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ミロ✕省吾番外編
ミロ✕省吾番外編6
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省吾が二次審査を通過し、来週発表だと聞いたのは意外にもノアからだった。 彼は蓮の食事のために城に来ていたサイから聞いたのだと言う。
「すごいねぇ。まさか省吾が学会で発表をするようになるとは思っていなかったよ」
相変わらずのほわほわとした笑顔でノアは手を叩いた。彼は昼休憩の時間を狙って食堂に行き、ミロを捕まえたのだった。昼の食堂は人が多く、ミロとノアは端の方の窓から外の景色が見える二人席を陣取っていた。
「前に省吾の研究結果としてライターっていう、熱板を魔力無しで温める道具を見せてもらったんだけど、商品化したらぜひ欲しいな」
昼定食を食べながらミロは返す。ノアはというと既に食べ終えたのか、元々少食なのか、菓子パンを一つ頬張るのみだった。
「ノアは学会で発表をしたことはあるのか?」
「俺?」
ノアは記憶を呼び起こすように人差し指を顎に当てて宙を向く。
「省吾が今回発表したところじゃないけど、召喚士試験の最終発表がスライドを使った口頭発表形式だったかなぁ。こういう人を呼び出したいとか、来たらどういう生活を送ってもらいたいかをプレゼンするの」
「そうだったのか」
これまでに召喚士試験の事については聞いたことがなかったので、ミロは新鮮な気持ちで彼の話に耳を傾けた。
「うん。とはいえ、今となったら自分が間違っていた気もするし、青いこと言っていたなぁって思うから消したい記憶なんだけどねぇ」
ノアは荒んだ瞳を虚空に向ける。省吾、蓮とタイプの違う二人に接してきて彼の考えも変わったのだろう。すぐにいつもの笑顔を貼りつけた。
「とはいえ、あのアカデミーでの研究発表は本当にすごいことだと思うよ。ミロ、一緒に見に行こうよ」
「おう!」
一般人も入ることが出来るが、アカデミー出身のノアが隣にいると心強い。ノアは再び真顔に戻り、声を潜めた。
「……省吾、嫌がらせの手紙ももらっているんでしょ? 心配だね」
「ああ……」
聞いていたのか。ノアは食べ終えた菓子パンの袋を降りながら続ける。
「昔からの伝統なのかな。アカデミーには陰湿な人も何人かいるから、気に入らない相手に嫌がらせの手紙を送ってくるんだよね。俺も随分やられた」
唇を尖らせ、ノアは机を人差し指でコツコツと叩く。
「そうだったのか?」
「うん。特に召喚試験前がひどかった。お前には無理だとか、そもそも他人、ヒジリ様の気持ちを理解出来るのかとか、そういう手紙がたくさん送られてきたんだぁ」
当時の事を思い出したのか、ノアはつまらなさそうにため息をつく。
「もちろん全部燃やしたけどね。いつの時代も嫌なことをする人がいるものだねぇ」
試験前のノアは忙しくミロとはあまり会えていなかった。ミロも新人兵士として仕事に慣れるのに一生懸命だったのだ。
「……酷いことを言う奴もいたもんだな」
ミロはノアが他人の感情、特に恋愛感情を理解するのが苦手であることをコンプレックスに思っている事を知っている。当時の彼が手紙に傷ついていたことは想像に難くない。
ノアは眉尻を下げた。
「だからさ、俺は省吾にはあんな嫌がらせには負けずに研究発表を成功させてほしいし、楽しく研究を続けてもらいたいんだよね」
ノアは口を閉じ、窓の外から城下町を見下ろした。アカデミーは一際高い、赤い屋根の建物でここからはすぐに見つけられた。
少なくともミロのこれまでの人生において、このような陰湿な嫌がらせは受けたことがなかった。周りが頭よりも体を動かす方が好きなタイプばかりだったので、不満があれば直接拳で語り合う方が多かったのだ。
「そうだな……」
ミロも窓に視線を移す。午前中は晴れていたのに、今は厚い雲が空を覆い、午後は雨となることが予想できた。
