
レオン君は苦笑する。フィリップ君とレオン君は学生時代から仲が良かった。寡黙なレオン君とお喋りなフィリップ君は名コンビとしてクラスのカースト上位にいて、一目置かれた存在だった。
「ルカスも来てくれてありがとう」
目を細めたままレオン君は僕に視線を移す。僕は頬が熱くなり、視界が滲むのを感じた。頬が緩む。
「おめでとうございます。心の底から嬉しいです。僕、君たちの幸せを本当に願っていました」
告げると、フィリップ君とレオン君は目を見張り、エミリアさんは瞳に涙を溢れさせた。どうしたのだろう、と思っていると、フィリップ君が僕の肩に手を置いた。
「お前、そんな風に笑えるんだな。可愛いじゃん」
「……そうですか?」
自分としては普通に笑ったつもりだったが、彼らからしたら珍しい事だったのだろう。逆に僕は今までどれだけ鉄仮面だったのだろうと口を尖らせた。
「ありがとう。ルカスにそう言ってもらえて嬉しい」
レオン君が微笑みかえしてくれた。慈愛の籠もった笑顔に、頑張って良かったと心から思った。
愛した男と、愛した男の愛した女性の結婚式。悔いはない。やりきったと断言できる。
だってこれは、僕が十六回もループしてようやく辿り着いた幸せなのだから。
扉から出てきた二人の男女に来場者から花びらのシャワーが降り注いでいた。空は晴天。抜けるような青空に白いタキシードとウェディングドレスが映えている。
紛うことなき最良のハッピーエンドだ。
「よぉ、ルカス」
二人を見ていると、後ろから声をかけられた。
「フィリップ君」
先程までパートナーとなる女性と一緒に居た彼は、相変わらずの親しみやすさで僕に話しかけてきてくれた。
彼の名前はフィリップ・マイヤー。僕と一緒に怪物シュタインを倒した旅の仲間である。ポジションは体力、魔力を癒してくれるヒーラー。エメラルドのような艷やかな髪を耳のあたりまで伸ばし、黄金の瞳を嬉しそうに細めている。
「お前なぁ。今日くらい嬉しそうにしろよ」
笑いながらフィリップ君はドンドンと僕の背中を叩いてきた。
またも表情に出ていなかったのだろうかと僕は慌てて口角を上げる。するとフィリップ君は堪えきれないというように吹き出した。
「ごめんごめん。冗談だって。今日のお前は本当に嬉しそうな顔をしているよ」
「……そうですか」
「たった一年だったけど、一緒に居てお前の表情くらい見分けられるようになったからな。最初は感情ないのかと思っていたけど」
フィリップ君は悪戯げな顔で僕を覗き込んでくる。
どうやら僕は自分で思っている程には感情が外に出ないタイプらしく、よく鉄仮面だとか人形だと揶揄されていた。けれど、フィリップ君を始めとする僕の旅の仲間は次第に僕の扱いや表情の変化をわかるようになっていったようで、今は以心伝心ができる良い仲間になっていた。
フィリップ君は新郎新婦に視線を移す。
相変わらず幸せそうな笑みを浮かべ、二人は友人や親戚に取り囲まれていた。
花婿の名前はレオン・シュナイダー。剣で魔物を切り倒すアタッカーである。黒い髪を短く切りそろえ、漆黒の瞳が嬉しげに細められていた。程よく日に焼けた肌につけられた無数の傷を今は真っ白な花婿衣装で隠している。
花嫁の名前はエミリア・ミュラー。遠隔攻撃魔法により遠くから敵を倒す魔術師だ。美しい黒髪を腰まで伸ばし、瞳は見る者全てを魅了する薄紫色だ。褐色の肌を白いドレスで包んだ彼女の美貌は散々見慣れた僕でも、この日ばかりは目を見張るものだった。
「まさかあそこがくっつくとは思わなかったよなぁ」
フィリップ君はしみじみと呟く。
「僕はお似合いの二人だと思っていましたよ」
僕は心の底から感じている事を口に出した。レオン君に恋をしていた身としては心臓が少し痛むが、昔ほどの狂おしい嫉妬は感じていない。
「お前、何かとエミリアにレオンのいい所を吹き込んでいたもんな」
唇を尖らせるフィリップ君に、バレていたのか。僕は苦笑を漏らす。
レオン君の事が好きだった。けれど、何度告白しても僕の恋心は成就しなかった。
だから、僕はレオン君の幸せを願い、そのために行動することにしたのだった。
「二人共、来てくれていたんだね!」
エミリアさんが話しかけてくる。いつもは化粧っ気のない彼女だったが、今日ばかりは濃い化粧が施されている。ドレスに映える、美しい姿だった。
「おう! おめでとうな! 凄く綺麗じゃねぇか!」
フィリップ君が二人に近寄る。彼はエミリアさんの正面に立った。僕もおずおずとフィリップ君の後ろから覗き込む。
「俺、実は昔お前の事好きだったんだよな。でも、レオンを選んだのは英断だったよ。レオンは世界一いい男だからな」
「えっ!?」
フィリップ君の言葉にエミリアさんの頬が赤くなる。フィリップ君はレオン君に向き直った。
「エミリアを幸せにしてくれよな。もし何かあったら俺が殴りに行くから」
「……ああ」
レオン君は苦笑する。フィリップ君とレオン君は学生時代から仲が良かった。寡黙なレオン君とお喋りなフィリップ君は名コンビとしてクラスのカースト上位にいて、一目置かれた存在だった。
「ルカスも来てくれてありがとう」
目を細めたままレオン君は僕に視線を移す。僕は頬が熱くなり、視界が滲むのを感じた。頬が緩む。
「おめでとうございます。心の底から嬉しいです。僕、君たちの幸せを本当に願っていました」
告げると、フィリップ君とレオン君は目を見張り、エミリアさんは瞳に涙を溢れさせた。どうしたのだろう、と思っていると、フィリップ君が僕の肩に手を置いた。
「お前、そんな風に笑えるんだな。可愛いじゃん」
「……そうですか?」
自分としては普通に笑ったつもりだったが、彼らからしたら珍しい事だったのだろう。逆に僕は今までどれだけ鉄仮面だったのだろうと口を尖らせた。
「ありがとう。ルカスにそう言ってもらえて嬉しい」
レオン君が微笑みかえしてくれた。慈愛の籠もった笑顔に、頑張って良かったと心から思った。
愛した男と、愛した男の愛した女性の結婚式。悔いはない。やりきったと断言できる。
だってこれは、僕が十六回もループしてようやく辿り着いた幸せなのだから。
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