その日の終わり、ミロの元に省吾からの手紙が届いており、少し遅れて本人から二次通過の報を知らされたのだった。彼の手紙には嫌がらせの手紙については書かれておらず、心配させたくないのだろうな、と思うと今すぐ抱きしめたい気持ちになったのだった。
「すごいねぇ。まさか省吾が学会で発表をするようになるとは思っていなかったよ」
相変わらずのほわほわとした笑顔でノアは手を叩いた。彼は昼休憩の時間を狙って食堂に行き、ミロを捕まえたのだった。昼の食堂は人が多く、ミロとノアは端の方の窓から外の景色が見える二人席を陣取っていた。
「前に省吾の研究結果としてライターっていう、熱板を魔力無しで温める道具を見せてもらったんだけど、商品化したらぜひ欲しいな」
昼定食を食べながらミロは返す。ノアはというと既に食べ終えたのか、元々少食なのか、菓子パンを一つ頬張るのみだった。
「ノアは学会で発表をしたことはあるのか?」
「俺?」
ノアは記憶を呼び起こすように人差し指を顎に当てて宙を向く。
「省吾が今回発表したところじゃないけど、召喚士試験の最終発表がスライドを使った口頭発表形式だったかなぁ。こういう人を呼び出したいとか、来たらどういう生活を送ってもらいたいかをプレゼンするの」
「そうだったのか」
これまでに召喚士試験の事については聞いたことがなかったので、ミロは新鮮な気持ちで彼の話に耳を傾けた。
「うん。とはいえ、今となったら自分が間違っていた気もするし、青いこと言っていたなぁって思うから消したい記憶なんだけどねぇ」
ノアは荒んだ瞳を虚空に向ける。省吾、蓮とタイプの違う二人に接してきて彼の考えも変わったのだろう。すぐにいつもの笑顔を貼りつけた。
「とはいえ、あのアカデミーでの研究発表は本当にすごいことだと思うよ。ミロ、一緒に見に行こうよ」
「おう!」
一般人も入ることが出来るが、アカデミー出身のノアが隣にいると心強い。ノアは再び真顔に戻り、声を潜めた。
「……省吾、嫌がらせの手紙ももらっているんでしょ? 心配だね」
「ああ……」
聞いていたのか。ノアは食べ終えた菓子パンの袋を降りながら続ける。
「昔からの伝統なのかな。アカデミーには陰湿な人も何人かいるから、気に入らない相手に嫌がらせの手紙を送ってくるんだよね。俺も随分やられた」
唇を尖らせ、ノアは机を人差し指でコツコツと叩く。
「そうだったのか?」
「うん。特に召喚試験前がひどかった。お前には無理だとか、そもそも他人、ヒジリ様の気持ちを理解出来るのかとか、そういう手紙がたくさん送られてきたんだぁ」
当時の事を思い出したのか、ノアはつまらなさそうにため息をつく。
「もちろん全部燃やしたけどね。いつの時代も嫌なことをする人がいるものだねぇ」
試験前のノアは忙しくミロとはあまり会えていなかった。ミロも新人兵士として仕事に慣れるのに一生懸命だったのだ。
「……酷いことを言う奴もいたもんだな」
ミロはノアが他人の感情、特に恋愛感情を理解するのが苦手であることをコンプレックスに思っている事を知っている。当時の彼が手紙に傷ついていたことは想像に難くない。
ノアは眉尻を下げた。
「だからさ、俺は省吾にはあんな嫌がらせには負けずに研究発表を成功させてほしいし、楽しく研究を続けてもらいたいんだよね」
ノアは口を閉じ、窓の外から城下町を見下ろした。アカデミーは一際高い、赤い屋根の建物でここからはすぐに見つけられた。
少なくともミロのこれまでの人生において、このような陰湿な嫌がらせは受けたことがなかった。周りが頭よりも体を動かす方が好きなタイプばかりだったので、不満があれば直接拳で語り合う方が多かったのだ。
「そうだな……」
ミロも窓に視線を移す。午前中は晴れていたのに、今は厚い雲が空を覆い、午後は雨となることが予想できた。
その日の終わり、ミロの元に省吾からの手紙が届いており、少し遅れて本人から二次通過の報を知らされたのだった。彼の手紙には嫌がらせの手紙については書かれておらず、心配させたくないのだろうな、と思うと今すぐ抱きしめたい気持ちになったのだった。
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